それでは聞いて下さい。「畑にイケメンが生えてる」

もなか

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A それを聞く前に、君はピーマンを食べなさい。

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爆速で皿を片付ける女の子。彼女は愛らしい見かけに似合わず、大食漢だ。ピーマン以外ならなんでも美味しいと食べてくれる。下らない争いと、血に塗れた1年前とは比べものにならないくらい、穏やかで幸せな生活を送っている。そんな憧れてやまない日常をくれた彼女が、俺は大好きなのだ。



どうして俺はこいつと戦っているんだろう。切り結び、飛び跳ね、躊躇なく的確に急所に拳を叩き込む。1年前、俺は相棒に裏切られて川に飛び込んだ。あいつの手にかかって死にたくなかった。

俺を精霊師なんぞにした両親。下らない事で争う貴族や、俺を色っぽい目で見つめてくる女達。足を引っ張り合う同僚に、裏切った相棒。冷たい川の中で、俺はあらゆるものを呪いながら意識を飛ばした。


「は…?」

死んだと思ったのに、陽の光で起きた。カビっぽくない、柔らかくてお日様の匂いがするベット。簡素だが手入れが行き届いた綺麗な部屋。明らかに俺の日常とはかけ離れたものだ。身体を見ると、小さな傷まで丁寧に手当されている。とりあえず、起き上がっ……れなかった。派手に床にひっくり返る。

「いった…」

傷に響く痛みに、やっと夢じゃないとわかった。その時…小さな足音が聞こえてきた。

きぃ…とドアが開く。俺は咄嗟に、側にあった羽ペンを投げた。だが、あっさりと避けられてしまう。

「危ないじゃないですか。」

そう言って近寄ってきたのは、亜麻色の髪をした、とても可愛い女の子だった。これが、マーガレットとの出会いだ。

マーガレットは異界から来たなんて突拍子もない事を言う俺を受け入れてくれた。それから、仕事と家事の手伝いをしながら暮らす事になった。

マーガレットの仕事は、魔法薬やお茶を売ったり、魔法で人々の生活を助ける事。のんびりまったり営業している。色々な人たちに愛され、大事にされている彼女。一緒にいると、溜まった澱が流れ出て行く気がする。

彼女のため、教えられたこと以上のことをするようになった。すると、ある日から街やお客様から声をかけられるようになった。最初はどこか胡乱げな目で見ていたのに…

「おっ!マーガレットん家の兄さんじゃん!卵持ってけよ、採れたてだぞ!」

「あ!イケメンじゃん!今日も頑張ってんね!飴おまけしてやるよ!」

街の人やお客様と打ち解け、友達もできた。こんなの初めてで、前の世界じゃ考えられない事だった。柔らかな笑顔、優しい心遣い、気遣わしげに触れる指。それら全てが俺を癒やし、幸福で心を満たしてくれた。

でも、そんな幸福は続かなかった。ある日、彼女から頼まれた薬草を卸した帰り道。俺はもう二度と会うことはないと思っていた兄弟に再会した。

「よう。久しぶりだな。幸せそうな面しやがって…こっちがどれだけ大変な思いをしたと思ってんだ。ふざけやがって。」

俺は無視して通り過ぎようとした。だが…

「チッ!!待てよ!!戻ってこい、咲夜。特級魔獣が5体現れた。このまま行けば、精霊師団は全滅する!!」

「だからなんだ。あの時俺を裏切った奴らを助けろと?」

「あいつらがいないと、世界が成り立たないのはお前がよく知ってんだろうが!!」

ああ、知ってるさ。精霊師がいなければ、魔獣によってあっさり世界は終わるだろう。だが…それが何だと言うんだ?俺にはもう関係ない。

「知らないな。話はそれだけか?ならもう行く。」

立ち去ろうとする俺を愕然とした目で見る兄。そうして…耳障りな低い哄笑が聞こえてきた。眉を顰める俺を、なおも笑い続ける兄。気でも狂ったのか…?

「は、はは!!!お前さぁ…俺がただ頭を下げに来ただけだと思ったのか??なぁ、あの女…マーガレットだったか?あの女の家の側に、デュビアがいるんだけどさぁ…?どうする?今、この指を鳴らしたら、あいつ、何するとおも……ぐっあ、がァァっっ!?」

兄の腕を切り落とした。一年剣をふってない俺でも、この程度ならできる。

「あ、が、き…さまァ…!!!!デュビアァ!再戦の機会を与えてやる!今度こそこいつをぶち殺せぇぇぇぇ!!!!」

俺は、元相棒のデュビアと再び相まみえる事となった。

「久しぶり、デュビア。」

「………」

「あの時は驚いたよ…お前は俺の相棒だと思ってたからな…だから…」

ギッ……!!!

「こんな風に、切り合いになるのは悲しいよ。」

激しい剣撃が始まった。お互い1歩も引かずに切り合う。言葉はなかった。一年ふっていなかったはずなのに、手が剣に馴染む。

やがて…俺はデュビアの剣を弾き飛ばし、昏倒させた。

「ありがとう、デュビア。俺にとってお前は…相棒で、友人だった。さようなら」

躊躇わず、デュビアの首筋に剣先を落とした。

血濡れの俺の背後で、這うようにして逃げる兄の姿があった。その背を刺す。汚い悲鳴を上げて蹲る兄…だが、なんの感情もわかない。

「…明々後日にまたここへ迎えに来い。戻ってやる。魔獣を倒したあと、俺はお前達を殺す。」

彼女と過ごした一年は、俺を満たして癒やした。だが…それでも収まらない。こいつらへの憎しみは、恨みは、煮え滾って溢れ出る。

血濡れの姿をマーガレットに見せるわけにはいかない。川で水を浴びて帰った。

彼女をショッピングに誘った。今まで貯めた金を使い、彼女にしたい事をした。ずっと似合うと思っていたものを買い、食べさせてあげたかったスイーツを食べた。それでも有り余る金は、ひとまず貯金する事にした。

翌日、元の世界に帰る事を告げた。本当は悲しくて寂しいのに、全部飲み込んで笑う彼女が可愛い。魔獣とあいつらをぶち殺したら、必ず戻ってこよう…あ。そうだ。その前に…会っておきたい人がいた。



「ふーん…いいもん持ってるじゃない。」

俺が差し出したのは、最高級の魔石。

「近い未来どこかに引っ越すであろう愛しのマイハニーを、私のお膝元に誘導したいってわけね。でも…本当に引っ越すとは限らないんじゃない?」

引っ越さなくてもこの魔石は返さないわよーと、魔女は笑った。

「いや、引っ越すね。俺との思い出があちこちに刻まれてるんだ。耐えられるはずがないよ。」

「うっわ…自信満々ね…きしょ…」

「…頼んだぞ。ヴェラ•ノースハラン。」



そうして、俺は元の世界に帰った。魔獣を滅ぼし、家族を皆殺しにした。精霊と契約を切った。デュビアについては死亡時期と要因を隠蔽工作した。全て終わらせるのに、一年もかかってしまった。

「さて…マーガレットはあの赤い屋根の家に住むんだよな。」

一年ぶりに帰ってきたが、そんなに変わっていない。まずはその事にほっとした。

マーガレットが売りに出した家具類や色々な物を、全て買い戻して赤い屋根の家にセッテイングした。彼女が来たら、どんなに驚くだろうか…。

2日後。彼女はやってきた。俺を見て、固まり…ドアを閉められた。ちょ、嘘だろ!!!

何とかドアを開けてもらい、彼女に今までの事を話した。もちろん、家族や色々な事は伏せて。

愛して、愛を返される。その幸せが身に染みる。俺はもう二度と、手放す事はないだろう。

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