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20話・星を探す
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その日の夜遅く、アシュリーはまたそっと部屋を抜け出し、エルナンの部屋に向かった。
エルナンの部屋のある廊下の曲がり角をそっと覗こうとした時、目の前に人影が現れたので、アシュリーは心臓が飛び出しそうな程驚いた。
「……!!!!」
「おっと……ん? アシュリーかい?」
それは、両手にいろいろと荷物を抱えたグレンだった。さらに心音がうるさくなり、思わず胸を両手で押さえた。
「お、お、お兄さん……」
「こんな時間にどうしたんだ?」
「あ、えっと、その……」
「うん?」
「眠れなくて……散歩を……」
苦し紛れに言い訳する。グレンは訝しむでもなく、手の荷物を床に下ろすと持っていたブランケットをアシュリーの方にかけてくれる。
「こんな薄着じゃ風邪をひくぞ」
「ありがとう」
自分の部屋に戻るしかないかと考えていると、グレンが荷物をもう一度抱えながら言った。
「じゃあちょっと付き合わないか?」
グレンの行き先は屋根裏部屋だった。三階から細い使用人用の階段を上がる。そこは区切られていない広い部屋で、使っていない家具や荷物が置かれているようだったが、掃除はされており埃もなく清潔だった。
「俺の数少ない趣味なんだ」
「趣味?」
「ああ、天体観測がな」
奥の天窓の下に大きな望遠鏡が設置されている。
「望遠鏡、見たことあるかい?」
ふるふるとアシュリーが首を振ると、サッと調整して手招きしてくれる。
「ここから覗いてごらん」
アシュリーが近づくと肩に手を置かれてドキリとするが、覗き窓に目を当てた瞬間そのことはすっかり気にならなくなった。
「わぁ……!!」
夜空の星々がぐっと近くに見える。
「すごいわ!!」
キラキラと瞬く星々がいつもより迫ってくるように近くに見えてアシュリーは興奮する。
「筒を動かしてあちこち見てごらん。このネジを回すと、倍率が変わるから見えにくい時は回して」
「わぁー!」
しばらくの間、夢中になって見ているとふいにいい香りが鼻腔をくすぐった。
振り返ると、少し後ろのソファに腰掛けたグレンが持ち運び用のポットから何かを注いでいた。
「あったかいクリオだ。飲むか?」
「クリオ?」
隣に座って受け取ると一口飲んでみる。
「……! 美味しいわ!」
甘くて香ばしいその飲み物を、アシュリーはすぐに気に入った。
「楽しんでくれてよかったよ。まだ眠くないか?」
優しい目をしてグレンが言うので、アシュリーはまたドキドキしてしまう。
「目が冴えちゃったみたい」
「そうか」
「何かお話して?」
アシュリーがおねだりすると、グレンは「うん? そうだな……」と少し考えている。
「お兄さんはどうして星が好きなの?」
気になって聞いてみることにする。エルナンは星を見る趣味はなかった気がする。
「うん……アシュリーも聞いているかもしれないが、実は俺には亡くなった実の両親がいるんだ。亡くなった後、最後に用意してくれていた誕生日プレゼントが届いてな、この子ども用の望遠鏡がそうなんだけど」
グレンが持ってきた荷物の中に小さな望遠鏡があった。くすんだ金色の筒は、年季を感じさせたが、大事に手入れされて使われているのが一目でわかった。
「パパとママはお空の星になったんだ、なんて周りに言われたから、それを信じていつもこれで空の上の両親を探してたな」
寂しそうな、懐かしそうな顔でグレンは話していたが、「しんみりさせたかな、ごめんな」と自嘲めいた顔でほほえんだ。
「お兄さん……」
「ん?」
アシュリーは、エルナンが書庫で話していた兄への不安を思い出しながら、口を開いた。
「エルナンはお兄さんの事、大好きだって……」
「うん、俺もだよ」
「ホント?」
「もちろん!」
「……よかったぁ」
「ありがとな」
「え?」
「今の家族が心配してるのは、わかってるんだ。うまく気持ちを伝えられてないのもわかってる。ただ、説明が難しいんだ」
「そうなのね」
「今の家族のこと、本当に大切に思ってる。離れるつもりはないし、全力で守っていくつもりだよ。だけど、失った家族のこともいなかったことにはならない。今も会いたいと思うし、どちらも大切な家族なんだ」
「……」
「それに……」
「それに?」
「また失うのが怖いんだ。今の家族はもう失いたくない。誰もいなくなった家を見るのが怖い」
アシュリーはフェアリーたちが見えなくなった花園を思い出し、無意識に自分の体を抱きしめるようにした。
「ごめん、悲しくさせたかな」
グレンが苦笑する。
「ううん……お兄さん、あたしも同じなの。会いたいけど会えなくなったの」
「……」
グレンは言葉を挟まずに、アシュリーの話の続きを待っていた。
「自分が悪いんだけど、もう戻れないけど、でもいなかったことにはならないよね。あたし、あたし、これからどうしていいかわからないけど、あたしも忘れたくない……」
「うん」
知らずに零れていた涙を、グレンが親指でそっと拭ってくれる。素手で触れられたが、感じるのは快感ではなく安心感だった。
「忘れなくていい。会えなくても、そこにいるんだから」
エルナンの部屋のある廊下の曲がり角をそっと覗こうとした時、目の前に人影が現れたので、アシュリーは心臓が飛び出しそうな程驚いた。
「……!!!!」
「おっと……ん? アシュリーかい?」
それは、両手にいろいろと荷物を抱えたグレンだった。さらに心音がうるさくなり、思わず胸を両手で押さえた。
「お、お、お兄さん……」
「こんな時間にどうしたんだ?」
「あ、えっと、その……」
「うん?」
「眠れなくて……散歩を……」
苦し紛れに言い訳する。グレンは訝しむでもなく、手の荷物を床に下ろすと持っていたブランケットをアシュリーの方にかけてくれる。
「こんな薄着じゃ風邪をひくぞ」
「ありがとう」
自分の部屋に戻るしかないかと考えていると、グレンが荷物をもう一度抱えながら言った。
「じゃあちょっと付き合わないか?」
グレンの行き先は屋根裏部屋だった。三階から細い使用人用の階段を上がる。そこは区切られていない広い部屋で、使っていない家具や荷物が置かれているようだったが、掃除はされており埃もなく清潔だった。
「俺の数少ない趣味なんだ」
「趣味?」
「ああ、天体観測がな」
奥の天窓の下に大きな望遠鏡が設置されている。
「望遠鏡、見たことあるかい?」
ふるふるとアシュリーが首を振ると、サッと調整して手招きしてくれる。
「ここから覗いてごらん」
アシュリーが近づくと肩に手を置かれてドキリとするが、覗き窓に目を当てた瞬間そのことはすっかり気にならなくなった。
「わぁ……!!」
夜空の星々がぐっと近くに見える。
「すごいわ!!」
キラキラと瞬く星々がいつもより迫ってくるように近くに見えてアシュリーは興奮する。
「筒を動かしてあちこち見てごらん。このネジを回すと、倍率が変わるから見えにくい時は回して」
「わぁー!」
しばらくの間、夢中になって見ているとふいにいい香りが鼻腔をくすぐった。
振り返ると、少し後ろのソファに腰掛けたグレンが持ち運び用のポットから何かを注いでいた。
「あったかいクリオだ。飲むか?」
「クリオ?」
隣に座って受け取ると一口飲んでみる。
「……! 美味しいわ!」
甘くて香ばしいその飲み物を、アシュリーはすぐに気に入った。
「楽しんでくれてよかったよ。まだ眠くないか?」
優しい目をしてグレンが言うので、アシュリーはまたドキドキしてしまう。
「目が冴えちゃったみたい」
「そうか」
「何かお話して?」
アシュリーがおねだりすると、グレンは「うん? そうだな……」と少し考えている。
「お兄さんはどうして星が好きなの?」
気になって聞いてみることにする。エルナンは星を見る趣味はなかった気がする。
「うん……アシュリーも聞いているかもしれないが、実は俺には亡くなった実の両親がいるんだ。亡くなった後、最後に用意してくれていた誕生日プレゼントが届いてな、この子ども用の望遠鏡がそうなんだけど」
グレンが持ってきた荷物の中に小さな望遠鏡があった。くすんだ金色の筒は、年季を感じさせたが、大事に手入れされて使われているのが一目でわかった。
「パパとママはお空の星になったんだ、なんて周りに言われたから、それを信じていつもこれで空の上の両親を探してたな」
寂しそうな、懐かしそうな顔でグレンは話していたが、「しんみりさせたかな、ごめんな」と自嘲めいた顔でほほえんだ。
「お兄さん……」
「ん?」
アシュリーは、エルナンが書庫で話していた兄への不安を思い出しながら、口を開いた。
「エルナンはお兄さんの事、大好きだって……」
「うん、俺もだよ」
「ホント?」
「もちろん!」
「……よかったぁ」
「ありがとな」
「え?」
「今の家族が心配してるのは、わかってるんだ。うまく気持ちを伝えられてないのもわかってる。ただ、説明が難しいんだ」
「そうなのね」
「今の家族のこと、本当に大切に思ってる。離れるつもりはないし、全力で守っていくつもりだよ。だけど、失った家族のこともいなかったことにはならない。今も会いたいと思うし、どちらも大切な家族なんだ」
「……」
「それに……」
「それに?」
「また失うのが怖いんだ。今の家族はもう失いたくない。誰もいなくなった家を見るのが怖い」
アシュリーはフェアリーたちが見えなくなった花園を思い出し、無意識に自分の体を抱きしめるようにした。
「ごめん、悲しくさせたかな」
グレンが苦笑する。
「ううん……お兄さん、あたしも同じなの。会いたいけど会えなくなったの」
「……」
グレンは言葉を挟まずに、アシュリーの話の続きを待っていた。
「自分が悪いんだけど、もう戻れないけど、でもいなかったことにはならないよね。あたし、あたし、これからどうしていいかわからないけど、あたしも忘れたくない……」
「うん」
知らずに零れていた涙を、グレンが親指でそっと拭ってくれる。素手で触れられたが、感じるのは快感ではなく安心感だった。
「忘れなくていい。会えなくても、そこにいるんだから」
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