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ー悪ー 第一章 アタラヨ鬼神
第二十九話 封印を解く
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「はぁ......はぁっ......」
少し走っただけなのだが、いつもより疲れてしまう。
特に行先は決まっていない。早くあの場所から逃げ出したかっただけなのだ。
「なんで......なんでみんな......あんなに笑えるの......?」
自分がおかしいのは分かっている。しかし自分からするとありえないと思ってしまうのだ。
「メリーナもシュヴェルツェも皆も......本当におかしいよ......おかしい......おかしすぎる!うんん、僕がおかしいんだ......あぁもうわかんない」
鬼神王は髪の毛を両手で両手でくしゃくしゃとし、落ち着いたらそっとため息をついた。
ぼんやりと前を眺める。
「ここ......来ちゃいけないところだったな」
気づけば立ち寄っては行けない滝の所にいた。昨日のことは忘れていない。昨日の夜、一神でここに来て怖い思いをした。しかし昨日のことがまるで嘘のように、全く恐怖を感じない。むしろ大切な何者かに呼ばれているような気がした。
「気になる」
目の前に見える岩。そして岩の上に描かれた陣。
『あれには乗ってはいけない』シュヴェルツェの声が脳内に響く。けれどそんなのはどうだっていい。どうせこのまま城に戻ったとしても、なぜ逃げたのか聞かれ、自分はなにも説明ができない。ならいっその事、ここで封印を解き、事件を起こせば良い。事件を起こせば皆は鬼神王どころではなくなる。
『封印が解かれると鬼神王でもどうすることも出来ない』......と。食べられてしまうのだろうか。この世界が終わってしまうのだろうか。それでも良い......何故かそう思ってしまう。まるで大切なものを全て失い、後のことはどうでも良いと思うかのように、心は空っぽだった。
鬼神王は陣の上に立とうと足を浮かせた......その時だった。何者かに手を掴まれた。
「べトロ......?」
この肌にベトべトとひっつく感覚はべトロしかいない。やはりそうだ。べトロたちだ。
鬼神王は驚かなかった。ここはべトロたちが見張っているところだ。いるのは当たり前だ。むしろやっと現れたかと思ったぐらいだ。
「離してくれる?」
「ダメデス......」
「離シマセン」
べトロは鬼神王の体のあちこちを掴む。手や肩、指先まで。絶対に行かせたくないと......そういう気持ちが伝わってくる。
「例エ王ノ命令デアッテモ、ソレダケハデキナイ」
「......」
鬼神王は眉をひそめることも口角を上げることめなく、表情を一ミリも変えなかった。
べトロたちの引っ張る力がどんどん強くなっていく。
「絶対に行っちゃだめ?」
「ハイ」
「やっぱり僕はおかしいや」
鬼神王はそう言って、再び宙に浮かぶ。べトロたちは一生懸命鬼神王を止めようとする。
「離して欲しいんだけど......」
「王......行カナイデクダサイ」
「行ッタラ我ラ、王二嫌ワレテシマウ」
「......え?」
聞き流すつもりだったのだが、気になり、思わず振り返ってしまった。
「嫌われるってどういうこと?ここには何が封印されているの?」
べトロたちは黙り込んだ。言いたくないのだろう。
化け物が封印されていたとして、べトロたちのことを嫌うだろうか。嫌う理由は思いつかない。
......となると、ここは本当に、鬼神王でもどうすることも出来ない者が封印されているのだろうか。
「我ラ王ノコト好キ」
「ダカラ行カナイデ」
「オ願イ」
鬼神王はべトロたちの前に来た。震えるべトロの頬を両手で包み込むように触り、微笑んだ。
「大丈夫。嫌いになんかならないよ」
「......」
「 べトロたちを嫌うはずがない。昨日も転びそうになった時に助けてくれたり、話を聞いてくれたり......本当に頼りになる"鬼神"だよ」
血も涙もないべトロたちは涙を流しているかのように、目からドロドロと黒い液体が流れている。
「我ラヲ鬼神扱イシテクダサッタ......」
べトロたちは鬼神になりきれなかった半端者。鬼神たちのただの道具......として生きてきた。しかし鬼神王はべトロたちのことを鬼神と呼んだ。
「行かせて?嫌いになんかならないから。僕はべトロたちのこと大好きだから」
べトロは何も言わなかった。はいともいいえとも言えない。本来行っては行けない場所だから。
けれど鬼神王が自分たちのことを鬼神と呼び、大切に思ってくれているのなら、行くことを許してしまいたい。
鬼神王は岩の上まで来た。細かく描かれた陣がハッキリと見える。大きくなる心臓。深く深呼吸をし、ゆっくりと右脚を出し、陣に触れる。
すると陣は輝き、鬼神王を包み込む。光はどんどん強くなっていき、目を開けていられない。
「王......」
べトロたちの声が聞こえたのが最後だった。
何も聞こえなくなってしまった。
少し走っただけなのだが、いつもより疲れてしまう。
特に行先は決まっていない。早くあの場所から逃げ出したかっただけなのだ。
「なんで......なんでみんな......あんなに笑えるの......?」
自分がおかしいのは分かっている。しかし自分からするとありえないと思ってしまうのだ。
「メリーナもシュヴェルツェも皆も......本当におかしいよ......おかしい......おかしすぎる!うんん、僕がおかしいんだ......あぁもうわかんない」
鬼神王は髪の毛を両手で両手でくしゃくしゃとし、落ち着いたらそっとため息をついた。
ぼんやりと前を眺める。
「ここ......来ちゃいけないところだったな」
気づけば立ち寄っては行けない滝の所にいた。昨日のことは忘れていない。昨日の夜、一神でここに来て怖い思いをした。しかし昨日のことがまるで嘘のように、全く恐怖を感じない。むしろ大切な何者かに呼ばれているような気がした。
「気になる」
目の前に見える岩。そして岩の上に描かれた陣。
『あれには乗ってはいけない』シュヴェルツェの声が脳内に響く。けれどそんなのはどうだっていい。どうせこのまま城に戻ったとしても、なぜ逃げたのか聞かれ、自分はなにも説明ができない。ならいっその事、ここで封印を解き、事件を起こせば良い。事件を起こせば皆は鬼神王どころではなくなる。
『封印が解かれると鬼神王でもどうすることも出来ない』......と。食べられてしまうのだろうか。この世界が終わってしまうのだろうか。それでも良い......何故かそう思ってしまう。まるで大切なものを全て失い、後のことはどうでも良いと思うかのように、心は空っぽだった。
鬼神王は陣の上に立とうと足を浮かせた......その時だった。何者かに手を掴まれた。
「べトロ......?」
この肌にベトべトとひっつく感覚はべトロしかいない。やはりそうだ。べトロたちだ。
鬼神王は驚かなかった。ここはべトロたちが見張っているところだ。いるのは当たり前だ。むしろやっと現れたかと思ったぐらいだ。
「離してくれる?」
「ダメデス......」
「離シマセン」
べトロは鬼神王の体のあちこちを掴む。手や肩、指先まで。絶対に行かせたくないと......そういう気持ちが伝わってくる。
「例エ王ノ命令デアッテモ、ソレダケハデキナイ」
「......」
鬼神王は眉をひそめることも口角を上げることめなく、表情を一ミリも変えなかった。
べトロたちの引っ張る力がどんどん強くなっていく。
「絶対に行っちゃだめ?」
「ハイ」
「やっぱり僕はおかしいや」
鬼神王はそう言って、再び宙に浮かぶ。べトロたちは一生懸命鬼神王を止めようとする。
「離して欲しいんだけど......」
「王......行カナイデクダサイ」
「行ッタラ我ラ、王二嫌ワレテシマウ」
「......え?」
聞き流すつもりだったのだが、気になり、思わず振り返ってしまった。
「嫌われるってどういうこと?ここには何が封印されているの?」
べトロたちは黙り込んだ。言いたくないのだろう。
化け物が封印されていたとして、べトロたちのことを嫌うだろうか。嫌う理由は思いつかない。
......となると、ここは本当に、鬼神王でもどうすることも出来ない者が封印されているのだろうか。
「我ラ王ノコト好キ」
「ダカラ行カナイデ」
「オ願イ」
鬼神王はべトロたちの前に来た。震えるべトロの頬を両手で包み込むように触り、微笑んだ。
「大丈夫。嫌いになんかならないよ」
「......」
「 べトロたちを嫌うはずがない。昨日も転びそうになった時に助けてくれたり、話を聞いてくれたり......本当に頼りになる"鬼神"だよ」
血も涙もないべトロたちは涙を流しているかのように、目からドロドロと黒い液体が流れている。
「我ラヲ鬼神扱イシテクダサッタ......」
べトロたちは鬼神になりきれなかった半端者。鬼神たちのただの道具......として生きてきた。しかし鬼神王はべトロたちのことを鬼神と呼んだ。
「行かせて?嫌いになんかならないから。僕はべトロたちのこと大好きだから」
べトロは何も言わなかった。はいともいいえとも言えない。本来行っては行けない場所だから。
けれど鬼神王が自分たちのことを鬼神と呼び、大切に思ってくれているのなら、行くことを許してしまいたい。
鬼神王は岩の上まで来た。細かく描かれた陣がハッキリと見える。大きくなる心臓。深く深呼吸をし、ゆっくりと右脚を出し、陣に触れる。
すると陣は輝き、鬼神王を包み込む。光はどんどん強くなっていき、目を開けていられない。
「王......」
べトロたちの声が聞こえたのが最後だった。
何も聞こえなくなってしまった。
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