5 / 5
第5話:ノイズ・イズ・ビューティフル
しおりを挟む「完了……!」
ミナが叫ぶと同時に、デコ・デバイスから凄まじい熱量のアウトプットが実行された。
109の残骸から吸い上げられた、2000年代初頭の膨大な「情熱の断片」が、管理局の防壁を突き破り、新・渋谷の全ネットワークへと逆流を始めたのだ。
ドローンのサーチライトが激しく明滅し、警告音が不協和音を奏でる。
『通信障害発生。ノイズを検知。即座にシャット——』
管理AIの合成音声が途切れ、代わりに街中のスピーカーから、地鳴りのような重低音と、弾けるようなダンスミュージックが溢れ出した。
「サオリ、見て!」
ミナが指さした上空。
新・渋谷を覆う巨大なホログラム・スクリーンが、バグのように歪み、塗り替えられていく。
そこには、ベージュの制服にルーズソックス、派手なメイクで笑い転げる、かつての「ギャル」たちの姿が、超巨大なプリクラとなって映し出されていた。
『アハハ! チョーウケる! 街中がうちらの背景じゃん!』
サオリのゴーストが、光の粒子となって踊る。
その光景は、整然とした美しさを尊ぶ2048年の市民たちにとって、暴力的なまでの「視覚汚染」だった。
歩道で立ち止まる人々。彼らの網膜投影デバイスには、無理やり「デコ文字」の通知が乱舞している。
『マジで!?』『超ウケるんだけどww』『ズッ友☆』
意味をなさない言葉の羅列。けれど、その圧倒的なエネルギーに、若者たちの瞳に宿っていた「管理された静寂」が揺らぎ始めた。
「……何、これ」
一人の少年が、自分のデバイスを見つめて呟いた。
彼の視界には今、最適化されたニュースではなく、20年前の誰かが書いた、下手くそで熱い落書きが映っている。
「無駄」で「非効率」な、でも、誰かがそこにいたという確かな証。
『ミナ、見て。あの子たちの脳波、面白いくらい跳ね上がってるよ』
サオリの言う通りだった。
管理局の中央AI「オーパス」のモニターには、市民たちのドーパミン値が異常上昇を示す真っ赤なアラートが並んでいた。
「感情の平準化」という壁が、たった数分の「ノイズ」によって崩壊しようとしている。
「これが、あなたの言ってた『魔法』なんだね」
ミナは、追い詰めてくる執行ドローンを見据えた。
ドローンのカメラレンズが、ミナの胸元に貼られた古いラインストーンを捉える。
オーパスにとって、それはただの炭素の結晶ではない。予測不可能な未来を呼び込む「バグの種」だ。
『……目標、排除レベルを「生命維持に支障なし」から「完全抹殺」へ移行』
無機質な宣告と共に、ドローンの底部からレーザー銃口が展開される。
絶体絶命の瞬間。
ミナの前に、数人の若者たちが立ちはだかった。
彼らの手には、ミナと同じように、基盤やプラスチック片で不器用に「デコられた」デバイスが握られていた。
「……それ、カッコいいじゃん。俺たちにも、そのノイズを分けてくれよ」
一人の少年が、震える声で言った。
新・渋谷の無機質な白の世界に、初めて、個人の「意志」という名の極彩色が混ざり始めた。
0
この作品の感想を投稿する
あなたにおすすめの小説
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
サイレント・サブマリン ―虚構の海―
来栖とむ
SF
彼女が追った真実は、国家が仕組んだ最大の嘘だった。
科学技術雑誌の記者・前田香里奈は、謎の科学者失踪事件を追っていた。
電磁推進システムの研究者・水嶋総。彼の技術は、完全無音で航行できる革命的な潜水艦を可能にする。
小与島の秘密施設、広島の地下工事、呉の巨大な格納庫—— 断片的な情報を繋ぎ合わせ、前田は確信する。
「日本政府は、秘密裏に新型潜水艦を開発している」
しかし、その真実を暴こうとする前田に、次々と圧力がかかる。
謎の男・安藤。突然現れた協力者・森川。 彼らは敵か、味方か——
そして8月の夜、前田は目撃する。 海に下ろされる巨大な「何か」を。
記者が追った真実は、国家が仕組んだ壮大な虚構だった。 疑念こそが武器となり、嘘が現実を変える——
これは、情報戦の時代に問う、現代SF政治サスペンス。
【全17話完結】
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる