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第三話 焦点
しおりを挟むある中古カメラ屋で、一際古びた一眼レフカメラを買った男、Sさんの体験です。
そのカメラは、ファインダーの中に小さな「ゴミ」のような黒い点が見えるため、ジャンク品として安く売られていました。
映り込むもの
Sさんは趣味の風景写真を撮り始めましたが、現像した写真を見て首を傾げました。
どの写真にも、端の方に「黒い棒」のようなものが写り込んでいるのです。
最初はレンズの汚れかと思いましたが、掃除をしても消えません。
しかも、写真を撮るたびに、その「棒」は少しずつ、確実に写真の中央へと移動してくるのです。
焦点(フォーカス)
一週間後。
撮った写真を確認したSさんは、背筋が凍りつきました。
「黒い棒」だと思っていたものは、異様に痩せこけた、全裸の男の脚でした。
逆さまに空から吊り下がっているのか、あるいは地面から突き出しているのか。
その「脚」は、現像するたびに形を成し、ついには腰、胴体、そして腕までもが写り込むようになりました。
一番恐ろしいのは、その男には「顔」がなかったことです。
のっぺらぼうのような頭部が、レンズをじっと見つめている。
そんな構図でした。
視線の正体
Sさんは怖くなり、カメラを叩き壊してゴミ捨て場に投げ捨てました。
しかし、その日の夜。
ふと、自分の部屋の窓ガラスに映った自分の姿を見て、彼は絶叫しました。
自分の背後の暗闇に、あの「顔のない男」が立っていたのです。
カメラを捨てたはずなのに、男は「Sさんの網膜」の中に直接写り込むようになっていました。
結末
Sさんは現在、精神科の保護室に収容されています。
彼は一日中、自分の目を指で突き刺そうとして暴れるため、両手を拘束されています。
彼を担当した看護師は、夜回りの際に見てしまったそうです。
拘束され、焦点の合わない目で天井を見つめるSさん。
その大きく見開かれた瞳の中(黒目)に、
こちらに向かって、楽しそうに手招きをしている「顔のない男」が、はっきりと映り込んでいるのを。
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