君だけのために

れい

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君だけのために

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 寒い冬の夜。おれは刑務所を出た。
殺人をおかしたおれをむかえにくる家族はいなかった。
孤独をかみしめて夜の街を歩いていた。
 翌朝、太陽の光で目をさましたおれは朝食を買いにコンビニに行った。
 久々にコンビニにきたおれは、コーヒーとパンを手にとり、レジに行こうとしたそのとき、いきなり後ろから誰かがぶつかってきた。
ふりかえる間もなく、若い女性の声がした。
「あっ、すみません。」声のした方をむくと、白い杖をもった小柄な女性が立っていた。
長く黒い髪に白いワンピースをきていた。
その姿は刑務所から出てきたおれにとっては純粋な天使に思えた。
「手伝いましょうか?」気づけばおれは目の前の天使に話しかけていた。
彼女はおれにほほえんでくれた。
「いいんですか?それではおねがいします。」
彼女はサンドイッチとブラックコーヒーがほしかったらしく、おれは彼女の肩をもち、売り場までいっしょに行き、手にとってわたした。
そして二人でレジに行って商品を買った。
「たすかりました。ほんとにありがとうございました。なんとおれいを言えばいいかわかりません。」彼女はおおげさなほどおれに感謝した。
「いえ。おれはなにも。」こんなに感謝されたことは初めてでとまどっていた。
「あの、よければこんどわたしの働いてるマッサージ店にきてください。」そう言うと彼女はかばんから1まいのチラシをとりだした。
「ではそろそろ行きますね。今日はありがとうございました。」道にひかれている点字ブロックを白い杖でたしかめながら彼女は駅の方向に歩いて行った。
 彼女とわかれた後、おれは誰もいない公園にむかった。
 歩きながらさっきの天使にしてあげたことをふりかえった。
 おれはあんなことだけでやくにたてていたのか。もっとできることはあったはずと悔やむこともあった。
後悔とまた彼女に会いたいという気持ちがまじりもやもやした。
 公園につき、ベンチにすわるとさっきもらったチラシを見た。
それは小さなマッサージ店のチラシだった。
開業しているらしく、住所も書いてあった。
おれは近いうちにそこに行くことにした。
 ベンチでパンを食べていると、何人かのおばさんが公園にきた。
おれをじっと見てからひそひそなにかを話していた。
その声は、だんだん大きくなっていった。
「あの人、殺人犯よね。」
「やだわ。こわくて子供があそべないわ。」
「わたしたちもあまり近づかないでおきましょ。」おばさんたちはすぐにどこかへ行ってしまった。
 人を殺したのだから当たり前。でもやっぱりショックな気持ちはあった。
パンを食べてからおれは家に帰った。
 つぎの日、おれはチラシをもって昨日会った彼女が働くというマッサージ店にむかった。
 大きなビルがならぶ町に1軒だけ小さなマッサージ店があった。
 ドアをあけるとちりんちりんという音がなった。
「いらっしゃいませ。」そこには白衣に身をつつんだ彼女の姿があった。
「おはようございます。」おれは緊張しながら挨拶した。
「もしかして昨日の人ですか?」笑顔で聞く彼女にすこしふるえる声ではいとこたえた。
「さっそくきてくれたんですね。準備はしています。ベッドによこになってください。」おれは言われるがままにベッドによこになった。
 彼女のマッサージは弱くもなく強くもない力でちょうどよかった。
「そういえばお名前うかがっていませんでしたね。わたしは四宮りんです。」彼女の名前をしれて満足だった。
おれはなのるのをためらった。もし言ってしまえば殺人犯だと気づかれ、もう彼女に会えなくなるとおもった。
おれの名前は山崎真守。その名前が言えずにいた。
「いきなりしつれいしました。」四宮さんはおれをせめたりしなかった。
それからはなにも話さなかった。
 やく1時間ほどで終了した。
 ベッドからおきあがると誰かがドアをあけ入ってきた。
中年の男性だった。
「りんちゃん、今日もきてあげたよ。だからさ、そろそろおれとのことかんがえてよ。」四宮さんはいやがっているようだった。
「ですからなんどもおことわりしているでしょう。」
「目が悪いくせに健常者のおれにさからうのか。いいか、おれは健常者でりんちゃんは障害者。健常者のおれが結婚してやるって言ってんだよ。」四宮さんは泣きそうになっていた。
おれはおもわず口をはさんだ。
「健常者も障害者も同じですよ。同じ人間です。障害者の人はどこか不自由なところがあるにもかかわらずふつうに生活できている。それはすごいことですよ。」男性はおれをどなりつけた。
「うるせー。お前には関係ない。」その瞬間おれの口からとんでもないうそがでた。
「関係ありますよ。だっておれは四宮さんの彼氏ですから。」男性はおどろいてなにも言わずに帰って行った。
「たすかりました。2どもたすけられましたね。」笑顔の彼女をみておれはあれでよかったのだとおもえた。
「あっ、わすれてました。おいくらですか?」おれが聞くと四宮さんはこたえた。
「いりません。たくさんたすけられましたから。それに、ふつうだって言ってくださって嬉しかったです。わたしの周りには視覚障害があるからとばかにしてくる人がいるんです。たくさんいます。けれどあなたはちがいました。感謝しています。」四宮さんはやっぱり天使だとおもった瞬間だった。
 それからおれは毎日店にかようようになった。
四宮さんはそのたび笑ってくれた。
障害者でもしあわせそうに笑うこと、おれなんかにも優しくしてくれること。それをいろんな人にしってほしい。
殺人犯のおれはそこまでおもえるようになった。
 おれは殺人犯であることを彼女に話す決意をした。
「四宮さん、おれじつは人を殺したことがあるんです。すこし前に刑務所から出てきたんです。」四宮さんはこわがることもなく聞いてくれた。
「そうですか。あなたはいけないことをしたかもしれません。その過去はかえられません。でも、そこからどう進むかです。すぎたことはやりなおせないけど、はんせいして良い方向へすすむことはできます。」言ってよかったと心からおもった。
 それからのおれは歩行訓練士になった。
目の不自由な人が一人で歩けるようになるために手伝いをする仕事だ。
 目の不自由な人に肘をもってもらい、歩くてびきのこと。
白杖のつきかたなどをまなんだ。
 おれは四宮さんに出会って恋したからこそかわれた。
今でもおれは彼女が好きだ。彼女は理不尽なことにたえている強い人だ。
おれも彼女をみならおう。それが、今のおれにできること。
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みんなの感想(1件)

三島 仁
2020.01.31 三島 仁

「おれ」の行動を通じて、四宮さんの強さを表現している、と読み取りました。
物語の終わり方、きれいだと思いました。

2020.01.31 れい

感想ありがとうございます。小説を書くのはにがてですが、感想をもらえるとすごくはげみになります。ほんとにありがとうございます。

解除

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