2 / 49
1話・従姉妹のアシュリー
しおりを挟む
「あたし、ディーンに会いに行こうと思うの」
次の朝、アシュリーは意を決してシンシアに打ち明けた。
「ええ!? 何言ってるの。花園から出るつもり?」
シンシアは目を丸くして言った。
「もし、向こうから見えなかったらどうするつもりなの?きっと傷つくわ……」
頭ごなしに止めるのではなく、心配してくれる優しいシンシアを、大好きだ、とアシュリーは思った。
「人の姿で行くつもりよ。それでも顔を見たらきっと……思い出してくれる」
この言葉にはさすがにシンシアも目を白黒させる。
「その魔法は禁忌よ……!! 危ないわ……!! 正体がばれたら戻れなくなる可能性もあるのよ。」
人の姿になったら、どんな大人たちからも姿が見えることになる。エルナンやディーンはフェアリーに好意的だったが、そんな人間ばかりとは限らない。珍しい生き物の存在を自分の利害のために利用するものが現れたら——そんなことを想像するだけでシンシアはぶるぶると体が震えてしまう。
「こっそり、ディーンにだけ会ったらすぐに戻ってくる。大丈夫」
「ああ……どうしましょう……。アシュリー、考え直して。本当におそろしいわ……」
涙ぐむシンシアの額にそっとくちづけると、アシュリーは羽を伸ばし屋敷に向かって全速力で飛びたった。
「あっ! アシュリー待って! ヒトの食べ物を食べてはダメよ。それにヒトに触れてもダメ。触覚はいちばんの誘惑と……ああっ聞いて……!!」
シンシアの忠告はアシュリーの耳には最後まで届かなかった。
——初めての花園の外。
花園の出入り口から続く小道を通り、いつもエルナンやディーンが駆けてきた花壇の広場に出る。そこをまっすぐに突っ切るとお屋敷の北側の出入り口が見えてきた。
扉は閉じられているから、入れる場所を探す。その時——。
ガタ、ガタン
物音がして玄関から少し離れた1階の窓が開くのが見えた。
そして、そこから顔を出したのはまさに会いたかったディーンだった!
窓から顔を出し目を細め、いぶかしそうにこちらを見ている。
「ディーン……!! あたしよ!! あたしが見えるのね?」
急いで飛び寄り声をかけるが、ディーンは目をゴシゴシとこすり飛び回るアシュリーを目で追ってはいるが、聞こえていないようだ。
「……なんだ? この光は?」
(見えていない……?)
存在は感じ取れるものの、視認できていない。そんな感じがする。
(今思い出してくれたら、間に合うかもしれない……!!!)
しかし、ディーンは首を傾げながら窓を閉めてしまう。
「待って……!!」
アシュリーは慌てて魔法を使い、人の姿に変身すると外から窓を叩いた。
立ち去りかけたディーンが驚いてふたたび窓を開ける。
「……君は……?」
アシュリーが口を開こうとしたとき、ディーンの背後から人の影が近づいてきた。
「ディーン……? 誰と話してるんだ?」
声をかけてきたのはエルナンだった。
エルナンは窓の外に佇むアシュリーの顔を見るとあんぐりと口を開けた。
「え……? その顔……アシュリー? ……まさか」
「エルナン……!! 私……」
事情を説明しようと再度口を開きかけたときだった。
「まぁ、どなた? ……エルナンのお友達? どうやってここに?」
エルナンの後ろから歩いてきていた、優雅で華奢な婦人が不思議そうにこちらを見ていた。
「母さん……えっと彼女は……」
どうやらエルナンの母、ランディス夫人のようだ。言葉に詰まったエルナンがアシュリーの方を見る。釣られるように全員の目がアシュリーに向けられる。
(ど、どうしよう……)
広い屋敷の敷地内だ。通りすがりに道を聞きたくて、なんて言い訳も通用しそうにない。かといって、目の前でフェアリーに戻って逃げる訳にもいかない。
「あの、あたし、……あたしです。あの、その……従姉妹の……そ、そう、従姉妹のアシュリーです!」
昔、一度だけエルナンに従姉妹がいるという話を聞いたことがあったのを思い出したのだ。
「え、従姉妹って……」
ランディス夫人が口を開きかけたとき、アシュリーは後ろ手に指を振り、記憶を操作する魔法をかけた。
「……」
夫人は一瞬うつろな目をして口をつぐんだが、すぐに満面の笑顔をアシュリーに向けた。
「まあぁ……! アシュリー、久しぶりだわ。連絡をくれたら迎えをやったのに……」
唖然としているエルナンに目配せをするアシュリー。
「あ、うん、アシュリー久しぶり、だな……!」
棒読みだが合わせてくれるエルナン。
「さあ、そんなところに立っていないで、中に入ってきて!」
夫人に手招きされてアシュリーは玄関に足を向けた。
「……アシュリー……」
ディーンはその名前を反芻しながらじっと何か考えていた。
やってしまった……。
玄関ロビーに面したサロンでエルナンと夫人と三人でお茶をいただくことになってしまった。その上、エルナンの父まで帰ってきてしまい、さらに記憶を操作しなくてはいけなくなった。肝心のディーンはもちろんここには参加できない。
(どうしたら……)
「ゆっくりしていってね。休暇はいつまで? しばらくの間はここにいられるの?」などと、優しく微笑みながら質問してくるランディス夫人。
「あっ、いえ、すぐに帰ります!」
「えっ?すぐだなんて……まぁ」
「気を使わずゆっくりしていきなさい。部屋を用意させよう」
夫妻の好意に胸が苦しい。
「父さん、母さん、アシュリーと外に行ってきていい?」
エルナンがとりあえずの助け舟を出してくれる。
「あら、ふたりともソワソワしてると思ったら……。そうね、あなたたちも久しぶりに積もる話があるわよね。子ども同士遊びに行ってらっしゃい。」
そうやってやっと開放してもらえたのだった。
パタン
扉を閉じた途端、エルナンがアシュリーの顔をじっと覗き込んでくる。
「……エルナン?」
エルナンは、にかっと太陽のように笑うと嬉しそうに言った。
「本当にアシュリーなんだな!」
「うん、びっくりさせてごめんね?」
「いや、嬉しいよ。こんなことできるなんてさ! なんで今までしてくれなかったの?」
そしたら、もっといろんな遊びができたじゃないか、と言うエルナンにアシュリーは少しうつむきながら話した。
「ん……本当はタブーなの。フェアリーは子どものように純粋な人にしか姿を見られないけど、人に変身して誰からも見えてしまうと危ないこともあるからって」
「そっか……」
「でもさ、うちの両親は大丈夫だよ! アシュリーを害するようなこと絶対しない! それに、なんかアシュリーのこと従姉妹だと信じ込んでるし?」
あれ、魔法なの?とキラキラした目で見てくるエルナンは、まさに純粋培養な少年の心のままだ。さっきまで心細くなっていたアシュリーは嬉しくて元気をもらえた気分だった。
どこに向かうともしれずエルナンについて歩いて行くと、地下に降りた扉の前で立ち止まった。
「着いたぜ。」
「……え?」
「ディーンに会いにきたんだろ? この時間はここで帳簿のつけ方を勉強してる」
なにも言わなくてもアシュリーの目的はお見通しらしい。
コンコンコンッ
軽快なノックの後、エルナンは返事も聞かずに扉を開け入っていく。
そこはあまり広くはない使用人の待機室で、ディーンはテーブルに書類を広げたまま、ぼんやりとしていた。
「そうか、あの夢の少女は……もしかして……」
うわ言のようにぶつぶつとつぶやいていて、部屋に誰かが入ってきたことも気づいていないようだ。
「ディーン? ……おーい。おおーい。ディーン!」
エルナンは何回か声をかけても気づかないディーンに焦れて、スタスタと近づき肩をポンと叩いた。
「わっ!!」
椅子からずり落ちそうなほど驚いたディーンはアシュリーの存在にすぐ気づいてカーッと顔を赤らめている。
「ディーン、わかるか?」
エルナンはアシュリーの背中をそっと押すと訊いた。
動揺を抑えて冷静に努めながらディーンは答えた。
「……もしかして会ったことがあるだろうか? この屋敷の庭で」
「ディーン…!! 思い出してくれたのね。」
アシュリーは喜んで飛びつこうとしたが、次の言葉で失望の底に落とされた。
「エルナンの従姉妹だったなんてな、おぼろげな思い出だったが……」
「ああ? ディーン、本気で言ってるのか?」
呆れたようにエルナンが言う。「アシュリーは……」と、続けようとしたところで、すっとディーンが立ち上がったため口をつぐむ。
「ここは使用人のための部屋だ。あなたたちがウロウロするような場所ではない。エルナン、何回同じことを言わせるんだ?」
「またかよ! ……なんでだよ…!! なんでそんなに変わってしまったんだよ、ディーン! オレたち親友だろ。どうして突き放すんだ……!」
そう言うエルナンだけじゃなくなぜかディーンも傷ついた顔をしている。
「いいから、もう出ていくんだ」
ディーンはエルナンの背中を押し、部屋から追い出そうとする。
「……待って!!」
アシュリーが叫ぶと二人は動きを止めてこちらを見た。
(今しかない……!)
フェアリーに戻るところを見たらきっと思い出してくれる——!
「見て! ディーン!! あたしの本当の姿!!」
「……?」
アシュリーは人間の姿のままで何も変わらない。何度も指を振ってみるが何も起きなかった。
「え……どうして……。魔法が使えない……」
元の姿に戻れない……なぜ?
その時、アシュリーの脳裏に十数分前の記憶がよみがえってきた。
(……そうだ、私……。食べ物を……)
ランディス夫人に勧められるまま、サロンでお茶と焼き菓子を口にした。
生まれて初めて食べるお菓子はそれはもうおいしかった。甘くてサクサクと口の中にほどけて、香りが拡がって……。アシュリーは何枚も口にしてしまった。
花園を出る時、シンシアは何って言ってた?
そう、人の食べ物は口にしてはいけない——。
フェアリーは本来なら、人の食べ物には触れられないから食べることもできない。でも、もし魔法で人間になっている時に口にしてしまったら……。その時その体は人のまま定着してしまうのだ。アシュリーだってそのことは知っていたのに——!!
(うそ……どうしよう)
アシュリーのただならぬ様子に、エルナンとディーンも諍いを忘れて見つめている。
……はぁっはぁっ……
息の仕方がわからなくなる。シンシア……シンシアに会いに行かなきゃ。
アシュリーは踵を返し部屋から飛び出した。
「アシュリー……!?」
次の朝、アシュリーは意を決してシンシアに打ち明けた。
「ええ!? 何言ってるの。花園から出るつもり?」
シンシアは目を丸くして言った。
「もし、向こうから見えなかったらどうするつもりなの?きっと傷つくわ……」
頭ごなしに止めるのではなく、心配してくれる優しいシンシアを、大好きだ、とアシュリーは思った。
「人の姿で行くつもりよ。それでも顔を見たらきっと……思い出してくれる」
この言葉にはさすがにシンシアも目を白黒させる。
「その魔法は禁忌よ……!! 危ないわ……!! 正体がばれたら戻れなくなる可能性もあるのよ。」
人の姿になったら、どんな大人たちからも姿が見えることになる。エルナンやディーンはフェアリーに好意的だったが、そんな人間ばかりとは限らない。珍しい生き物の存在を自分の利害のために利用するものが現れたら——そんなことを想像するだけでシンシアはぶるぶると体が震えてしまう。
「こっそり、ディーンにだけ会ったらすぐに戻ってくる。大丈夫」
「ああ……どうしましょう……。アシュリー、考え直して。本当におそろしいわ……」
涙ぐむシンシアの額にそっとくちづけると、アシュリーは羽を伸ばし屋敷に向かって全速力で飛びたった。
「あっ! アシュリー待って! ヒトの食べ物を食べてはダメよ。それにヒトに触れてもダメ。触覚はいちばんの誘惑と……ああっ聞いて……!!」
シンシアの忠告はアシュリーの耳には最後まで届かなかった。
——初めての花園の外。
花園の出入り口から続く小道を通り、いつもエルナンやディーンが駆けてきた花壇の広場に出る。そこをまっすぐに突っ切るとお屋敷の北側の出入り口が見えてきた。
扉は閉じられているから、入れる場所を探す。その時——。
ガタ、ガタン
物音がして玄関から少し離れた1階の窓が開くのが見えた。
そして、そこから顔を出したのはまさに会いたかったディーンだった!
窓から顔を出し目を細め、いぶかしそうにこちらを見ている。
「ディーン……!! あたしよ!! あたしが見えるのね?」
急いで飛び寄り声をかけるが、ディーンは目をゴシゴシとこすり飛び回るアシュリーを目で追ってはいるが、聞こえていないようだ。
「……なんだ? この光は?」
(見えていない……?)
存在は感じ取れるものの、視認できていない。そんな感じがする。
(今思い出してくれたら、間に合うかもしれない……!!!)
しかし、ディーンは首を傾げながら窓を閉めてしまう。
「待って……!!」
アシュリーは慌てて魔法を使い、人の姿に変身すると外から窓を叩いた。
立ち去りかけたディーンが驚いてふたたび窓を開ける。
「……君は……?」
アシュリーが口を開こうとしたとき、ディーンの背後から人の影が近づいてきた。
「ディーン……? 誰と話してるんだ?」
声をかけてきたのはエルナンだった。
エルナンは窓の外に佇むアシュリーの顔を見るとあんぐりと口を開けた。
「え……? その顔……アシュリー? ……まさか」
「エルナン……!! 私……」
事情を説明しようと再度口を開きかけたときだった。
「まぁ、どなた? ……エルナンのお友達? どうやってここに?」
エルナンの後ろから歩いてきていた、優雅で華奢な婦人が不思議そうにこちらを見ていた。
「母さん……えっと彼女は……」
どうやらエルナンの母、ランディス夫人のようだ。言葉に詰まったエルナンがアシュリーの方を見る。釣られるように全員の目がアシュリーに向けられる。
(ど、どうしよう……)
広い屋敷の敷地内だ。通りすがりに道を聞きたくて、なんて言い訳も通用しそうにない。かといって、目の前でフェアリーに戻って逃げる訳にもいかない。
「あの、あたし、……あたしです。あの、その……従姉妹の……そ、そう、従姉妹のアシュリーです!」
昔、一度だけエルナンに従姉妹がいるという話を聞いたことがあったのを思い出したのだ。
「え、従姉妹って……」
ランディス夫人が口を開きかけたとき、アシュリーは後ろ手に指を振り、記憶を操作する魔法をかけた。
「……」
夫人は一瞬うつろな目をして口をつぐんだが、すぐに満面の笑顔をアシュリーに向けた。
「まあぁ……! アシュリー、久しぶりだわ。連絡をくれたら迎えをやったのに……」
唖然としているエルナンに目配せをするアシュリー。
「あ、うん、アシュリー久しぶり、だな……!」
棒読みだが合わせてくれるエルナン。
「さあ、そんなところに立っていないで、中に入ってきて!」
夫人に手招きされてアシュリーは玄関に足を向けた。
「……アシュリー……」
ディーンはその名前を反芻しながらじっと何か考えていた。
やってしまった……。
玄関ロビーに面したサロンでエルナンと夫人と三人でお茶をいただくことになってしまった。その上、エルナンの父まで帰ってきてしまい、さらに記憶を操作しなくてはいけなくなった。肝心のディーンはもちろんここには参加できない。
(どうしたら……)
「ゆっくりしていってね。休暇はいつまで? しばらくの間はここにいられるの?」などと、優しく微笑みながら質問してくるランディス夫人。
「あっ、いえ、すぐに帰ります!」
「えっ?すぐだなんて……まぁ」
「気を使わずゆっくりしていきなさい。部屋を用意させよう」
夫妻の好意に胸が苦しい。
「父さん、母さん、アシュリーと外に行ってきていい?」
エルナンがとりあえずの助け舟を出してくれる。
「あら、ふたりともソワソワしてると思ったら……。そうね、あなたたちも久しぶりに積もる話があるわよね。子ども同士遊びに行ってらっしゃい。」
そうやってやっと開放してもらえたのだった。
パタン
扉を閉じた途端、エルナンがアシュリーの顔をじっと覗き込んでくる。
「……エルナン?」
エルナンは、にかっと太陽のように笑うと嬉しそうに言った。
「本当にアシュリーなんだな!」
「うん、びっくりさせてごめんね?」
「いや、嬉しいよ。こんなことできるなんてさ! なんで今までしてくれなかったの?」
そしたら、もっといろんな遊びができたじゃないか、と言うエルナンにアシュリーは少しうつむきながら話した。
「ん……本当はタブーなの。フェアリーは子どものように純粋な人にしか姿を見られないけど、人に変身して誰からも見えてしまうと危ないこともあるからって」
「そっか……」
「でもさ、うちの両親は大丈夫だよ! アシュリーを害するようなこと絶対しない! それに、なんかアシュリーのこと従姉妹だと信じ込んでるし?」
あれ、魔法なの?とキラキラした目で見てくるエルナンは、まさに純粋培養な少年の心のままだ。さっきまで心細くなっていたアシュリーは嬉しくて元気をもらえた気分だった。
どこに向かうともしれずエルナンについて歩いて行くと、地下に降りた扉の前で立ち止まった。
「着いたぜ。」
「……え?」
「ディーンに会いにきたんだろ? この時間はここで帳簿のつけ方を勉強してる」
なにも言わなくてもアシュリーの目的はお見通しらしい。
コンコンコンッ
軽快なノックの後、エルナンは返事も聞かずに扉を開け入っていく。
そこはあまり広くはない使用人の待機室で、ディーンはテーブルに書類を広げたまま、ぼんやりとしていた。
「そうか、あの夢の少女は……もしかして……」
うわ言のようにぶつぶつとつぶやいていて、部屋に誰かが入ってきたことも気づいていないようだ。
「ディーン? ……おーい。おおーい。ディーン!」
エルナンは何回か声をかけても気づかないディーンに焦れて、スタスタと近づき肩をポンと叩いた。
「わっ!!」
椅子からずり落ちそうなほど驚いたディーンはアシュリーの存在にすぐ気づいてカーッと顔を赤らめている。
「ディーン、わかるか?」
エルナンはアシュリーの背中をそっと押すと訊いた。
動揺を抑えて冷静に努めながらディーンは答えた。
「……もしかして会ったことがあるだろうか? この屋敷の庭で」
「ディーン…!! 思い出してくれたのね。」
アシュリーは喜んで飛びつこうとしたが、次の言葉で失望の底に落とされた。
「エルナンの従姉妹だったなんてな、おぼろげな思い出だったが……」
「ああ? ディーン、本気で言ってるのか?」
呆れたようにエルナンが言う。「アシュリーは……」と、続けようとしたところで、すっとディーンが立ち上がったため口をつぐむ。
「ここは使用人のための部屋だ。あなたたちがウロウロするような場所ではない。エルナン、何回同じことを言わせるんだ?」
「またかよ! ……なんでだよ…!! なんでそんなに変わってしまったんだよ、ディーン! オレたち親友だろ。どうして突き放すんだ……!」
そう言うエルナンだけじゃなくなぜかディーンも傷ついた顔をしている。
「いいから、もう出ていくんだ」
ディーンはエルナンの背中を押し、部屋から追い出そうとする。
「……待って!!」
アシュリーが叫ぶと二人は動きを止めてこちらを見た。
(今しかない……!)
フェアリーに戻るところを見たらきっと思い出してくれる——!
「見て! ディーン!! あたしの本当の姿!!」
「……?」
アシュリーは人間の姿のままで何も変わらない。何度も指を振ってみるが何も起きなかった。
「え……どうして……。魔法が使えない……」
元の姿に戻れない……なぜ?
その時、アシュリーの脳裏に十数分前の記憶がよみがえってきた。
(……そうだ、私……。食べ物を……)
ランディス夫人に勧められるまま、サロンでお茶と焼き菓子を口にした。
生まれて初めて食べるお菓子はそれはもうおいしかった。甘くてサクサクと口の中にほどけて、香りが拡がって……。アシュリーは何枚も口にしてしまった。
花園を出る時、シンシアは何って言ってた?
そう、人の食べ物は口にしてはいけない——。
フェアリーは本来なら、人の食べ物には触れられないから食べることもできない。でも、もし魔法で人間になっている時に口にしてしまったら……。その時その体は人のまま定着してしまうのだ。アシュリーだってそのことは知っていたのに——!!
(うそ……どうしよう)
アシュリーのただならぬ様子に、エルナンとディーンも諍いを忘れて見つめている。
……はぁっはぁっ……
息の仕方がわからなくなる。シンシア……シンシアに会いに行かなきゃ。
アシュリーは踵を返し部屋から飛び出した。
「アシュリー……!?」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
触手エイリアンの交配実験〜研究者、被験体になる〜
桜井ベアトリクス
恋愛
異星で触手エイリアンを研究する科学者アヴァ。 唯一観察できていなかったのは、彼らの交配儀式。
上司の制止を振り切り、禁断の儀式を覗き見たアヴァは―― 交わる触手に、抑えきれない欲望を覚える。
「私も……私も交配したい」
太く長い触手が、体の奥深くまで侵入してくる。 研究者が、快楽の実験体になる夜。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる