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第五話 消えた人々の時間
しおりを挟む町は、三秒ずつずれていた。
私は、毎日少しずつ世界の動きが先行するのを感じていた。
電車の発車ベル、信号、街灯――
すべてが私より少し先に進む。
最初は奇妙だった。
次は不安だった。
今は恐怖になっている。
⸻
ある日、出勤途中。
通りを歩く人が、ふと、目の前で消えた。
いや、正確には「先に進みすぎた」ように見えた。
私が目をそらした隙に、消えてしまう。
通りは静かで、誰も気づかない。
消えた人も、存在していた形跡がない。
バッグの落とし物、足音、呼吸――
消えた人がいたことを示すものは何も残らない。
⸻
駅の改札。
改札を通る瞬間、人がスッと抜ける。
後ろの人は、まるで何事もなかったかのように通過する。
しかし、私には分かる。
その人は三秒先に消えたのだ。
⸻
仕事中。
会議室に座る同僚も、三秒ずつ先行している。
資料を読む手、ペンを走らせる指――
表示より早く動く。
でも、発言は私の耳に届くタイミングが遅い。
やがて、気づく。
会議中の誰かが、三秒後の世界ではもういないことを。
消える人は、必ず「自分の時間」に取り残される。
⸻
夜。
自宅で時計を見る。
腕時計は正しい時間を刻む。
でも町全体は、三秒先に進んでいる。
テレビのニュースも、ネットも、すべてがずれている。
家の窓から外を見る。
通りの人々が、一瞬ずつ消えたり現れたりしている。
消える前の彼らは、私の目には確かに存在している。
でも三秒後、もう私の世界にはいない。
⸻
私は理解する。
この町は、
「正常な時間」から外れた人々であふれている。
そして私は、
いつかその三秒分の隙間に取り込まれる。
今立っている場所すら、
すでに過去になりつつある。
⸻
腕時計を見た。
秒針は、止まったまま。
世界は、私を待っていない。
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