毛糸の恋人

もなか

文字の大きさ
3 / 11

あみぐるみ教室開幕

しおりを挟む
「白戸さーん!」

昨日のカフェの前で、大きく手を振る小原田さんの元へと向かった。

「ごめんなさい。待ちましたか?」

「いえいえ!大丈夫ですよ!僕も少し前に来たので!じゃあ、乗って下さい!」

小原田さんの車は林檎みたいに真っ赤な軽自動車だった。なんだか小原田さんに似ている。

「車、持っていたんですね。」

「はい!学生の時からバイト代を貯めて、最近やっと購入したんです!」

嬉しそうに、ほわほわした笑みでハンドルを撫でている。

「可愛い車ですね。ちょっと小原田さんに似ています。」

「ええー!似てますかね!?」

「似てますよ。林檎色でタレ目っぽいライトとか、そっくりです。」

穏やかに過ぎていく時間が楽しい。車で二人っきりなんて、死ぬほど嫌だったのに。



「ここが僕の部屋です!」

案内されたのは、安全面もしっかりしたマンションの一室で、小原田さんの部屋はきちんと整理されていた。

玄関にはゼラニウムが飾ってあり、小原田さんお手製の玄関マットがひかれていた。

「パッチワークで作ってみたんです!」

ちょっと形が歪んでいるのは愛嬌だろう。
部屋に入ると、ふわりと小原田さんの匂いがした。たぶん、柔軟剤の匂いだと思う。

「座っててください!今お茶入れていますね!」

クッションカバーやテーブル掛けなどなど、小原田さんが作ったらしいものが、部屋を彩っている。自分が作ったものを大事に使っているのがわかる、素朴で可愛い部屋だ。

「白戸さん!紅茶とコーヒーとカモミールティーなら、どれがいいですか?」

「では、紅茶を。」

小原田さんの作品を見ていると、

「お茶入れました!どうぞー!」

と声がかかった。ありがたく頂いた。

「このクッキーは友人から頂いたんです。最近、夢の国へ行ってきたみたいで。可愛いですよね!このクッキー!」

「夢の国は割高ですが、その分可愛くて美味しいものを提供してくれますよね。」

ほくほくとクッキーを食べている小原田さんは、リスみたいだ。

ひとしきり、夢の国談義に花を咲かせたあと、いよいよ編みぐるみを教える事になった。



「ふむ…基本的な技術はありますね。」

小原田さんが作ったという、くまのあみぐるみを見た。不器用ながらに格闘した後がある。きっと、たくさん練習したのだろう。私は、小原田さん指導法の路線を変更した。

「そうそう。そこでこうして…」

ゆっくり、丁寧に。小原田さんが綺麗に編めるように…



そうして、いつの間にか日は暮れていた。
小原田さんは苦労しながら、くまのあみぐるみの頭の部分を編み上げた。

「ごめんね、白戸さん…こんなに遅くまで…」

「いいんですよ。気にしないでください。」


小原田さんは夕飯に誘ってくれたが、どちらも明日は早かった。丁重にお断りし、小原田さんに家の一歩手前まで送ってもらった。

「それでは、これで。」

車から降りようとした時、手を掴まれた。

「あ、あの、白戸さん!また、今度!」

「ええ。また、今度。」

そう言って、今度こそ私は車を降り、家に帰った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました

美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。 そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。 だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。 そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。

処理中です...