毛糸の恋人

もなか

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林檎がころんと転がり込む

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次回は意外にも早くやってきた。

「白戸さん!!」

会社の中で話しかけられた。帰宅する途中だった。ビクリと肩が震える。

「お疲れ様です!」

「お、疲れ様です…」

イケメンと地味女の組み合わせが珍しいらしく、多くの視線を集めている。

「今から帰りなら、途中まで一緒に帰りませんか?」

「いえ、急用があるので…!!失礼します!」

そうして、視線から逃げるように私は会社から飛び出した。


『こんばんは。用事は大丈夫でしたか?会社の中で話しかけてすみません。かなり注目を集めてましたよね。同僚に言われて気付きました。辛い思いをさせてすみませんでした。』

そんな謝罪が来たのは、帰ってすぐだった。
違う。私が逃げただけなのだ。

『こちらこそ逃げるようにして、すみませんでした。見られるのが苦手で、あのような事をしました。すみません。』

きっと、彼は今頃落ち込んでいるのだろう。
あ、でも何か用があったのだろうか。

『何か私に用事があったのですか?』

聞いてみると、すぐに返信が来た。

『また、あみぐるみを教えて欲しいんです。練習したので、前よりも良くなっていると思います。今日はその事を話そうと思っていました。』

ああ、そうだ。次回もとあの帰り際に話したのだ。彼との時間はとても穏やかで、楽しい。頑張って編む姿も可愛くて素敵だった。

私は了承の旨を送り、小原田さんと予定を合わせた。来週の金曜日になった。

「楽しみだな…」

自然と笑みが零れた。



待ち合わせ場所の、あの喫茶店に向かった。やっぱり小原田さんは先にいて、私の姿に気付き、大きく手を振った。

「こんにちは。小原田さん。お待たせしました。」

「こんにちは、白戸さん!大丈夫ですよ!」

そして、私の手にある紙袋に気付いた。

「これはアップルパイです。美味しいお店があるので、買ってみました。ぜひ、食べてみて下さい。」

「アップルパイ!僕、大好きなんです!パイ皮のさくさく食感が楽しくて!ありがとうございます!」

飛び跳ねんばかりに喜ぶ小原田さんが可愛くて、ちょっとにやけてしまった。

「さて、行きましょう!」

そんな私には気付かず、林檎色の車のドアを開けてくれた。

「ありがとうございます。」


前と同じく、玄関にはゼラニウムが咲いていた。ちょっと違うのは部屋に小さなひよこ達がいることだった。

「それは、近所のおばさんに貰ったんです。挨拶する程度だったんですが、ある日どうぞって。似合うからって言って、持ってきてくれたんです。」

お茶をいれながら、嬉しそうに話してくれた。

「可愛い!近所の方、すごく上手ですね!ここの所とか綺麗に編まれています!」

こんな綺麗に編めるなんて、ご近所さん凄い!!

「ですよね!それから、ちょくちょく話すようになったんですが、2年前まで編み物の先生をしていたみたいです!僕もこんなふうに、編めるようになりたいな~!」

「なれますよ。そのために、練習してるのですから。」

上手く出来たら、彼はそのあみぐるみを持って、好きな人に告白するのだろう。このあみぐるみ教室は、そのためのものだ。もやもやした気持ちが湧き上がった。慌てて飲み込む。

「さ、始めましょう。今日は胴体です。」

前よりも格段に上手くなった小原田さんは、早くはないが、私の話を聞き、確実に丁寧に編んでいく。

そうして、少し暗くなった頃に胴体が完成した。

「うん。綺麗に編まれていますね。」

「やったー!白戸さん、ありがとう!」

やりきったように、清々しい笑みを浮かべる小原田さん。

「それでは私は帰りますね。」

「あ、送っていきます!」

言うより早く、鍵を持って車の方へ行ってしまいました。



「今日もありがとうございました!これ、拙いものですが…」

そう言って、小原田さんは私に可愛いコースターをくれました。

「いいんですか!凄い…刺繍が凝っていて、可愛いです。」

「1番上手く出来たものなんです。もしよければ、使ってください。」

照れて、頬が林檎みたいに真っ赤だ。

「ありがとう、ございます。大事にしますね。」

どうしよう。すごく嬉しい。胸が何か知らない、暖かいもので満たされていく。

「よかった…気に入ってくれたみたいで、嬉しいです。」

ふわといつも通りに笑ってくれたその顔から、目が離せなくなってしまった。

「春先は冷えますから、暖かくして寝てくださいね。それでは。」

こうして、2回目のあみぐるみ教室は閉幕となった。

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