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〈悪役王子〉と〈ヒロイン〉花街編
【22】五日目――富豪様と、宝石で −1− ★
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娼妓イリスの今宵の相手は、青楼ファリィサの楼主と故郷を同じくする東方の人間だった。黒の髪と黒の瞳をもち、臙脂色の衣に金の刺繍という華やかな装いをした彼は、夜の名を〝エスト〟と名乗る。
近頃はこの国で商いをしており、莫大な資産をもつことから、異世界のオトメゲームなる物語の中では〝富豪様〟という役柄になっているらしい。いつも王都でシシリーたちと作戦会議をしているフィリップいわく。
「ん……っ、ぁん、ん……」
「――できました。とっても可愛いですね、イリス」
ふんわりと微笑んで、黒髪の彼はアリシアの秘処から顔を上げた。彼女は壁際に背をつけて脚を開くように立たされており、彼はその足元にひざまずいて花芽を愛でていたところだった。舐められてぷっくりと赤くなったその小さな芽の根元には、金細工の小さな輪っかが嵌められている。これも一種の性具らしい。
一昨日の騎士様とは、男の大剣で。昨日の魔法士様とは、火と水と草の魔法で。そして、今日の富豪様とは――金銀や宝石で作られた性具、大人の玩具で。
そうやって遊ぶことになるのが今のオトメゲームのシナリオであり、これらはすべて決められたイベントなのだと。シシリーの転生前の世界にあったオトメゲームという物語をなぞらせるように、絵物語にある場面を作らせるようにこの世界と人々は呪われるから、無理やりさせられる前にその場面を演じる必要があるのだと。
青楼で夜の支度をして待つことしかできないアリシアは、ただフィリップからそれを一方的に聞かされた。まるで言い訳のようだと思った。いろいろと激しくしてしまうけど許してね、というような。
「ねえ、イリス。わたくしのものも、舐めてくれますか?」
「はい、もちろんです。エストさま……」
体勢を変え、今度は彼が立ち、アリシアがひざまずく。くつろげた着物の向こうから露わになったそれは、すでに大きくなりかけていた。
目に見える色や形は、フィリップのそれとは違う。でも、記憶の中の彼のものと同じように血管が浮き出ていて、赤黒い様子はグロテスクだ。
「貴女を舐めている間に、昂ってしまいました……」という彼の言葉に内心ときめきながらも、仕草としては無視をして、彼女は彼を責めはじめる。アリシアに身につけさせたのと同じように、根元に金製の輪を嵌めた雄芯を。
「んぐ……っ、あぁ、気持ちいいです……!」
富豪エストの声で、言い方で、彼はうっとりと言葉を漏らす。ここも指と同様、触れた時の長さや太さは、本当のフィリップのものなのだろう。すべてをしゃぶるには華奢すぎるアリシアは、根元に近いところは両の手でしごきながら、その亀頭や裏筋を丁寧に舐めた。
「はぁ、ああ……っ、だ、だめです、あぁ……イきそう……です」
アリシアがこうして彼を愛でるのは、今が初めてではない。十八歳の頃――惚れ薬を飲んでしまった彼に、学院の医務室のベッドで致したことがある。
あの時。フィリップは自分でどうにかすると言っていた。それでもアリシアが頼み込んで、させてもらった。役に立ちたかった。彼を悦ばせてみたかった。
(私に、存在価値をください。いらないと感じない私にさせてください。貴方様と手をとりあって歩める私に、ならせてください……)
昨晩から胸に抱えているモヤモヤのせいか、考え方や感じ方が後ろ向きになっている自覚は、アリシアにもある。事を始める前のいつもの説明だとしても、閨で他の女の名を軽々しく口にするなんて……と些細なことで彼に苛立ってしまった、先ほどの自分にもまた腹が立つ。
(もっと奥まで、しなくては。頑張らなくては)
さらに深く彼を咥えこみ、もっと気持ちよくなってもらおうとする。頬の内側のやわらかいところで、叶うなら喉奥で、彼を包んで触れて愛そうとする。
「ちょ……っと。無理は、するな……」
フィリップらしい一言に、彼女の蜜壺はきゅんとなって液を垂らした。輪を嵌められた芽にも疼きを感じ、彼に触ってもらいたくなってしまう。
「イリスっ、イリス……! あぁ――っ!」
彼の身体がビクンッと震え、彼女の喉にびゅるると精液が注がれる。前にした時と同じように、アリシアはそれを飲み込んだ。
「だ、だから……飲まなくても、いいって、前も、言ったのに……っ」
性具のせいで血流が遅くなっているからだろうか、今宵の彼の瞳はゆっくりと空色になっていった。演技を忘れたように喋って震える唇も、恥ずかしそうに潤む瞳も、アリシアの情欲を愛らしくも煽っていく。
「私が飲みたいから飲んでいるのです。と。私も前に申し上げました」
金の輪に締め付けられて勃起したままの彼の雄芯を、アリシアは指先ですーっと撫でる。彼は「うあぁ!」と声を上げ、ガクンッと腰を震わせ、アリシアの太腿に乗るように崩れ落ちた。
「にゃあ――っ!」
と。その拍子に、彼の先端が、彼女の芽に触れてしまって。皮を剥かれた敏感なそこをぐにっと押された衝撃で、アリシアは小さく潮を吹いた。
「ああっ、ごめん……っ、いきなり触れてしまって……!」
「い、いえ……。ちょっと……軽く果てただけ、ですので……」
ふたりはほとんど同じ高さで視線を交わし、惚れ薬によっていちゃいちゃせざるを得なくなった時のように照れ、ちゅっとキスを交わす。引かれあうことが当然かのように抱きしめあう。
「アリシア……アリシア……っ」
「……フィリップ様」
アリシアは彼の黒髪に触れてみて、ああ、あの銀の髪が恋しいわと切なくなった。もう三日間も本当の彼の姿を見られていない。
彼女は彼を抱きしめていた腕を解き、代わりに頬を包み込んだ。空色と碧色の瞳が、また交わった。
「――今宵は、玩具で遊ぶ時なのでしょう。どうかご遠慮はなさらず、進めてくださいませ」
「……うん」
晴れ空が雨雲に隠されるように、彼の瞳はゆっくりと黒に戻っていく。変身した客の姿になっていく。彼は瞬きをし、心を決めるように息をつき、また微笑んだ。
近頃はこの国で商いをしており、莫大な資産をもつことから、異世界のオトメゲームなる物語の中では〝富豪様〟という役柄になっているらしい。いつも王都でシシリーたちと作戦会議をしているフィリップいわく。
「ん……っ、ぁん、ん……」
「――できました。とっても可愛いですね、イリス」
ふんわりと微笑んで、黒髪の彼はアリシアの秘処から顔を上げた。彼女は壁際に背をつけて脚を開くように立たされており、彼はその足元にひざまずいて花芽を愛でていたところだった。舐められてぷっくりと赤くなったその小さな芽の根元には、金細工の小さな輪っかが嵌められている。これも一種の性具らしい。
一昨日の騎士様とは、男の大剣で。昨日の魔法士様とは、火と水と草の魔法で。そして、今日の富豪様とは――金銀や宝石で作られた性具、大人の玩具で。
そうやって遊ぶことになるのが今のオトメゲームのシナリオであり、これらはすべて決められたイベントなのだと。シシリーの転生前の世界にあったオトメゲームという物語をなぞらせるように、絵物語にある場面を作らせるようにこの世界と人々は呪われるから、無理やりさせられる前にその場面を演じる必要があるのだと。
青楼で夜の支度をして待つことしかできないアリシアは、ただフィリップからそれを一方的に聞かされた。まるで言い訳のようだと思った。いろいろと激しくしてしまうけど許してね、というような。
「ねえ、イリス。わたくしのものも、舐めてくれますか?」
「はい、もちろんです。エストさま……」
体勢を変え、今度は彼が立ち、アリシアがひざまずく。くつろげた着物の向こうから露わになったそれは、すでに大きくなりかけていた。
目に見える色や形は、フィリップのそれとは違う。でも、記憶の中の彼のものと同じように血管が浮き出ていて、赤黒い様子はグロテスクだ。
「貴女を舐めている間に、昂ってしまいました……」という彼の言葉に内心ときめきながらも、仕草としては無視をして、彼女は彼を責めはじめる。アリシアに身につけさせたのと同じように、根元に金製の輪を嵌めた雄芯を。
「んぐ……っ、あぁ、気持ちいいです……!」
富豪エストの声で、言い方で、彼はうっとりと言葉を漏らす。ここも指と同様、触れた時の長さや太さは、本当のフィリップのものなのだろう。すべてをしゃぶるには華奢すぎるアリシアは、根元に近いところは両の手でしごきながら、その亀頭や裏筋を丁寧に舐めた。
「はぁ、ああ……っ、だ、だめです、あぁ……イきそう……です」
アリシアがこうして彼を愛でるのは、今が初めてではない。十八歳の頃――惚れ薬を飲んでしまった彼に、学院の医務室のベッドで致したことがある。
あの時。フィリップは自分でどうにかすると言っていた。それでもアリシアが頼み込んで、させてもらった。役に立ちたかった。彼を悦ばせてみたかった。
(私に、存在価値をください。いらないと感じない私にさせてください。貴方様と手をとりあって歩める私に、ならせてください……)
昨晩から胸に抱えているモヤモヤのせいか、考え方や感じ方が後ろ向きになっている自覚は、アリシアにもある。事を始める前のいつもの説明だとしても、閨で他の女の名を軽々しく口にするなんて……と些細なことで彼に苛立ってしまった、先ほどの自分にもまた腹が立つ。
(もっと奥まで、しなくては。頑張らなくては)
さらに深く彼を咥えこみ、もっと気持ちよくなってもらおうとする。頬の内側のやわらかいところで、叶うなら喉奥で、彼を包んで触れて愛そうとする。
「ちょ……っと。無理は、するな……」
フィリップらしい一言に、彼女の蜜壺はきゅんとなって液を垂らした。輪を嵌められた芽にも疼きを感じ、彼に触ってもらいたくなってしまう。
「イリスっ、イリス……! あぁ――っ!」
彼の身体がビクンッと震え、彼女の喉にびゅるると精液が注がれる。前にした時と同じように、アリシアはそれを飲み込んだ。
「だ、だから……飲まなくても、いいって、前も、言ったのに……っ」
性具のせいで血流が遅くなっているからだろうか、今宵の彼の瞳はゆっくりと空色になっていった。演技を忘れたように喋って震える唇も、恥ずかしそうに潤む瞳も、アリシアの情欲を愛らしくも煽っていく。
「私が飲みたいから飲んでいるのです。と。私も前に申し上げました」
金の輪に締め付けられて勃起したままの彼の雄芯を、アリシアは指先ですーっと撫でる。彼は「うあぁ!」と声を上げ、ガクンッと腰を震わせ、アリシアの太腿に乗るように崩れ落ちた。
「にゃあ――っ!」
と。その拍子に、彼の先端が、彼女の芽に触れてしまって。皮を剥かれた敏感なそこをぐにっと押された衝撃で、アリシアは小さく潮を吹いた。
「ああっ、ごめん……っ、いきなり触れてしまって……!」
「い、いえ……。ちょっと……軽く果てただけ、ですので……」
ふたりはほとんど同じ高さで視線を交わし、惚れ薬によっていちゃいちゃせざるを得なくなった時のように照れ、ちゅっとキスを交わす。引かれあうことが当然かのように抱きしめあう。
「アリシア……アリシア……っ」
「……フィリップ様」
アリシアは彼の黒髪に触れてみて、ああ、あの銀の髪が恋しいわと切なくなった。もう三日間も本当の彼の姿を見られていない。
彼女は彼を抱きしめていた腕を解き、代わりに頬を包み込んだ。空色と碧色の瞳が、また交わった。
「――今宵は、玩具で遊ぶ時なのでしょう。どうかご遠慮はなさらず、進めてくださいませ」
「……うん」
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