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33話・死の真相
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その日の夕食は、グレンと入れ替わりに帰ってきたお父さんが一緒だった。そのせいで最初降りてこなかったエルナンも、父に顔を見せなさいと呼び出され食堂へやってきた。
しかし、ちらりとアシュリーの顔を見ると、眉を寄せ顔を赤くしてうつむいてしまった。
エルナンの父は「ほう」という顔をしてエルナンとアシュリーの様子を見ていたが、アシュリーはアシュリーで、先生から聞いた過去の話やこれからのこと、グレンと先生からの求婚など、考えることがいっぱいでエルナンのおかしな様子にも気づけないでいた。
お屋敷からいなくなった庭師、そしてフェアリーのフューシャ。フューシャは庭師を追いかけて出ていったのだろうか。フューシャは庭師の方を愛していたのかしら……。
(明日……明日、ジャンに曾祖父さんの話を聞いてみよう……)
そんな風に考えていた。
——翌朝、どんよりと曇っていて今にも雨が降りそうだ。朝食を食べてから早めにいつもの温室に向かってみる。今はまだ午前中の仕事中だろうから待つつもりでいたが、温室の裏手に回るとそこにはジャンと中年の男性がふたりで話し込んでいた。
「アシュリー」
「ジャン……おはよう」
「おはよう、ちょうどよかった」
ジャンがもう一人の男性と目を合わせてから、アシュリーに向かって紹介してくれる。
「俺の父親のコビーだ」
「!!」
ジャンより少し小柄で顔立ちもやさしいが、面差しはよく似ている。
「はじめまして、息子が世話になっとります」
そう言って帽子を取って微笑んでくれる。
「は、はじめまして。あたしはアシュリーです」
「親父もここの庭師なんだ。いつもは表側で仕事しているが」
どうやら広い庭園を分担していて、ジャンは北側の、お父さんは南側を主に世話しているらしい。
「アシュリーのことを話したんだ。緑の護り手の加護のことも。そしたら話したいというからここで待っていた」
「あたしも、曾祖父さんのこと聞きたくて……お父さんに会えてよかった」
「そうですか。どんなことですかな」
「えぇっと……」
ちらとジャンの方を見ると、「話してくれ」と促されたので、そのまま続ける。
「ジャンの曾祖父さんは……もしかしてここの屋敷にいた庭師さん……ですか? 前の持ち主の時に」
「そうです。正しくは前の持ち主は管財人なので、前の前の持ち主ですがね」
「管財人……」
「以前の持ち主が破産してしまったので、三十年ほど誰も住まずに管理だけされておりました」
「なるほど……」
その説明で、アシュリーにもなんとなくは理解できた。ただそこから何と話していいのかわからなくなってしまった。
「あ、あの……」
仕方なくアシュリーは率直に訊いた。
「ジャンの曾祖母さんはフェアリーなのですか?」
するとコビーもジャンも目を見開いてアシュリーを見た。
「……」
「驚きましたな。それは違います」
「あ……じゃあ、フューシャは曾祖父さんを追って出ていったわけじゃ……」
「……どこでそんな話を?」
「えっと……その……前の持ち主について調べていたんです……。どうして没落してしまったのか気になって」
「理由はわかりましたか?」
「庭師がいなくなって、庭が荒れ放題になって花園のフェアリーたちが去っていったって……。そのあとしばらくして、加護を与えてたフューシャも姿を消してしまったと」
「なるほど……そうでしたか」
コビーとジャンは目を見合わせている。
「アシュリーさん、祖父のジムは一度だけフェアリーと結ばれて加護を授かりました。しかし、そのフェアリーは屋敷のおぼっちゃまに見初められて結婚し、以降は近しい友人としての付き合いだったのです。その後、ジムも同じ使用人だった祖母と結婚しとります。」
「……!!」
なんだか自分の境遇と少しだけ似ている、とアシュリーは驚いた。
「おぼっちゃまは歳をとるうちにとても嫉妬に苦しまれたようで……というのも、フェアリーはいつまでも美しく若かったのです。そんなところに、昔フェアリーとジムが絆を結んでいたことを知ってしまったものだから、とてもお怒りになってジムを追い出しました」
「そんな……」
「ジムと一緒に働いていた私の祖母や両親も家族ぐるみで出ていくことになり、屋敷を追い出されたという噂で新しい仕事に就くのも難しく……苦労を重ねてジムは数年で亡くなりました。この屋敷が管財人のものになってやっと、私の父がこの屋敷に庭師として呼び戻されたのです」
アシュリーはしばらく言葉を失っていたが、絞り出すように言った。
「……フェアリーは……ジムさんを不幸にしてしまったのね……」
コビーは気づかわしげな顔をしてアシュリーを見つめて言った。
「いや、そうは思いませんです」
「え?」
「祖父が亡くなった時、まだわしも幼かったが……恨み言の一つも聞いたことはありません。いつも幸せそうでした。わしも、ジャンもそうだが、この仕事がとても好きなのです。緑の護り手になり、植物たちをもっと理解できるようになることは喜びでしかない……。ジャンもあなたの加護を得られたことを、とても幸せそうに話してくれました」
ジャンを見ると、照れくさそうにしていてそんな表情はとても珍しいと思った。
「ジャンのことをよろしくお願いします。過去のフェアリーとのいざこざでアシュリーさんを悪く思うことはありません。でも、同じ不幸は生まずに済むならその方がいい。わしらにできることは少ないでしょうが、何かあったら力になりましょう」
しかし、ちらりとアシュリーの顔を見ると、眉を寄せ顔を赤くしてうつむいてしまった。
エルナンの父は「ほう」という顔をしてエルナンとアシュリーの様子を見ていたが、アシュリーはアシュリーで、先生から聞いた過去の話やこれからのこと、グレンと先生からの求婚など、考えることがいっぱいでエルナンのおかしな様子にも気づけないでいた。
お屋敷からいなくなった庭師、そしてフェアリーのフューシャ。フューシャは庭師を追いかけて出ていったのだろうか。フューシャは庭師の方を愛していたのかしら……。
(明日……明日、ジャンに曾祖父さんの話を聞いてみよう……)
そんな風に考えていた。
——翌朝、どんよりと曇っていて今にも雨が降りそうだ。朝食を食べてから早めにいつもの温室に向かってみる。今はまだ午前中の仕事中だろうから待つつもりでいたが、温室の裏手に回るとそこにはジャンと中年の男性がふたりで話し込んでいた。
「アシュリー」
「ジャン……おはよう」
「おはよう、ちょうどよかった」
ジャンがもう一人の男性と目を合わせてから、アシュリーに向かって紹介してくれる。
「俺の父親のコビーだ」
「!!」
ジャンより少し小柄で顔立ちもやさしいが、面差しはよく似ている。
「はじめまして、息子が世話になっとります」
そう言って帽子を取って微笑んでくれる。
「は、はじめまして。あたしはアシュリーです」
「親父もここの庭師なんだ。いつもは表側で仕事しているが」
どうやら広い庭園を分担していて、ジャンは北側の、お父さんは南側を主に世話しているらしい。
「アシュリーのことを話したんだ。緑の護り手の加護のことも。そしたら話したいというからここで待っていた」
「あたしも、曾祖父さんのこと聞きたくて……お父さんに会えてよかった」
「そうですか。どんなことですかな」
「えぇっと……」
ちらとジャンの方を見ると、「話してくれ」と促されたので、そのまま続ける。
「ジャンの曾祖父さんは……もしかしてここの屋敷にいた庭師さん……ですか? 前の持ち主の時に」
「そうです。正しくは前の持ち主は管財人なので、前の前の持ち主ですがね」
「管財人……」
「以前の持ち主が破産してしまったので、三十年ほど誰も住まずに管理だけされておりました」
「なるほど……」
その説明で、アシュリーにもなんとなくは理解できた。ただそこから何と話していいのかわからなくなってしまった。
「あ、あの……」
仕方なくアシュリーは率直に訊いた。
「ジャンの曾祖母さんはフェアリーなのですか?」
するとコビーもジャンも目を見開いてアシュリーを見た。
「……」
「驚きましたな。それは違います」
「あ……じゃあ、フューシャは曾祖父さんを追って出ていったわけじゃ……」
「……どこでそんな話を?」
「えっと……その……前の持ち主について調べていたんです……。どうして没落してしまったのか気になって」
「理由はわかりましたか?」
「庭師がいなくなって、庭が荒れ放題になって花園のフェアリーたちが去っていったって……。そのあとしばらくして、加護を与えてたフューシャも姿を消してしまったと」
「なるほど……そうでしたか」
コビーとジャンは目を見合わせている。
「アシュリーさん、祖父のジムは一度だけフェアリーと結ばれて加護を授かりました。しかし、そのフェアリーは屋敷のおぼっちゃまに見初められて結婚し、以降は近しい友人としての付き合いだったのです。その後、ジムも同じ使用人だった祖母と結婚しとります。」
「……!!」
なんだか自分の境遇と少しだけ似ている、とアシュリーは驚いた。
「おぼっちゃまは歳をとるうちにとても嫉妬に苦しまれたようで……というのも、フェアリーはいつまでも美しく若かったのです。そんなところに、昔フェアリーとジムが絆を結んでいたことを知ってしまったものだから、とてもお怒りになってジムを追い出しました」
「そんな……」
「ジムと一緒に働いていた私の祖母や両親も家族ぐるみで出ていくことになり、屋敷を追い出されたという噂で新しい仕事に就くのも難しく……苦労を重ねてジムは数年で亡くなりました。この屋敷が管財人のものになってやっと、私の父がこの屋敷に庭師として呼び戻されたのです」
アシュリーはしばらく言葉を失っていたが、絞り出すように言った。
「……フェアリーは……ジムさんを不幸にしてしまったのね……」
コビーは気づかわしげな顔をしてアシュリーを見つめて言った。
「いや、そうは思いませんです」
「え?」
「祖父が亡くなった時、まだわしも幼かったが……恨み言の一つも聞いたことはありません。いつも幸せそうでした。わしも、ジャンもそうだが、この仕事がとても好きなのです。緑の護り手になり、植物たちをもっと理解できるようになることは喜びでしかない……。ジャンもあなたの加護を得られたことを、とても幸せそうに話してくれました」
ジャンを見ると、照れくさそうにしていてそんな表情はとても珍しいと思った。
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