毛糸の恋人

もなか

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転がる林檎は甘くなる

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ぴこん!とLINEの通知が来た。差出人は小原田さんだった。

『こんばんは!今週の水曜日、仕事が終わったらスイーツバイキングに行きませんか?』

水曜日の仕事帰り…多分大丈夫だ。

『いいですよ。』

と返信し、ちょっと考えてから、

『楽しみにしています』

と送った。なんだか無性に嬉しくて、ガッツポーズをしてしまった。



「白戸さん!こっちです!」

そうして、水曜日の仕事が終わった後、私は小原田さんとスイーツバイキングへ向かった。会社の人の目を気にする私を思いやってか、少し離れた場所で車に乗せてくれた。その気遣いにまた、ふわふわした。

そうして、小さなお店に到着した。

「にいちゃーーん!!来たよー!」

勢いよくドアを開け、中の人へ声をかける小原田さん。

「雪斗!!待ってたよ!」

そして、それを上回る元気な声が飛んできた。

「にいちゃ…??」

混乱する私を見て、悪戯っぽく小原田さんが微笑んだ。胸が大きく高鳴る。こんな表情もできるんだ…

「ここのケーキ屋『はるいろ』の店主件パティシエは僕の兄の晴也なんです!そして、今日は新作、試作ケーキの試食会です!」

「私、大した感想言えないですよ…?」

話が違うじゃないかー!と叫びそうになるのを堪える。

「いえいえ!食べてくれるだけでいいんです!ただ、美味しかったー!と言って欲しくて!今日は代金は貰いません!」

なるほどね。くちコミか。

「人脈ないけれど…美味しく頂きます。」

そう言って、席に着いた。



「んっ…!このロールケーキ、美味し!?」

中にイチヂクが入っていてる。さっぱりとした生クリームとイチヂクの酸味が溶けそうだ。

「それ、この中で1番の自信作なんです!」

ぱあっと顔をほころばせた晴也さんは、小原田さんそっくりだ。

「僕はチョコレートケーキの好きだなー!」

「それ、少し改良したんだ!どうだ?前より美味しいか?」

「うん!前のふわっとしたチョレートケーキも好きだけど、この重厚感のあるのも好き!」

甘いケーキに舌鼓をうち、和やかな会話が続いた。そうして、全てのケーキが私たちのお腹に収まった。

「今日はありがとうございました。どれも美味しくて幸せでした。ご馳走様でした。」

「いえいえ!こちらこそ、美味しくて食べてくれて、ありがとうございました!それに、弟がお世話になっているようで…!」

え、と小原田さんを見ると、

「兄ちゃんに白戸さんにあみぐるみ教えて貰ってるって話したんだ。そしたら、お礼も兼ねて試食会に招待しようって事になって。」

「そうだったんですか…ありがとうございます。」

嬉しかった。すごく。小原田さん兄弟はそんな私を見て微笑んでくれた。

「じゃ、俺達そろそろ帰るね!」

車の準備をしに行った小原田さんの元へ向かおうとしたら

「あ、白戸さん待って!」

晴也さんが小さな包みを私にくれた。

「これ、イチヂクのロールケーキ。少しだけど食べて。」

「ありがとうございます!!」

すごく美味しかったから、嬉しい。

「うちの弟は、すごく優しくて明るい、いい子なんです。白戸さん、どうかこれからも、弟をよろしくお願いします。」

私達の関係は!口を開こうとしたら、

「白戸さーん!帰ろー!」

小原田さんの声に遮られた。

「では、今日はありがとうございました!また、ぜひ来てくださいね!」

こうして、晴也さんとわかれた。



「小原田さん、今日はありがとうございました。とても美味しくて、びっくりでした。」

「よかったー!気に入ってくれて嬉しいです!また、一緒に行きましょう!」

また、次も一緒に…。

「はい、ぜひ。次が楽しみです。」

心の底からそう思えた。次を楽しみにする事も、久しぶりだった。満腹だからだろうか。
少しウトウトしてしまう。

「寝ていいですよ。起こしますから。」

その言葉に甘えて、目を閉じた。

「白戸さんは…可愛い、ですね。」

薄れゆく意識の中、聞こえてきた言葉。

「そんな事、ないです…でも私、小原田さんと一緒にいると、なんだかほわほわして…だから、可愛いとしたら、きっと…小原田さんだけなの…」

むにゃむにゃ、ぽろりと転がった言葉。
そうして、私は眠りに落ちた。

「っ~~~!!!!」

だから、その隣で悶絶する小原田さんには気付かなかった。


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