48 / 71
〈悪役王子〉と〈ヒロイン〉王都編
【48】悪役王子とヒロインの結婚 −式と夜− ★
しおりを挟む――扉が開き、美しい花嫁が現れる。
ヴェールの向こうには髪の薄紅色が透け、華奢な身体はふんわりと純白に包まれていた。スカートはたっぷりのシルクとレースで丸く膨らみ、彼女に豊かな威厳と可愛らしさを同時に纏わせている。
父であるテリフィルア侯爵にエスコートされ、アリシアは花嫁の道を歩いた。
親愛なる母や兄、可愛い妹たちも、この晴れ舞台を見守ってくれている。顔を隠したヴェールの中で、アリシアはゆるく微笑んだ。
シシリーやユースタスは、ここにはいない。
けれど、ふたり一緒に、遠くからでも祝福の想いを送ってくれると言っていた。
ユースタスは休暇をとって、花街で暮らすシシリーに、今日も会いにいっているのだ。
(どうか、おふたりにも幸せになってほしい――)
願うアリシアのヴェールが、ふわりと揺れる。
離れゆく父の温もりと涙の気配を感じた。
(いよいよね)
胸がじんと熱くなり、アリシアは小さく息を吸う。
彼女は、無事に、新郎の隣へと送り届けられた。
(ああ、殿下……――フィリップ様)
ヴェール越しに見ても彼は素敵で、かっこよく、アリシアは心臓をドキドキさせる。ときめいてしまう。
ステンドグラスの光が、色鮮やかに新郎新婦を照らす。白いドレスや礼服に、花びらのような光が落ちている。彼の銀糸の髪も、きらきらと輝く。
儀式が進み、言葉を交わし、名を綴り。
ついにフィリップは、アリシアのヴェールをはらりとあげた。
誓いのキスの時だった。
「――アリシア」
小声で呼んで、アリシアの頬に手を添える。
「……はい。殿下」
目を瞑ったアリシアの唇に、ふ、とやわらかな熱が触れた。
幼き頃に、初めて交わしたキスのような。
甘くて、優しい、幸せな口づけだった。
アリシアとフィリップの婚儀は、未来の王と王妃の式らしく、盛大に執り行われた。
婚礼衣装姿のアリシアを、フィリップはいっぱい褒めて可愛がってくれた。
「世界でいちばん綺麗だ。アリシア。最高に可愛い。素敵だ。可愛い。可愛い……」
「あ、ありがとうございます。貴方様も素敵です、殿下」
「殿下じゃない、フィリップだ。もう名前で呼んでも誰にも咎められない。ほら、呼んで?」
「フィリップ様――」
「ああ、可愛い。可愛いね。大好き」
ちゅっ、ちゅと額や頬にも口づけられて。神殿での式も、お披露目の宴も、城下でのパレードも無事に終わって。王宮での支度を済ませたら。
(今度は、ついに、初夜の儀式を――……)
***
女官たちやヘレンにお支度をされた身体で、夜の白い衣装に包まれたアリシアは、夫婦の寝室にて彼を待つ。
ドキドキと胸を高鳴らせていると、扉が開き、大好きなひとが顔を出した。
「アリシア、お待たせ」
フィリップはゆるく微笑んで言う。アリシアよりも、いくらか余裕のありそうな様子だった。
「あっ、こんばんは……ふぃ、フィリップ様」
ふたりは寄り添い、抱きしめあい、キスを交わす。
頬を撫でられ、髪を掬われ、アリシアの緊張もいくらか和らいだ。
「では、始めようか」
「はい――」
青楼での水揚げの儀式の時のように、夫婦の初夜の儀式でも、男女は薬酒を飲ませあうことになっている。
色欲を煽る香の焚かれた寝室で、あの日のように。アリシアとフィリップは互いに酒を口移しした。
ふたりの唇を舞台に水音が鳴り、花嫁の嬌声が小さく漏れる。
「ん……んんっ、ん」
「可愛いよ、アリシア」
「ふぅ……んっ」
最後のひとくちを交わし終えると、フィリップは、アリシアにふつうのキスをする。彼女の左耳をくすぐって、可愛い可愛いと幸せそうに囁いて、彼女の花を濡らしてしまう。
「ふゃ、にゃ……ぁ」
「お耳、気持ちいい?」
「ぅん……」
「ふふ、可愛い……大好き。ベッドまで抱っこしたげるね……」
フィリップの逞しい腕にお姫様抱っこをされ、嬉しくなったアリシアは、彼の首に腕を絡める。「好きです」とあふれた想いを呟くと、額に彼からのキスが降ってきて、さらにふわふわと嬉しくなった。
香のせいか、酒のせいか、――いや、きっと。大好きなひとと結ばれる純粋な歓喜なのだろう。これは。
花婿は花嫁をベッドへと優しく降ろし、白の衣を手ずから剥いた。真珠の肌を露わにした妃に、王子は幸せそうに触れていく。
――あの幸福感も、恥辱感も、何もかも。
もう二度と感じることはないと思っていた――
薄紅の髪をシーツの上で遊ばせ、甘い責めに身を跳ねさせ、彼女は思う。青楼で過ごした一週間と、王都に帰ってきてから今日までのことを。
娼妓として生き、身に余るほどの快楽を知り、淫らになって。もう王妃の道を外れたと諦めた。
色欲に侵された心をなくし、未来の王妃として育てられた体だけ、みんなの求めるアリシア・テリフィルアだけが居ればいいと決めつけた。
理想像だけを残して去れば、愛するひとも幸せになれると捻くれて。
そうして、一時はここから逃げてしまった……けれど。
「にゃう……んにゃ、や」
「綺麗だよ、アリシア」
「んぅ……ふぁ、フィリップ、さまも、お綺麗……」
「ん。ありがとう」
ちゅっと啄むキスをくれたフィリップに微笑みを返し、アリシアは彼の引き締まった肉体へと手を触れる。魔法にも剣術にも長けた彼の筋肉は、彫刻のように美しい。
やわやわと両胸をほぐすように揉まれながら、彼女は、大好きなひとの鍛えられた裸体に見惚れた。しばらくぺたぺた楽しく触っていると、彼は「余裕そうだね?」と意地悪げに笑う。
「……フィリップ様のお体に、触れていると。愛おしくて、幸せです。ずっと触ってたい……」
「きみというひとは、まったく可愛いことを言う」
「きゃうんっ」
と。胸の先端を不意打ちで摘ままれ、つい、アリシアは子犬のような声を上げてしまった。「にゃんにゃんじゃないの?」と彼はまた愛しい意地悪を言って、アリシアの胸をさらに責める。手の指で乳嘴を捏ねつつ、唇で、胸のやわらかなところやお腹にキスマークをつけていく。紅い花が咲く。
「ふぁん、ゃん、にゃあ……」
「可愛くにゃんにゃんできて偉いね、いい子」
「んにゃあ――っあ!」
ふるりと腰が震え、胸から背、足先へと痺れが走る。軽く果ててしまう。じゅわりとあふれた蜜が内腿を濡らした。
「あぁ……ゃあっ」
「アリシア、好きだよ」
「ん……」
唇を食むキスと一緒に、彼の手は下腹部へと伸びていく。子宮の上をゆるりと撫で、もうすこし先の恥丘へと指を滑らせる。
0
あなたにおすすめの小説
【完結】目覚めたら男爵家令息の騎士に食べられていた件
三谷朱花
恋愛
レイーアが目覚めたら横にクーン男爵家の令息でもある騎士のマットが寝ていた。曰く、クーン男爵家では「初めて契った相手と結婚しなくてはいけない」らしい。
※アルファポリスのみの公開です。
バッドエンド予定の悪役令嬢が溺愛ルートを選んでみたら、お兄様に愛されすぎて脇役から主役になりました
美咲アリス
恋愛
目が覚めたら公爵令嬢だった!?貴族に生まれ変わったのはいいけれど、美形兄に殺されるバッドエンドの悪役令嬢なんて絶対困る!!死にたくないなら冷酷非道な兄のヴィクトルと仲良くしなきゃいけないのにヴィクトルは氷のように冷たい男で⋯⋯。「どうしたらいいの?」果たして私の運命は?
だったら私が貰います! 婚約破棄からはじまる溺愛婚(希望)
春瀬湖子
恋愛
【2025.2.13書籍刊行になりました!ありがとうございます】
「婚約破棄の宣言がされるのなんて待ってられないわ!」
シエラ・ビスターは第一王子であり王太子であるアレクシス・ルーカンの婚約者候補筆頭なのだが、アレクシス殿下は男爵令嬢にコロッと落とされているようでエスコートすらされない日々。
しかもその男爵令嬢にも婚約者がいて⋯
我慢の限界だったシエラは父である公爵の許可が出たのをキッカケに、夜会で高らかに宣言した。
「婚約破棄してください!!」
いらないのなら私が貰うわ、と勢いのまま男爵令嬢の婚約者だったバルフにプロポーズしたシエラと、訳がわからないまま拐われるように結婚したバルフは⋯?
婚約破棄されたばかりの子爵令息×欲しいものは手に入れるタイプの公爵令嬢のラブコメです。
《2022.9.6追記》
二人の初夜の後を番外編として更新致しました!
念願の初夜を迎えた二人はー⋯?
《2022.9.24追記》
バルフ視点を更新しました!
前半でその時バルフは何を考えて⋯?のお話を。
また、後半は続編のその後のお話を更新しております。
《2023.1.1》
2人のその後の連載を始めるべくキャラ紹介を追加しました(キャサリン主人公のスピンオフが別タイトルである為)
こちらもどうぞよろしくお願いいたします。
【完結・おまけ追加】期間限定の妻は夫にとろっとろに蕩けさせられて大変困惑しております
紬あおい
恋愛
病弱な妹リリスの代わりに嫁いだミルゼは、夫のラディアスと期間限定の夫婦となる。
二年後にはリリスと交代しなければならない。
そんなミルゼを閨で蕩かすラディアス。
普段も優しい良き夫に困惑を隠せないミルゼだった…
お腹の子と一緒に逃げたところ、結局お腹の子の父親に捕まりました。
下菊みこと
恋愛
逃げたけど逃げ切れなかったお話。
またはチャラ男だと思ってたらヤンデレだったお話。
あるいは今度こそ幸せ家族になるお話。
ご都合主義の多分ハッピーエンド?
小説家になろう様でも投稿しています。
婚約解消されたら隣にいた男に攫われて、強請るまで抱かれたんですけど?〜暴君の暴君が暴君過ぎた話〜
紬あおい
恋愛
婚約解消された瞬間「俺が貰う」と連れ去られ、もっとしてと強請るまで抱き潰されたお話。
連れ去った強引な男は、実は一途で高貴な人だった。
黒の神官と夜のお世話役
苺野 あん
恋愛
辺境の神殿で雑用係として慎ましく暮らしていたアンジェリアは、王都からやって来る上級神官の夜のお世話役に任命されてしまう。それも黒の神官という異名を持ち、様々な悪い噂に包まれた恐ろしい相手だ。ところが実際に現れたのは、アンジェリアの想像とは違っていて……。※完結しました
今夜は帰さない~憧れの騎士団長と濃厚な一夜を
澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ラウニは騎士団で働く事務官である。
そんな彼女が仕事で第五騎士団団長であるオリベルの執務室を訪ねると、彼の姿はなかった。
だが隣の部屋からは、彼が苦しそうに呻いている声が聞こえてきた。
そんな彼を助けようと隣室へと続く扉を開けたラウニが目にしたのは――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる