センシティブなフェアリーの愛♡協奏曲《ラブコンツェルト》

夏愛 眠

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43話・嫉妬

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 翌朝の馬車の中、アシュリーは初めて見る屋敷の外の風景に見入っていた。



 グレンは眠そうにしながらも、あれは何?何するもの?と次々に訊ねるアシュリーに答えてくれていたが、少し反応が鈍くなってきて振り返ってみると、腕を組んで目を閉じている。



「……。グレン、眠い?」

「ん……。君のおねだりには参るな、抗えない」



 そう言うとアシュリーの腰を抱き寄せ、肩に顔をうずめた。



「ぁん」



 首元に息がかかるだけでつい感じて声が出る。



「もう……そんなにすぐ感じるな」

 グレンは叱るように言いながらも、ギュッと腕に力をこめる。



「いつもは退屈な移動時間もアシュリーと二人ならいいな……」



 ふと、アシュリーは聞きたかったことを思い出した。



「ねぇ、グレン」

「ん?」

「あたしがグレンの部屋で生まれたあと、あたしたち会ったことある?」

「あるよ。俺は毎日花園に通ってた」

「!! そうなの??」

「うん。アシュリーは大抵寝てた」

「ええっ」



「花園ではなく室内で生まれたせいで、生まれた時に必要な自然のエネルギーを充分にもらえなかったらしい。いつも花の中や木の上、土に半分埋まってた時もあったな」



 グレンは思い出したようにクスッと笑う。



「ええ~、覚えてない……」



「俺はいつも見てるだけだった。アシュリーが活動的に動き出してからも、人には近づいてこなかったしな。そのうちに王都の学校の寮に入って、なかなか行けないうちにエルナンたちが君の友だちになってしまった。あの時は嫉妬したな」



「そうだったの?」



「その頃にはフェアリーたちの姿もはっきり見えなくなっていたし、もう会えないと思っていた。こうして、抱きしめられる日が来るなんてな」



 グレンが抱きしめる腕に力を込めたので、アシュリーはその腕を撫でた。しばらくすると、ぐう、とグレンがいびきをかいて、寝てると気づいた。その胸にもたれかかってアシュリーも少し眠った。





 ゴトゴトゴトゴト……



 轍の音が変わり、振動が大きくなって目が覚めた。



「王都に入ったぞ。」

「ん……ガタガタする……それに変なにおい……」



 アシュリーが寝ぼけてぼんやりしていると、グレンが苦笑して教えてくれる。



「石畳が多いんだ。この辺りは工業化が進んでるから空気もよくない」



 窓の外を覗くと、空気の色がグレーに見える気がした。



「わぁ、あの馬車はどうなってるの?動物が引いていないわ」

「あれは自動車だ。燃料を燃やして走るから動物が必要ないんだよ」

「すごい……!素敵ね」

「ああ、その代わり排気ガスが空気を汚してしまうのが難点だ」

「へぇ……」



 見回すと小さくて背の高い建物が密集して立っていて、窮屈な感じがする。



「ここが王都……」

「の、下町だね。中央部に行くと王城があってもっとゆったりとしている」



 ふとグレンがアシュリーの顔をまじまじ見る。



「……?」

「苦しかったり辛かったりする?」

「ううん、大丈夫。でもフェアリーの体だったら無理だったかも」

「そうか……ごめん、考えなしに連れてきてしまった」

「ふふ。あたしも、考えなしについてきちゃった」



 アシュリーがそう言うと、むちゅっとキスをされる。



「んっ」

「好きだよ」

「うん、あたしも」



 見つめ合いながら、アシュリーがグレンの手を握った時、馬車が止まった。



「あれ?」

「ついたの?」

「いや、まだ……」



 コンコンとノックの後、御者側の窓が開く。



「前の馬車が脱輪して立ち往生しているようです。迂回して進みます」

「わかった」



 アシュリーは窓から様子を見てみると、ちょうどその馬車から一人の女性が出てきたところだった。



「女の人だわ。困っているみたい」

「ん……? そうだな……」



 グレンは御者に様子を見てくるように指示をして、方向が同じなら同乗させてあげるように伝えた。



 しばらくして、扉がノックされ御者に案内された女性が乗り込んできた。



「ご親切に感謝します。事務所がすぐ近くなのですが、荷物が多いので困っておりましたの」

 外では相手側の御者が荷物置きにトランクを二つほど積み込んでいる。



 女性がケイティー・マレットと名乗ると、グレンはとても驚いた。



「あなたが噂の……。マレットさん、お会いできて光栄です。私はグレン・ランディス、彼女はアシュリー・……ええと、もうすぐランディスになります」

「まぁ!婚約者でいらっしゃるの?おめでとうございます」



 ケイティー・マレットは女性ながらに事業を起こし、男性社会で成功をおさめていると有名な女性らしい。美しい顔立ちにキラキラした目、成功者の自信もあふれていて、魅力的な女性だった。ケイティも実業家のランディス家のことは知っており、彼女の事務所までの道すがらビジネスの話で盛り上がっていた。



 目的地に到着すると、ケイティーは丁寧にお礼をし「ぜひ今度取引のお話をしたいですわ」と微笑んで降りていった。



「アシュリー。これは君の加護なのかな?」

「え?」

「ケイティー・マレットは才能ある実業家でな。人気があってなかなか渡りがつけるのが難しかったんだ」

「そう、なの……」



アシュリーはなんとなくもやもやした気持ちでグレンの腕にしがみつく。



「どうした?」

「あたし……」



 一目見たとき、アシュリーは彼女に好感を持った。なのに、今はもう二度と会いたくない気持ちになっている。グレンとケイティーの楽しそうな話はさっぱり意味が分からなかったから。



「グレン、楽しそうだった……」

「ん? もしかして妬いてくれてるの?」

「なに?」

「俺が彼女になびくと思ったの?」

「思わない、けど……」

「けど?」



 グレンは面白そうな顔をしてアシュリーを観察している。



「もう!わかんない!」

 アシュリーが怒ると、ぎゅうっと抱きしめてくれる。



「きっとヤキモチだよ、その気持ち。早く結婚して俺をアシュリーだけのものにしてくれ」

「……うん」



アシュリーはグレンの背中に手を回して、ぎゅううううっと抱き返した。
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