44 / 49
43話・嫉妬
しおりを挟む
翌朝の馬車の中、アシュリーは初めて見る屋敷の外の風景に見入っていた。
グレンは眠そうにしながらも、あれは何?何するもの?と次々に訊ねるアシュリーに答えてくれていたが、少し反応が鈍くなってきて振り返ってみると、腕を組んで目を閉じている。
「……。グレン、眠い?」
「ん……。君のおねだりには参るな、抗えない」
そう言うとアシュリーの腰を抱き寄せ、肩に顔をうずめた。
「ぁん」
首元に息がかかるだけでつい感じて声が出る。
「もう……そんなにすぐ感じるな」
グレンは叱るように言いながらも、ギュッと腕に力をこめる。
「いつもは退屈な移動時間もアシュリーと二人ならいいな……」
ふと、アシュリーは聞きたかったことを思い出した。
「ねぇ、グレン」
「ん?」
「あたしがグレンの部屋で生まれたあと、あたしたち会ったことある?」
「あるよ。俺は毎日花園に通ってた」
「!! そうなの??」
「うん。アシュリーは大抵寝てた」
「ええっ」
「花園ではなく室内で生まれたせいで、生まれた時に必要な自然のエネルギーを充分にもらえなかったらしい。いつも花の中や木の上、土に半分埋まってた時もあったな」
グレンは思い出したようにクスッと笑う。
「ええ~、覚えてない……」
「俺はいつも見てるだけだった。アシュリーが活動的に動き出してからも、人には近づいてこなかったしな。そのうちに王都の学校の寮に入って、なかなか行けないうちにエルナンたちが君の友だちになってしまった。あの時は嫉妬したな」
「そうだったの?」
「その頃にはフェアリーたちの姿もはっきり見えなくなっていたし、もう会えないと思っていた。こうして、抱きしめられる日が来るなんてな」
グレンが抱きしめる腕に力を込めたので、アシュリーはその腕を撫でた。しばらくすると、ぐう、とグレンがいびきをかいて、寝てると気づいた。その胸にもたれかかってアシュリーも少し眠った。
ゴトゴトゴトゴト……
轍の音が変わり、振動が大きくなって目が覚めた。
「王都に入ったぞ。」
「ん……ガタガタする……それに変なにおい……」
アシュリーが寝ぼけてぼんやりしていると、グレンが苦笑して教えてくれる。
「石畳が多いんだ。この辺りは工業化が進んでるから空気もよくない」
窓の外を覗くと、空気の色がグレーに見える気がした。
「わぁ、あの馬車はどうなってるの?動物が引いていないわ」
「あれは自動車だ。燃料を燃やして走るから動物が必要ないんだよ」
「すごい……!素敵ね」
「ああ、その代わり排気ガスが空気を汚してしまうのが難点だ」
「へぇ……」
見回すと小さくて背の高い建物が密集して立っていて、窮屈な感じがする。
「ここが王都……」
「の、下町だね。中央部に行くと王城があってもっとゆったりとしている」
ふとグレンがアシュリーの顔をまじまじ見る。
「……?」
「苦しかったり辛かったりする?」
「ううん、大丈夫。でもフェアリーの体だったら無理だったかも」
「そうか……ごめん、考えなしに連れてきてしまった」
「ふふ。あたしも、考えなしについてきちゃった」
アシュリーがそう言うと、むちゅっとキスをされる。
「んっ」
「好きだよ」
「うん、あたしも」
見つめ合いながら、アシュリーがグレンの手を握った時、馬車が止まった。
「あれ?」
「ついたの?」
「いや、まだ……」
コンコンとノックの後、御者側の窓が開く。
「前の馬車が脱輪して立ち往生しているようです。迂回して進みます」
「わかった」
アシュリーは窓から様子を見てみると、ちょうどその馬車から一人の女性が出てきたところだった。
「女の人だわ。困っているみたい」
「ん……? そうだな……」
グレンは御者に様子を見てくるように指示をして、方向が同じなら同乗させてあげるように伝えた。
しばらくして、扉がノックされ御者に案内された女性が乗り込んできた。
「ご親切に感謝します。事務所がすぐ近くなのですが、荷物が多いので困っておりましたの」
外では相手側の御者が荷物置きにトランクを二つほど積み込んでいる。
女性がケイティー・マレットと名乗ると、グレンはとても驚いた。
「あなたが噂の……。マレットさん、お会いできて光栄です。私はグレン・ランディス、彼女はアシュリー・……ええと、もうすぐランディスになります」
「まぁ!婚約者でいらっしゃるの?おめでとうございます」
ケイティー・マレットは女性ながらに事業を起こし、男性社会で成功をおさめていると有名な女性らしい。美しい顔立ちにキラキラした目、成功者の自信もあふれていて、魅力的な女性だった。ケイティも実業家のランディス家のことは知っており、彼女の事務所までの道すがらビジネスの話で盛り上がっていた。
目的地に到着すると、ケイティーは丁寧にお礼をし「ぜひ今度取引のお話をしたいですわ」と微笑んで降りていった。
「アシュリー。これは君の加護なのかな?」
「え?」
「ケイティー・マレットは才能ある実業家でな。人気があってなかなか渡りがつけるのが難しかったんだ」
「そう、なの……」
アシュリーはなんとなくもやもやした気持ちでグレンの腕にしがみつく。
「どうした?」
「あたし……」
一目見たとき、アシュリーは彼女に好感を持った。なのに、今はもう二度と会いたくない気持ちになっている。グレンとケイティーの楽しそうな話はさっぱり意味が分からなかったから。
「グレン、楽しそうだった……」
「ん? もしかして妬いてくれてるの?」
「なに?」
「俺が彼女になびくと思ったの?」
「思わない、けど……」
「けど?」
グレンは面白そうな顔をしてアシュリーを観察している。
「もう!わかんない!」
アシュリーが怒ると、ぎゅうっと抱きしめてくれる。
「きっとヤキモチだよ、その気持ち。早く結婚して俺をアシュリーだけのものにしてくれ」
「……うん」
アシュリーはグレンの背中に手を回して、ぎゅううううっと抱き返した。
グレンは眠そうにしながらも、あれは何?何するもの?と次々に訊ねるアシュリーに答えてくれていたが、少し反応が鈍くなってきて振り返ってみると、腕を組んで目を閉じている。
「……。グレン、眠い?」
「ん……。君のおねだりには参るな、抗えない」
そう言うとアシュリーの腰を抱き寄せ、肩に顔をうずめた。
「ぁん」
首元に息がかかるだけでつい感じて声が出る。
「もう……そんなにすぐ感じるな」
グレンは叱るように言いながらも、ギュッと腕に力をこめる。
「いつもは退屈な移動時間もアシュリーと二人ならいいな……」
ふと、アシュリーは聞きたかったことを思い出した。
「ねぇ、グレン」
「ん?」
「あたしがグレンの部屋で生まれたあと、あたしたち会ったことある?」
「あるよ。俺は毎日花園に通ってた」
「!! そうなの??」
「うん。アシュリーは大抵寝てた」
「ええっ」
「花園ではなく室内で生まれたせいで、生まれた時に必要な自然のエネルギーを充分にもらえなかったらしい。いつも花の中や木の上、土に半分埋まってた時もあったな」
グレンは思い出したようにクスッと笑う。
「ええ~、覚えてない……」
「俺はいつも見てるだけだった。アシュリーが活動的に動き出してからも、人には近づいてこなかったしな。そのうちに王都の学校の寮に入って、なかなか行けないうちにエルナンたちが君の友だちになってしまった。あの時は嫉妬したな」
「そうだったの?」
「その頃にはフェアリーたちの姿もはっきり見えなくなっていたし、もう会えないと思っていた。こうして、抱きしめられる日が来るなんてな」
グレンが抱きしめる腕に力を込めたので、アシュリーはその腕を撫でた。しばらくすると、ぐう、とグレンがいびきをかいて、寝てると気づいた。その胸にもたれかかってアシュリーも少し眠った。
ゴトゴトゴトゴト……
轍の音が変わり、振動が大きくなって目が覚めた。
「王都に入ったぞ。」
「ん……ガタガタする……それに変なにおい……」
アシュリーが寝ぼけてぼんやりしていると、グレンが苦笑して教えてくれる。
「石畳が多いんだ。この辺りは工業化が進んでるから空気もよくない」
窓の外を覗くと、空気の色がグレーに見える気がした。
「わぁ、あの馬車はどうなってるの?動物が引いていないわ」
「あれは自動車だ。燃料を燃やして走るから動物が必要ないんだよ」
「すごい……!素敵ね」
「ああ、その代わり排気ガスが空気を汚してしまうのが難点だ」
「へぇ……」
見回すと小さくて背の高い建物が密集して立っていて、窮屈な感じがする。
「ここが王都……」
「の、下町だね。中央部に行くと王城があってもっとゆったりとしている」
ふとグレンがアシュリーの顔をまじまじ見る。
「……?」
「苦しかったり辛かったりする?」
「ううん、大丈夫。でもフェアリーの体だったら無理だったかも」
「そうか……ごめん、考えなしに連れてきてしまった」
「ふふ。あたしも、考えなしについてきちゃった」
アシュリーがそう言うと、むちゅっとキスをされる。
「んっ」
「好きだよ」
「うん、あたしも」
見つめ合いながら、アシュリーがグレンの手を握った時、馬車が止まった。
「あれ?」
「ついたの?」
「いや、まだ……」
コンコンとノックの後、御者側の窓が開く。
「前の馬車が脱輪して立ち往生しているようです。迂回して進みます」
「わかった」
アシュリーは窓から様子を見てみると、ちょうどその馬車から一人の女性が出てきたところだった。
「女の人だわ。困っているみたい」
「ん……? そうだな……」
グレンは御者に様子を見てくるように指示をして、方向が同じなら同乗させてあげるように伝えた。
しばらくして、扉がノックされ御者に案内された女性が乗り込んできた。
「ご親切に感謝します。事務所がすぐ近くなのですが、荷物が多いので困っておりましたの」
外では相手側の御者が荷物置きにトランクを二つほど積み込んでいる。
女性がケイティー・マレットと名乗ると、グレンはとても驚いた。
「あなたが噂の……。マレットさん、お会いできて光栄です。私はグレン・ランディス、彼女はアシュリー・……ええと、もうすぐランディスになります」
「まぁ!婚約者でいらっしゃるの?おめでとうございます」
ケイティー・マレットは女性ながらに事業を起こし、男性社会で成功をおさめていると有名な女性らしい。美しい顔立ちにキラキラした目、成功者の自信もあふれていて、魅力的な女性だった。ケイティも実業家のランディス家のことは知っており、彼女の事務所までの道すがらビジネスの話で盛り上がっていた。
目的地に到着すると、ケイティーは丁寧にお礼をし「ぜひ今度取引のお話をしたいですわ」と微笑んで降りていった。
「アシュリー。これは君の加護なのかな?」
「え?」
「ケイティー・マレットは才能ある実業家でな。人気があってなかなか渡りがつけるのが難しかったんだ」
「そう、なの……」
アシュリーはなんとなくもやもやした気持ちでグレンの腕にしがみつく。
「どうした?」
「あたし……」
一目見たとき、アシュリーは彼女に好感を持った。なのに、今はもう二度と会いたくない気持ちになっている。グレンとケイティーの楽しそうな話はさっぱり意味が分からなかったから。
「グレン、楽しそうだった……」
「ん? もしかして妬いてくれてるの?」
「なに?」
「俺が彼女になびくと思ったの?」
「思わない、けど……」
「けど?」
グレンは面白そうな顔をしてアシュリーを観察している。
「もう!わかんない!」
アシュリーが怒ると、ぎゅうっと抱きしめてくれる。
「きっとヤキモチだよ、その気持ち。早く結婚して俺をアシュリーだけのものにしてくれ」
「……うん」
アシュリーはグレンの背中に手を回して、ぎゅううううっと抱き返した。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
私は5歳で4人の許嫁になりました【完結】
Lynx🐈⬛
恋愛
ナターシャは公爵家の令嬢として産まれ、5歳の誕生日に、顔も名前も知らない、爵位も不明な男の許嫁にさせられた。
それからというものの、公爵令嬢として恥ずかしくないように育てられる。
14歳になった頃、お行儀見習いと称し、王宮に上がる事になったナターシャは、そこで4人の皇子と出会う。
皇太子リュカリオン【リュカ】、第二皇子トーマス、第三皇子タイタス、第四皇子コリン。
この4人の誰かと結婚をする事になったナターシャは誰と結婚するのか………。
※Hシーンは終盤しかありません。
※この話は4部作で予定しています。
【私が欲しいのはこの皇子】
【誰が叔父様の側室になんてなるもんか!】
【放浪の花嫁】
本編は99話迄です。
番外編1話アリ。
※全ての話を公開後、【私を奪いに来るんじゃない!】を一気公開する予定です。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる