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第一章
002 おいおい、お前ら。王女を無視すんなよ
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眩しい。おそらく目を開けると網膜が焼き切れてしまう程に。
それに、この奇妙な感覚……。俺は今どこにいるんだ? まさか、死んでしまったのだろうか?
「………ぅ……おえぇ………」
全身の方向感覚を失い、襲い来る凶悪な浮遊感に俺はゲロをぶちまける。視界を失った状態でのゲロ吐きなんてまさに地獄。
最も心配だったのは上向きでゲロを吐かなかったか、というところだったが、どうやら顔面ゲロシャワーの洗礼を浴びることはなかった。
ゲロをぶちまけたという事は死んでないという事は分かる。死んでからもゲロを吐かされるなんて最悪だからだ。
だからこそ余計今の状況が理解できない。覚えているのは放課後の無法空間で光に包まれ消えたこと。そこまでだ。
眩しさが続き、そんな経験はないが、まるで宇宙に放り出されたかのよう。このまま続くとまじで気が狂う、そう思った時だった。
背中に突如、本当に突然のように感じる硬くて冷たい床のような感覚。
鼻に届く得も言えぬ、臭いような嬉しいような香りと重み。そして、目を開くと眼前に見覚えのあるクマさんパンツがこんにちはして、柔らかな感触――
「おぐえぇ」
の瞬間、腹部に感じる鋭い痛みに俺は思わずうめき声を漏らす。
「鼻や口を動かさないでよ! この、ドスケベ!!」
「いや、げほっ、ま、待て。これこそ不可抗力だろ!」
状況把握、状況把握。俺の上で起き上がろうとしているのは浅草寺の姿。俺の顔を下敷きにしていたのは、柔らかいが確かな弾力を持つお尻。
痛む腹はその鉄の裏拳が振り下ろされたことによるもの。あまりの力強さに再度呼吸が止まる感覚を味わわされた。
膨張しようとする俺の分身を無の心で鎮め、辺りを見渡してみる。
俺達が倒れていたのは教室程の大きさの部屋で、飾り気が全くなく四方全てが灰色に黒の粒が混ざった石造り。ひやりと冷たい床も天井も同じようだ。
の中心、先ほど無法地帯を作り上げていた、俺を含めて八人を取り囲むように、大きな円と内部に六芒星がゆらゆらと揺れる炎で象られている。
だが、その炎には触媒が何もない。まるで床自体が燃えているかのように。
「うおっしゃああああい! やっぱ、きたこれえええい!」
状況把握の最中、進藤が叫び声をあげる。彼は一体何を知っているというのだろうか? 良かったら俺に説明して欲しいところだ、と思い立ち上がる。
そこで不可解なことに気付く。
進藤の顔が先刻のように汚れていないし傷もすっかり消えているのだ
いや、よくよく考えれば俺もそうだ。吐いたはずの汚物が口の中からすっかり消え失せ、不快感も消失している。
加えてさっきまで学生服だったのに今は服装が変わっている。男も女も揃えられたかのように同じ上服。違うのはスカートかズボンかとその色だけ。悪いセンスではないが、ちょっと風変りな代物だ。
さらに、靴下はそのままだが、靴は硬そうな皮っぽい靴に変わっていた。
持っていたカバンもなくなっている。ポケットに入れていた財布もなくなってしまっていた。
大切な財布の消失に心の中で涙を流していると会長が立ち上がり、長いまつげをぱちりと閉じて六芒星の中にいる俺たちに向けウインクをかました。
そのまま腕を組み天使のような微笑みを浮かべ、
「これは……おそらく異世界召喚というものでしょうね。先ほど、ええと、蛆虫達にいじめられていた彼の言った通りに」
「はぁっ!? なに――」
「黙っててください。今は私が喋っているのですよ。いつ、誰が、どこで、その排水溝のような口から汚らわしい音を出すことを許可しましたかー?」
声を上げようとした江原に喋ることすら許さない。圧倒的な威圧により、この場は完全に天ヶ崎会長に掌握された。
天使の様だが恐怖感を煽るきらめく微笑み。
俺はその言葉遣い、態度、動きなどに、感じていた人物像がまるで偽りだったのだと思い知らされた。
入学式では普通に挨拶してたし、見た目がハーフタレントみたいなので人気が高く、その隣を狙う輩がいくらでもいるという話だったのに。
江原の彼女かは知らないギャルが「ちょっと、今は大人しくしてよ?」と江原に言葉をかける。
意外とまともなことを言うギャルに少しだけ感心した。
だが、会長はそんな二人に、冷たい視線だけ向けて言葉を続ける。
「この先何があるかは分かりません。しかし、協力が必要不可欠となると思うのですよー。ま、一部協力したいとは思えないゴミのような人間もいますけど、社会の屑と言えど同じ人間です。お分かりですかー? えーと……」
言いながら進藤に顔を向けたので「進藤歩です、会長さん」と述べた。
先ほどの進藤のテンションはどこへやらと言った感じだが、何となく会長を見つめる視線に熱っぽい色が混ざってる気がする。
「じゃ、歩君。とりあえず今はいじめられていたことは目をつぶってね。で、私達はまず自己紹介をするべきだと思うのですよ」
と、言ったところで六芒星の中にいた俺たち八人以外の人間。最初から部屋にいた一人がそろりと手を挙げながら声を上げた。
「あ、あの、なぜ皆様は私を完全に無視してお話ししていらっしゃるのでしょうか……?」
その言葉に部屋中の視線がその声の主――美少女に集まった。
そう、気付いていなかったわけではない。なぜかそんな空気だったので意図的に無視していたのだ。
江原や新垣も無視、というよりは、気付いて声を掛けていないような様子だったが、それが場の空気感というもの。
いや、実は俺は凄く気になってました。
その女性はどうみても日本人の持ち物とは思えない、不自然さのないブロンドヘアを胸の辺りまでサラリと伸ばしている。
垂れ目気味の目尻、小ぶりな鼻、小さめの口、そしてそのキャンバス――輪郭自体が非常に小顔。まるで芸能人のように、と思って今ここにいる女性達も同じだと思い直す。
ただ、その顔や露出する肌に一点の染みや曇り、ホクロすら見受けられないところは明らかに違う。
まるでアニメから出てきたような肌。浅草寺や会長も凄まじく肌がきれいだがその比ではない。
だがそんな、顔が可愛いけど俺の好みじゃないとか、割と大きそうな胸とかはどうでもいい、いや、どうでもよくはないが、今重要なのはそこではない。
何より不自然なのはその服装。日本人のような服でも、今俺たちが着ているゲームの世界に出てきそうな服でもない。
ドレス。そうドレス姿なのだ。腰のスカートがヨーロッパの王族のように盛り上げられている派手派手しいドレス。
それも彼女に触れなかった理由でもある。色が薄ピンクで目立ちにくくなければ、声を上げても無視していただろう。
さらには黄金色に輝くイヤリング、ネックレス、指輪を付け、頭にはティアラのような物をかぶっているのだ。
ごてごてしたあまりに煌びやかすぎる青や緑、赤の石が付いたそれらは、俺も詳しくはないがプラスチックとかガラスとかの安物ではなさそうな気がする。
誘拐すれば身代金が恐ろしい額で取れそうなほどに。
まるでどこぞの王女様、といった風貌のその女性に対してかは知らないが、進藤が拳を握りしめながら声を上げた。
「よっしゃきたあああ。言語理解付き召喚さいこ――」
「ごめんね、歩君。少し静かにしてて欲しいかなー?」
進藤は会長に言葉を被せられ、怒られたにもかかわらず、嬉しそうな顔をしている。
それより気になる単語を口にした。
言語理解。
一体どういうことなのだろうか。俺達は日本語を解しているというのに。
「はい」と素直に答えた進藤に会長は優しく微笑んで、ドレス姿の女性に体を向け、優雅に腰を折った。
「申し訳ありません、王女様。ただ、私達には今やらなくてはいけないことがあるのです。どうせこの後、謁見の間にでも連れて行こうとしていらっしゃるのでしょう?」
会長の言葉の中に、不可解な言葉が現れたことに俺は驚愕した。
王女様、謁見の間。日本で生きていれば聞くことのない単語である。
この武骨なだけにしか見えない部屋がどこぞの城の一室だとでもいうのだろうか。
会長に対して余り不遜なことは言いたくはないが、ちょっと言ってる意味が理解できない。
さらに先ほどの言葉も思い出す。
異世界召喚。
もしそれが確かであるならば、今俺が立っている場所は地球ではないという事になるのだろう。
確かに光に包まれた。強烈な浮遊感に襲われた。それが異世界に行く予兆だったとでもいうのだろうか。
「え、あ、はい。何故それをご存知なのか非常に不可思議なところではありますが……。分かりました。しばし、ここでお待ちしております」
と、言いながら二歩程引いた。否定しないという事は会長の言ってることは正しいという事になるのだろう。
とりあえず彼女の名前くらいは聞いてみたいなと思いつつも、一度その欲求を棚上げすることにした。
俺は隣で一人腕を組み黙考している様子だった浅草寺の肩を、ちょいちょいとつつく。
「な、なあ。この状況、お前は分かっているのか……? 俺には何が何だか……」
浅草寺はゆっくりと目を開けると、じろりとその黒の双眸を向けてくる。
若干の、怒りと苛立ちを含ませて。
「私、ええと、兵輔に名乗ったわよね? お・ま・えとか止めてもらえない? 浅草寺様か莉緒って呼んでくれる?」
「な、何でいきなり呼び捨てにされてるんだ……。つーか、その二つの選択肢だと『莉緒』の方しか選べないぞ?」
「じゃあ、そう呼べばいいじゃない。女の子を下の名前で呼び捨てにするとか……、やっぱ兵輔はドスケベね!」
ふふん、と鼻を鳴らしながら大きな胸を張ってくるのに凄まじい理不尽さを感じつつ、俺は憤りを口にした。
「んだそれ……。まぁいいや。莉緒な。莉緒莉緒莉緒莉緒。もう変えねーからな! まっ、そんなことはどうでもよくて、重要なのはこの状況だよ!」
わざとらしく名前を連呼したところで、若干たじろぎ、顔を赤らめ、足をモジっと動かしたがそれを無視して話を進める。
「もう……。そうね。私もよく分からないけど……。都大会の決勝の待機時間で読んだ、小説のお話にシチュエーションが似てるわね」
「はぁ!? 何言ってるんだ……? 小説? 俺たちは小説の中にいるってことなのか……? 莉緒……お前、頭大丈夫か――ぐほっ」
話してる途中に、俺の鍛え上げられてるわけじゃない腹筋を莉緒の拳が貫く。
――ぼ、暴力反対……。
大分手加減はしてるんだろうけど、俺の腹筋は鋼で作られているわけではないので当然痛い。
「安心して、峰打ちよ」という言葉に、拳は峰こそが凶器だろうが、と反射的に突っ込みたい衝動を何とか抑える。
「小説の中じゃないの。これはよくあることなのよ。よくある小説の設定。多分会長と進藤君……と、あの二人もこそこそ話してる内容からして何となく知ってるのね」
と、言いながら顔を向ける先にはイケメン新垣とその彼女。俺にはぼそぼそとしか聞こえてこないが、空手家さんは耳も良いのかもしれない。
さっき新垣とオールバック江原がドレスの女性に見惚れて、女たちに肘鉄を見舞わされているのが見えていたが、どうでもいいこと。
それより莉緒の言葉に、無視できない単語が混ざっているのに思わず声を上げた。
「小説の設定とかそれこそよく分からんぞ。小説が現実になったってことなのか? それって小説の中に入ったって事とどう違うんだ?」
莉緒は小さく「パンピーさんはこうなるのか……」と呟きながら両手を上に伸ばした後に「あーでも、言われてみれば……」と呟き俺の顔を見つめてくる。
なんとなく遺憾だ。
「兵輔の見解は面白いと思う。けれど、今の疑問に答えを出すことは私には出来ない。だから……会長の話を聞きましょ」
との言葉に、俺たちに目を向けていた会長が微笑みながら辺りを見回し声を上げた。
「ふふふ。今のお二人の会話が大体本質を掴んでいると思うのですよー。どうやら予習済みの方が複数いらっしゃるみたいですし、名前だけでもサクッと紹介してしまいましょうー」
その言葉で簡単な自己紹介が始まる。江原とギャルはブーブー文句たれてたが、会長の「調子に乗ってると死にますよー?」の言葉にブルリと体を震わせ名前を口にした。
恐ろしい言葉だが、この会長ならやりかねないような気がして俺の足もすくむ。
名前は、俺『藤堂兵輔』 空手家さん『浅草寺莉緒』 オールバックの不良男『江原正樹 えはらまさき』 ギャル『夢町美々琉 ゆめまちみみる』
キノコ頭のいじめられっこ『進藤歩』 イケメン『新垣翼』とその美少女彼女『高嶋紗枝 たかしまさえ』 会長『天ヶ崎怜奈』
いきなりこんなたくさんの名前を覚えるなんて困難だろ、と不満を持っていると、会長が王女(?)に顔を向けた。
「私達の名前、ご紹介出来たでしょうか? 次は王女様の事とこの世界の事をお話して欲しいのですが……移動した方が宜しいですか?」
同室内だというのに中々の変貌の仕方だ。やはり上に立つ人間は顔の使い分けやキャラの使い分けをする必要があるのだろう。
王女(?)は「いえ、このままで結構です」と言って、一歩前に出るとスカートの裾を持ち上げながら腰を折った、その優雅さは先ほどの会長を上回る程。
それをみて本当に王女のようだと感じつつ、対抗意識からより優雅さを求めたんじゃないかと思い、俺は口元がゆるんだ。
体を起こした後、青の双眸で俺たちをしっかと見据え、口の端を上げる。
「私の名前は、アレスディア・シュネ・リムータス。
ここ、リンガルテムス王国の第一王女を務めさせてもらっております」
それに、この奇妙な感覚……。俺は今どこにいるんだ? まさか、死んでしまったのだろうか?
「………ぅ……おえぇ………」
全身の方向感覚を失い、襲い来る凶悪な浮遊感に俺はゲロをぶちまける。視界を失った状態でのゲロ吐きなんてまさに地獄。
最も心配だったのは上向きでゲロを吐かなかったか、というところだったが、どうやら顔面ゲロシャワーの洗礼を浴びることはなかった。
ゲロをぶちまけたという事は死んでないという事は分かる。死んでからもゲロを吐かされるなんて最悪だからだ。
だからこそ余計今の状況が理解できない。覚えているのは放課後の無法空間で光に包まれ消えたこと。そこまでだ。
眩しさが続き、そんな経験はないが、まるで宇宙に放り出されたかのよう。このまま続くとまじで気が狂う、そう思った時だった。
背中に突如、本当に突然のように感じる硬くて冷たい床のような感覚。
鼻に届く得も言えぬ、臭いような嬉しいような香りと重み。そして、目を開くと眼前に見覚えのあるクマさんパンツがこんにちはして、柔らかな感触――
「おぐえぇ」
の瞬間、腹部に感じる鋭い痛みに俺は思わずうめき声を漏らす。
「鼻や口を動かさないでよ! この、ドスケベ!!」
「いや、げほっ、ま、待て。これこそ不可抗力だろ!」
状況把握、状況把握。俺の上で起き上がろうとしているのは浅草寺の姿。俺の顔を下敷きにしていたのは、柔らかいが確かな弾力を持つお尻。
痛む腹はその鉄の裏拳が振り下ろされたことによるもの。あまりの力強さに再度呼吸が止まる感覚を味わわされた。
膨張しようとする俺の分身を無の心で鎮め、辺りを見渡してみる。
俺達が倒れていたのは教室程の大きさの部屋で、飾り気が全くなく四方全てが灰色に黒の粒が混ざった石造り。ひやりと冷たい床も天井も同じようだ。
の中心、先ほど無法地帯を作り上げていた、俺を含めて八人を取り囲むように、大きな円と内部に六芒星がゆらゆらと揺れる炎で象られている。
だが、その炎には触媒が何もない。まるで床自体が燃えているかのように。
「うおっしゃああああい! やっぱ、きたこれえええい!」
状況把握の最中、進藤が叫び声をあげる。彼は一体何を知っているというのだろうか? 良かったら俺に説明して欲しいところだ、と思い立ち上がる。
そこで不可解なことに気付く。
進藤の顔が先刻のように汚れていないし傷もすっかり消えているのだ
いや、よくよく考えれば俺もそうだ。吐いたはずの汚物が口の中からすっかり消え失せ、不快感も消失している。
加えてさっきまで学生服だったのに今は服装が変わっている。男も女も揃えられたかのように同じ上服。違うのはスカートかズボンかとその色だけ。悪いセンスではないが、ちょっと風変りな代物だ。
さらに、靴下はそのままだが、靴は硬そうな皮っぽい靴に変わっていた。
持っていたカバンもなくなっている。ポケットに入れていた財布もなくなってしまっていた。
大切な財布の消失に心の中で涙を流していると会長が立ち上がり、長いまつげをぱちりと閉じて六芒星の中にいる俺たちに向けウインクをかました。
そのまま腕を組み天使のような微笑みを浮かべ、
「これは……おそらく異世界召喚というものでしょうね。先ほど、ええと、蛆虫達にいじめられていた彼の言った通りに」
「はぁっ!? なに――」
「黙っててください。今は私が喋っているのですよ。いつ、誰が、どこで、その排水溝のような口から汚らわしい音を出すことを許可しましたかー?」
声を上げようとした江原に喋ることすら許さない。圧倒的な威圧により、この場は完全に天ヶ崎会長に掌握された。
天使の様だが恐怖感を煽るきらめく微笑み。
俺はその言葉遣い、態度、動きなどに、感じていた人物像がまるで偽りだったのだと思い知らされた。
入学式では普通に挨拶してたし、見た目がハーフタレントみたいなので人気が高く、その隣を狙う輩がいくらでもいるという話だったのに。
江原の彼女かは知らないギャルが「ちょっと、今は大人しくしてよ?」と江原に言葉をかける。
意外とまともなことを言うギャルに少しだけ感心した。
だが、会長はそんな二人に、冷たい視線だけ向けて言葉を続ける。
「この先何があるかは分かりません。しかし、協力が必要不可欠となると思うのですよー。ま、一部協力したいとは思えないゴミのような人間もいますけど、社会の屑と言えど同じ人間です。お分かりですかー? えーと……」
言いながら進藤に顔を向けたので「進藤歩です、会長さん」と述べた。
先ほどの進藤のテンションはどこへやらと言った感じだが、何となく会長を見つめる視線に熱っぽい色が混ざってる気がする。
「じゃ、歩君。とりあえず今はいじめられていたことは目をつぶってね。で、私達はまず自己紹介をするべきだと思うのですよ」
と、言ったところで六芒星の中にいた俺たち八人以外の人間。最初から部屋にいた一人がそろりと手を挙げながら声を上げた。
「あ、あの、なぜ皆様は私を完全に無視してお話ししていらっしゃるのでしょうか……?」
その言葉に部屋中の視線がその声の主――美少女に集まった。
そう、気付いていなかったわけではない。なぜかそんな空気だったので意図的に無視していたのだ。
江原や新垣も無視、というよりは、気付いて声を掛けていないような様子だったが、それが場の空気感というもの。
いや、実は俺は凄く気になってました。
その女性はどうみても日本人の持ち物とは思えない、不自然さのないブロンドヘアを胸の辺りまでサラリと伸ばしている。
垂れ目気味の目尻、小ぶりな鼻、小さめの口、そしてそのキャンバス――輪郭自体が非常に小顔。まるで芸能人のように、と思って今ここにいる女性達も同じだと思い直す。
ただ、その顔や露出する肌に一点の染みや曇り、ホクロすら見受けられないところは明らかに違う。
まるでアニメから出てきたような肌。浅草寺や会長も凄まじく肌がきれいだがその比ではない。
だがそんな、顔が可愛いけど俺の好みじゃないとか、割と大きそうな胸とかはどうでもいい、いや、どうでもよくはないが、今重要なのはそこではない。
何より不自然なのはその服装。日本人のような服でも、今俺たちが着ているゲームの世界に出てきそうな服でもない。
ドレス。そうドレス姿なのだ。腰のスカートがヨーロッパの王族のように盛り上げられている派手派手しいドレス。
それも彼女に触れなかった理由でもある。色が薄ピンクで目立ちにくくなければ、声を上げても無視していただろう。
さらには黄金色に輝くイヤリング、ネックレス、指輪を付け、頭にはティアラのような物をかぶっているのだ。
ごてごてしたあまりに煌びやかすぎる青や緑、赤の石が付いたそれらは、俺も詳しくはないがプラスチックとかガラスとかの安物ではなさそうな気がする。
誘拐すれば身代金が恐ろしい額で取れそうなほどに。
まるでどこぞの王女様、といった風貌のその女性に対してかは知らないが、進藤が拳を握りしめながら声を上げた。
「よっしゃきたあああ。言語理解付き召喚さいこ――」
「ごめんね、歩君。少し静かにしてて欲しいかなー?」
進藤は会長に言葉を被せられ、怒られたにもかかわらず、嬉しそうな顔をしている。
それより気になる単語を口にした。
言語理解。
一体どういうことなのだろうか。俺達は日本語を解しているというのに。
「はい」と素直に答えた進藤に会長は優しく微笑んで、ドレス姿の女性に体を向け、優雅に腰を折った。
「申し訳ありません、王女様。ただ、私達には今やらなくてはいけないことがあるのです。どうせこの後、謁見の間にでも連れて行こうとしていらっしゃるのでしょう?」
会長の言葉の中に、不可解な言葉が現れたことに俺は驚愕した。
王女様、謁見の間。日本で生きていれば聞くことのない単語である。
この武骨なだけにしか見えない部屋がどこぞの城の一室だとでもいうのだろうか。
会長に対して余り不遜なことは言いたくはないが、ちょっと言ってる意味が理解できない。
さらに先ほどの言葉も思い出す。
異世界召喚。
もしそれが確かであるならば、今俺が立っている場所は地球ではないという事になるのだろう。
確かに光に包まれた。強烈な浮遊感に襲われた。それが異世界に行く予兆だったとでもいうのだろうか。
「え、あ、はい。何故それをご存知なのか非常に不可思議なところではありますが……。分かりました。しばし、ここでお待ちしております」
と、言いながら二歩程引いた。否定しないという事は会長の言ってることは正しいという事になるのだろう。
とりあえず彼女の名前くらいは聞いてみたいなと思いつつも、一度その欲求を棚上げすることにした。
俺は隣で一人腕を組み黙考している様子だった浅草寺の肩を、ちょいちょいとつつく。
「な、なあ。この状況、お前は分かっているのか……? 俺には何が何だか……」
浅草寺はゆっくりと目を開けると、じろりとその黒の双眸を向けてくる。
若干の、怒りと苛立ちを含ませて。
「私、ええと、兵輔に名乗ったわよね? お・ま・えとか止めてもらえない? 浅草寺様か莉緒って呼んでくれる?」
「な、何でいきなり呼び捨てにされてるんだ……。つーか、その二つの選択肢だと『莉緒』の方しか選べないぞ?」
「じゃあ、そう呼べばいいじゃない。女の子を下の名前で呼び捨てにするとか……、やっぱ兵輔はドスケベね!」
ふふん、と鼻を鳴らしながら大きな胸を張ってくるのに凄まじい理不尽さを感じつつ、俺は憤りを口にした。
「んだそれ……。まぁいいや。莉緒な。莉緒莉緒莉緒莉緒。もう変えねーからな! まっ、そんなことはどうでもよくて、重要なのはこの状況だよ!」
わざとらしく名前を連呼したところで、若干たじろぎ、顔を赤らめ、足をモジっと動かしたがそれを無視して話を進める。
「もう……。そうね。私もよく分からないけど……。都大会の決勝の待機時間で読んだ、小説のお話にシチュエーションが似てるわね」
「はぁ!? 何言ってるんだ……? 小説? 俺たちは小説の中にいるってことなのか……? 莉緒……お前、頭大丈夫か――ぐほっ」
話してる途中に、俺の鍛え上げられてるわけじゃない腹筋を莉緒の拳が貫く。
――ぼ、暴力反対……。
大分手加減はしてるんだろうけど、俺の腹筋は鋼で作られているわけではないので当然痛い。
「安心して、峰打ちよ」という言葉に、拳は峰こそが凶器だろうが、と反射的に突っ込みたい衝動を何とか抑える。
「小説の中じゃないの。これはよくあることなのよ。よくある小説の設定。多分会長と進藤君……と、あの二人もこそこそ話してる内容からして何となく知ってるのね」
と、言いながら顔を向ける先にはイケメン新垣とその彼女。俺にはぼそぼそとしか聞こえてこないが、空手家さんは耳も良いのかもしれない。
さっき新垣とオールバック江原がドレスの女性に見惚れて、女たちに肘鉄を見舞わされているのが見えていたが、どうでもいいこと。
それより莉緒の言葉に、無視できない単語が混ざっているのに思わず声を上げた。
「小説の設定とかそれこそよく分からんぞ。小説が現実になったってことなのか? それって小説の中に入ったって事とどう違うんだ?」
莉緒は小さく「パンピーさんはこうなるのか……」と呟きながら両手を上に伸ばした後に「あーでも、言われてみれば……」と呟き俺の顔を見つめてくる。
なんとなく遺憾だ。
「兵輔の見解は面白いと思う。けれど、今の疑問に答えを出すことは私には出来ない。だから……会長の話を聞きましょ」
との言葉に、俺たちに目を向けていた会長が微笑みながら辺りを見回し声を上げた。
「ふふふ。今のお二人の会話が大体本質を掴んでいると思うのですよー。どうやら予習済みの方が複数いらっしゃるみたいですし、名前だけでもサクッと紹介してしまいましょうー」
その言葉で簡単な自己紹介が始まる。江原とギャルはブーブー文句たれてたが、会長の「調子に乗ってると死にますよー?」の言葉にブルリと体を震わせ名前を口にした。
恐ろしい言葉だが、この会長ならやりかねないような気がして俺の足もすくむ。
名前は、俺『藤堂兵輔』 空手家さん『浅草寺莉緒』 オールバックの不良男『江原正樹 えはらまさき』 ギャル『夢町美々琉 ゆめまちみみる』
キノコ頭のいじめられっこ『進藤歩』 イケメン『新垣翼』とその美少女彼女『高嶋紗枝 たかしまさえ』 会長『天ヶ崎怜奈』
いきなりこんなたくさんの名前を覚えるなんて困難だろ、と不満を持っていると、会長が王女(?)に顔を向けた。
「私達の名前、ご紹介出来たでしょうか? 次は王女様の事とこの世界の事をお話して欲しいのですが……移動した方が宜しいですか?」
同室内だというのに中々の変貌の仕方だ。やはり上に立つ人間は顔の使い分けやキャラの使い分けをする必要があるのだろう。
王女(?)は「いえ、このままで結構です」と言って、一歩前に出るとスカートの裾を持ち上げながら腰を折った、その優雅さは先ほどの会長を上回る程。
それをみて本当に王女のようだと感じつつ、対抗意識からより優雅さを求めたんじゃないかと思い、俺は口元がゆるんだ。
体を起こした後、青の双眸で俺たちをしっかと見据え、口の端を上げる。
「私の名前は、アレスディア・シュネ・リムータス。
ここ、リンガルテムス王国の第一王女を務めさせてもらっております」
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そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
二度目の勇者は救わない
銀猫
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異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。
しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。
それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。
復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?
昔なろうで投稿していたものになります。
『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる
仙道
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気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。 この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。 俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。 オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。 腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。 俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。 こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。
嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います
ゆさま
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ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。
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