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32話・過去の絆
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昼食の後、名残惜しい気持ちでグレンを見送った。数日とはいえ、離れているのが寂しかった。なのに、グレンの方はというと、涼しい顔で手を振って、あっさりと馬車に乗り込んでいくのが恨めしい。
けれどアシュリーは気持ちを切り替えて、アーネスト先生の授業を受けるために部屋に戻った。
コンコン。
「こんにちは、アシュリー」
「こんにちは、アーネスト先生」
先生の方もクールな顔で平常運転だ、と思ったのだが……。
椅子にかけると真剣な顔をしてアシュリーに言った。
「授業の前に申し訳ないが、昨日の話について少しいいだろうか」
「はい」
「君からフェアリーの加護について話を聞いてから、少し気になってな……。曾祖父が全盛期から、急に没落してしまったことについて」
「!」
それは、アシュリーも気になっていたことだった。先生もアシュリーの顔を見て察したようでコクリと頷いて話を続けた。
「曾祖父がフェアリーについての詳細な記録を残していることや、また当時の繁栄を考えても彼がフェアリーの加護を受けていたとしても、おかしくないと思うんだ」
「あたしもそう思いました。でも……」
「ああ、なぜその加護は失われてしまったのか。気になって実家で話を聞いてきた」
「!!」
「曾祖父もだが、その息子夫婦である私の祖父母も、もう亡くなっている。父も成人前のことで当時のことはあまり知らなかったが、覚えていたこともあった」
先生は一度話を止め、少し思い切るようにして話を続けた。
「……没落より数年ほど前に庭師がいなくなり、庭が荒れ果てていたこと。それによって近しい友人だったフェアリーたちが花園から去ってしまったこと」
「え……それってまさか……」
「その庭師は、君が話していた《緑の護り手》だったという男性じゃないかと考えている」
(ジャンの曾祖父さん……)
「一体何があったのかしら……」
アシュリーはあまりの話に驚いたが、この花園に古いフェアリーがいない理由がわかった。
「それから、曾祖父にはとても若い恋人がいたようだ」
「えっ? そ、それは……」
なんと言っていいかわからず、アシュリーは困ってしまう。
「フューシャという女性で、庭師がいなくなった少し後、急に姿を消して曾祖父はかなり乱心してどんどん家の様子がおかしくなっていったと。父は彼女について『当時はお婆さまと呼んでいたが、家系図にも入っていないし、今思えば母より若々しかった彼女が祖母なわけなかったな』と言っていたが……」
「……まさか」
そのフューシャが実体化したフェアリーで、ダグラス・アーネストと結婚していたとしたら。フェアリーはとても長生きだ。もし、実体化しても寿命がそのままだったとしたら……。
「私は、フューシャはフェアリーで、本当に私の曾祖母だったのではないかと考えている」
「ああ……!」
先生も同じ考えだった。
「そんなことって……」
「私にフェアリーの血が流れている……本来なら荒唐無稽な話だが、こうして君を目の前にしているとそうでもないと思える」
「ええ……」
アシュリーはもう一度フェアリーの仲間に会えたような嬉しい気持ちになった。
「ただ気になるのは年齢の話だ。フェアリーが人間の体になっても歳を取らないのなら。アシュリーもここで人として暮らしていくにしても、ずっと若いままであることが障害になる可能性があると思ってな」
「……!?」
「どうやってここで暮らしていくのか考えるに当たって、歳を取らない見た目についても考慮しなくてはならない。親戚の娘として暮らしていくのは数年が限界ではないかと思う」
「そう、ですね……」
グレンのいう通り、ちゃんと屋敷の人たちに打ち明ければ、それは問題なくなると思う。でも、皆が年老いて自分だけが置いていかれることや、先生やジャンの曾祖父さんが不幸になっていることが気にかかった。
「それに夏の休暇が終わったらここに滞在するのも不自然になるだろうから……身の振り方を考えねばならないだろう?」
——グレンと結婚……にかなり心は傾いていた。でもアシュリーが歳を取らずに生きていくともし知ったら……それでも受け入れてくれるだろうか。アシュリーはグレンやこの屋敷の人々を不幸にしないだろうか……。
「アシュリー。こんな話はつらいだろうが、考えないわけにはいかない」
「はい……」
「もし、もし……」
「?」
めずらしく先生が言葉を濁らせる。
「これは君の加護を得ようとか、そんな意図ではないので誤解しないで欲しいのだが」
「はい」
「私は君を娶ってもいいと思っている」
「えっ」
「もし行き場がなければ、の話だ」
先生は悲しそうなやさしい目でアシュリーを見つめる。
「私の曽祖父とフェアリーの間に何があったかはわからない。でもずっとフェアリーたちと浅からぬ関係があった一族で、何より私の中にもその血が流れている。過去の因縁はどうであれ、私は君を守りたい」
「先生……」
先生はそっとアシュリーの頬に手を当てると、顔を近づけてきた。アシュリーも目を閉じ、そのくちびるを受け入れた。快感を求めるためのキスではなく、心を通じ合わせるような触れあいにアシュリーは身をゆだね、先生の背中にしっかりと腕を回した。
けれどアシュリーは気持ちを切り替えて、アーネスト先生の授業を受けるために部屋に戻った。
コンコン。
「こんにちは、アシュリー」
「こんにちは、アーネスト先生」
先生の方もクールな顔で平常運転だ、と思ったのだが……。
椅子にかけると真剣な顔をしてアシュリーに言った。
「授業の前に申し訳ないが、昨日の話について少しいいだろうか」
「はい」
「君からフェアリーの加護について話を聞いてから、少し気になってな……。曾祖父が全盛期から、急に没落してしまったことについて」
「!」
それは、アシュリーも気になっていたことだった。先生もアシュリーの顔を見て察したようでコクリと頷いて話を続けた。
「曾祖父がフェアリーについての詳細な記録を残していることや、また当時の繁栄を考えても彼がフェアリーの加護を受けていたとしても、おかしくないと思うんだ」
「あたしもそう思いました。でも……」
「ああ、なぜその加護は失われてしまったのか。気になって実家で話を聞いてきた」
「!!」
「曾祖父もだが、その息子夫婦である私の祖父母も、もう亡くなっている。父も成人前のことで当時のことはあまり知らなかったが、覚えていたこともあった」
先生は一度話を止め、少し思い切るようにして話を続けた。
「……没落より数年ほど前に庭師がいなくなり、庭が荒れ果てていたこと。それによって近しい友人だったフェアリーたちが花園から去ってしまったこと」
「え……それってまさか……」
「その庭師は、君が話していた《緑の護り手》だったという男性じゃないかと考えている」
(ジャンの曾祖父さん……)
「一体何があったのかしら……」
アシュリーはあまりの話に驚いたが、この花園に古いフェアリーがいない理由がわかった。
「それから、曾祖父にはとても若い恋人がいたようだ」
「えっ? そ、それは……」
なんと言っていいかわからず、アシュリーは困ってしまう。
「フューシャという女性で、庭師がいなくなった少し後、急に姿を消して曾祖父はかなり乱心してどんどん家の様子がおかしくなっていったと。父は彼女について『当時はお婆さまと呼んでいたが、家系図にも入っていないし、今思えば母より若々しかった彼女が祖母なわけなかったな』と言っていたが……」
「……まさか」
そのフューシャが実体化したフェアリーで、ダグラス・アーネストと結婚していたとしたら。フェアリーはとても長生きだ。もし、実体化しても寿命がそのままだったとしたら……。
「私は、フューシャはフェアリーで、本当に私の曾祖母だったのではないかと考えている」
「ああ……!」
先生も同じ考えだった。
「そんなことって……」
「私にフェアリーの血が流れている……本来なら荒唐無稽な話だが、こうして君を目の前にしているとそうでもないと思える」
「ええ……」
アシュリーはもう一度フェアリーの仲間に会えたような嬉しい気持ちになった。
「ただ気になるのは年齢の話だ。フェアリーが人間の体になっても歳を取らないのなら。アシュリーもここで人として暮らしていくにしても、ずっと若いままであることが障害になる可能性があると思ってな」
「……!?」
「どうやってここで暮らしていくのか考えるに当たって、歳を取らない見た目についても考慮しなくてはならない。親戚の娘として暮らしていくのは数年が限界ではないかと思う」
「そう、ですね……」
グレンのいう通り、ちゃんと屋敷の人たちに打ち明ければ、それは問題なくなると思う。でも、皆が年老いて自分だけが置いていかれることや、先生やジャンの曾祖父さんが不幸になっていることが気にかかった。
「それに夏の休暇が終わったらここに滞在するのも不自然になるだろうから……身の振り方を考えねばならないだろう?」
——グレンと結婚……にかなり心は傾いていた。でもアシュリーが歳を取らずに生きていくともし知ったら……それでも受け入れてくれるだろうか。アシュリーはグレンやこの屋敷の人々を不幸にしないだろうか……。
「アシュリー。こんな話はつらいだろうが、考えないわけにはいかない」
「はい……」
「もし、もし……」
「?」
めずらしく先生が言葉を濁らせる。
「これは君の加護を得ようとか、そんな意図ではないので誤解しないで欲しいのだが」
「はい」
「私は君を娶ってもいいと思っている」
「えっ」
「もし行き場がなければ、の話だ」
先生は悲しそうなやさしい目でアシュリーを見つめる。
「私の曽祖父とフェアリーの間に何があったかはわからない。でもずっとフェアリーたちと浅からぬ関係があった一族で、何より私の中にもその血が流れている。過去の因縁はどうであれ、私は君を守りたい」
「先生……」
先生はそっとアシュリーの頬に手を当てると、顔を近づけてきた。アシュリーも目を閉じ、そのくちびるを受け入れた。快感を求めるためのキスではなく、心を通じ合わせるような触れあいにアシュリーは身をゆだね、先生の背中にしっかりと腕を回した。
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