-全無生物を魔法に変える落ちこぼれ勇者- ユニーク魔法で異世界無双

とりっぷましーん

文字の大きさ
4 / 23
第一章

003 召喚によって消え去った俺の財布の補償はされない

しおりを挟む
 無機質な石の部屋。床の炎だけでは本来これほど明るい訳はないというのに、部屋全体に光は届いている。

 そんな場所で王女(?)はリンガルテムス王国という聞いたことのない国の王女と名乗り、今本物の王女となった。

 だが、本当にここは地球ではないというのだろうか?
 アレスディア・シュネ・リムータス。
 馴染みのないカタカナ名に長ったらしい名前は非常に覚えにくい。

「それでは、ここである程度の説明をしてから謁見の間へご案内するよう、仰せつけられていたのですが、皆さま非常に物分かりがよろしいご様子。
 さらに詳しいことは私の口からではなく、王、ハルマイヤ・シュネ・リムータスの口からご説明させて頂きたいと思うのですが、宜しいですか?」

 そう言っている間も、王女は微笑みを全く崩さない。本当に人間か!?というレベルだが、アイドルや女優だったらこんな感じを自然にやるのだろう。
 それが技術。匠の力なのです。
 しかし……正直な話、俺的には全くよろしくない。けれど、下手なことを言うと会長に怒られそうな気がして、迂闊に声を出せない。

 欲求と恐怖の板挟みに葛藤を感じ、小心者の俺が会長に目を向けていると王女に疑問をぶつけた。いや、ぶつけてくれた。

「そうですね……、何故私たちが召喚されたか? くらいは今伺っておきたいところですか」

 会長の疑問に王女は目を閉じて小さく頷いてみせる。

「後ほどそれも分かることになるのですが……、端的に言えばあなたたちの中の誰かが持つ、秘めたる強き力に反応して選ばれた。というところですね」

 い・み・ふ・め・い。

 言葉を聞いた瞬間に、思わず零れる俺の内心の毒。
 王女の言葉をうのみにするのであれば、この召喚された中に英雄がいるということになる。
 が、ただの高校の生徒であった俺たちが英雄なんかの訳がない。
 お姫様の頭の中はお花畑だというのはお伽話だけの話ではないのだろうか?

 まぁ万が一そんなのがいたとしよう。
 アクの強いメンバー達。
 召喚メンバーを見渡して、はっきり言えることは俺がその英雄ではない事。俺はあまりに普通人過ぎる。

「そういうパターンですか、なるほどなるほど。ということは、その方以外は巻き込まれて召喚された……、ということになりますか?」

 パターンという言葉を聞いて、どんなパターンがあるんだ! と思わず叫びたくなる俺の心中を完全に無視して二人は話を続けていく。

「いえ、一概にそうとは言い切れません。元々、召喚を予定している人数が八人なのです。それがその秘めたる強き力を持つ者と上手く集まった瞬間に呼応し、異世界召喚が発動するようにしていたのですよ」

「そういうことですか、分かりました。抱えていた疑問が氷解しすっきりしました。それでは皆さん行きたいと思いますよー?」

 会長は王女と話し終えると俺たちに振り向きキャラを変えた。いっそのことどちらかで統一して貰いたい。非常に理解が難解だ。
 二人の言葉を聞いて分かったことは、なぜあのタイミングで召喚が行われたかという事。
 それ以上にいくらでも重要なことがある気がするが、それについて触れられることはなかった。

 俺は気になっていたことを聞こうと思い手を挙げる。
「はい、どうぞ」と会長に言われるのが、なんともおかしな気分になるが、

「この服装はなんですか? 俺が持っていたカバンと財布は……?」

 俺の言葉に会長が「確かにそうでした……」と言いながらポンと手を叩き、王女に顔を向ける。
 俺は、してやったり、と心の内でほくそ笑みながらその答えを待った。

「申し訳ございません。そちらの世界の品物を此方に持ってくるのは非常に大変なのです。それで、密着率の高い物品且つ、影響の少ないものだけを……」

 言いながら王女がその白い肌を僅かに赤らめるのに、新垣と江原が見惚れ、再度女達に肘鉄を食らった。

 ということは、俺のカバンと財布はどこか分からないけど消えたか、あの場に置いてきたかしたという事。
 別に大した額が入っていたわけじゃない。いたわけじゃないのだけど、そういう問題ではないんだ。

 俺の財布にはいろいろ見られたくないものも入っている!
 ひ、非常用のおやつとかな。うん。

 それよりもし置いてきたとするなら、男女の制服や靴が八人分に荷物やらギャルのピアスやらが転がっている光景が広がっているのだろう。
 
 想像するとなんか異常に不気味な光景。片づけをする用務員さんの心が悲鳴をあげるのが眼に浮かぶよう。
 というより、あり得ないほどの事件性で、テレビで有名人になってること請け合いだ。

 それはどうでもいいとして、莉緒がハーフアップを留めている髪留めや、高嶋さんの付けていたカチューシャなんかはそのままだ。
 ギャルのピアスがなくなっていることから、金属関連はご法度なのかもしれない。
 飛行機かよ!
 
 俺が「分かりました。いえ、分かってませんが納得しました」と言うと王女が「そうですか? 本当に申し訳ありませんね」と言って小さく頭を下げ「では、行きましょうか」と口にした。

 それより、よくよく考えてみればこの部屋には出入り口のようなものが一切ない。
 一体王女はどこから入ってきて、それにどうやって出るつもりなんだ?

 と、思っていると王女が壁に近付いていき、両手の親指と人差し指で輪を作り壁に押し当てた。
 頭に『?』を浮かべながら見ていると、その輪の内部がパッとエメラルドグリーンに光り、長方形型に壁が薄っすらと消えていった。
 あまりの超常現象に俺の脳みそは破裂寸前。この世界は魔法でもあるという事になるのだろうか?

 とは思ったが、異世界召喚の時点で驚天動地の大事件。周りを見渡せば不良二人が驚いているくらいで、他のメンバーは感嘆の声を漏らして拍手喝采を起こしそうな雰囲気。
 確かに凄い。手品やマジックで同じことを再現すれば、世界最高峰レベルだろう。
 けれど、そうだとしても、俺の心は今見た超常現象を素直に納得できようはずがない。有り体に言えばツッコみたいのだ。

「さて、皆様行きましょうか」との王女の言葉に何の疑問も抱くことなく付いて行く面々。
 流石に納得しきれない俺は、再度ちょいちょいと莉緒の肩をつつく。

「なぁ、莉緒。い、今のって魔法かなんかだよな……? 何で皆驚かないんだ……?」

 莉緒はなぜかは分からないが、僅かに頬を染め、そして小さく息をついた。

「もうそういう段階ではないのよ。異世界なら魔法があるのが当たり前。無い方が驚くべき事。ユゥアンダースタァン?」

 巻き舌の発音と俺の鼻をツンツンとつついてくるのに、若干イラッとしつつも、何だか嬉しさも感じ鼻を掻く。

「わ、分ーったよ。分ーった。はぁぁぁ。そういう段階ではないんだな! じゃあ、行くか!」

 見れば残るは俺たち二人。微笑みながら「ふふ、よろしい」と言って身を翻した莉緒に、胸の高鳴りを覚えつつもその後を追った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

勇者召喚に巻き込まれ、異世界転移・貰えたスキルも鑑定だけ・・・・だけど、何かあるはず!

よっしぃ
ファンタジー
9月11日、12日、ファンタジー部門2位達成中です! 僕はもうすぐ25歳になる常山 順平 24歳。 つねやま  じゅんぺいと読む。 何処にでもいる普通のサラリーマン。 仕事帰りの電車で、吊革に捕まりうつらうつらしていると・・・・ 突然気分が悪くなり、倒れそうになる。 周りを見ると、周りの人々もどんどん倒れている。明らかな異常事態。 何が起こったか分からないまま、気を失う。 気が付けば電車ではなく、どこかの建物。 周りにも人が倒れている。 僕と同じようなリーマンから、数人の女子高生や男子学生、仕事帰りの若い女性や、定年近いおっさんとか。 気が付けば誰かがしゃべってる。 どうやらよくある勇者召喚とやらが行われ、たまたま僕は異世界転移に巻き込まれたようだ。 そして・・・・帰るには、魔王を倒してもらう必要がある・・・・と。 想定外の人数がやって来たらしく、渡すギフト・・・・スキルらしいけど、それも数が限られていて、勇者として召喚した人以外、つまり巻き込まれて転移したその他大勢は、1人1つのギフト?スキルを。あとは支度金と装備一式を渡されるらしい。 どうしても無理な人は、戻ってきたら面倒を見ると。 一方的だが、日本に戻るには、勇者が魔王を倒すしかなく、それを待つのもよし、自ら勇者に協力するもよし・・・・ ですが、ここで問題が。 スキルやギフトにはそれぞれランク、格、強さがバラバラで・・・・ より良いスキルは早い者勝ち。 我も我もと群がる人々。 そんな中突き飛ばされて倒れる1人の女性が。 僕はその女性を助け・・・同じように突き飛ばされ、またもや気を失う。 気が付けば2人だけになっていて・・・・ スキルも2つしか残っていない。 一つは鑑定。 もう一つは家事全般。 両方とも微妙だ・・・・ 彼女の名は才村 友郁 さいむら ゆか。 23歳。 今年社会人になりたて。 取り残された2人が、すったもんだで生き残り、最終的には成り上がるお話。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

あっとさん
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

二度目の勇者は救わない

銀猫
ファンタジー
 異世界に呼び出された勇者星谷瞬は死闘の果てに世界を救い、召喚した王国に裏切られ殺された。  しかし、殺されたはずの殺されたはずの星谷瞬は、何故か元の世界の自室で目が覚める。  それから一年。人を信じられなくなり、クラスから浮いていた瞬はクラスメイトごと異世界に飛ばされる。飛ばされた先は、かつて瞬が救った200年後の世界だった。  復讐相手もいない世界で思わぬ二度目を得た瞬は、この世界で何を見て何を成すのか?  昔なろうで投稿していたものになります。

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。

嵌められたオッサン冒険者、Sランクモンスター(幼体)に懐かれたので、その力で復讐しようと思います

ゆさま
ファンタジー
ベテランオッサン冒険者が、美少女パーティーにオヤジ狩りの標的にされてしまった。生死の境をさまよっていたら、Sランクモンスターに懐かれて……。 懐いたモンスターが成長し、美女に擬態できるようになって迫ってきます。どうするオッサン!?

処理中です...