-全無生物を魔法に変える落ちこぼれ勇者- ユニーク魔法で異世界無双

とりっぷましーん

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第一章

011 全ての毛のない者達よ、俺に平伏せぇぇぇい!

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 歩は俺に特別な力があるという可能性を示唆した。
 けれど、それ以上に気になったのは歩の魔法。

 描写実体化。

 いや、それ自体が気になったのではない。気になったのは、エメラルドグリーンに表示される真っ黒な文字。
 つまり漢字が多すぎるという事。
 俺は大衆、民衆に分かりやすい言葉で伝えるのが責務だと言った。

 しかし! これにはそれが全く反映されていない。
 まるでどこぞの論文のようで非常に分かり辛い!

 責任者出て来い!と行列が出来るラーメン屋でなら声を大にして叫んでいることだろう。
 なぜなら、ラーメンを食べるときに、水を飲んではいけないと言っているようなものだからだ。

 そう。あくまで、伝える相手、食べる相手の目線になって、行動しなくてはならないのだ。

 お客様は神様なのです。

 まっ、自分で自分の事を神様っていう奴にはろくなやつはいねーけどな。

 と考えて、俺の肌が小さく粟立った。
 このステータスやら魔法やらというもの、特にユニーク魔法なんてものが、人がなんとかしたものとは到底思えない。
 ということは、これらは神様が与えてくれたものなのかもしれない。
 そう考え、歩のユニーク魔法の最後の文言を思い出す。

『ユニーク魔法所持の特例者として、総魔力量の上昇に固有計算式が適応される』

 まず大前提として誰に対して説明しているんだ?という風に思っていたが、これは明らかにおかしい。
 完全にゲームの文章だろう。固有計算式という表現は明らかにそれ。俺の理解の範疇を越えている。

 だが、あまり悪態をついて、俺にあるらしい特別な能力が引っ込められでもしたら敵わない。
 心の中で三十九円のお賽銭を捧げ、俺は歩に顔を向ける。

「魔法って使ってみたん?」

「いや、使ってないよ。てか、使う時間なかったし。小説だと隠された力は隠すって決まってるから」

「へぇ。能ある鷹はやっぱ爪を隠すんだな。俺なんて爪が隠れてることすら知らなかったのに。てか、ほんとに隠れてんのかな……」

 言ってからローストビーフを咀嚼し、バゲッドサンドをシチューと一緒に口に運びながら思う。
 何かが足りない、と。

「あ、そうだ。歩の魔法でさ、箸出してくれよ、箸。やっぱナイフとフォークとスプーンじゃ……、いや、今回の料理なら別にいいけどさ」

 歩は料理を見ながら「ローストビーフになら使えるかな……」と言いつつ指で円環を作る。
 何も言葉は発していないが、親指と中指の円環がエメラルドグリーンに光ると同時に、ピンと立てる人差し指の先が白く輝いた。

「うおぉ。かっこええ! ライト代わりにでも使えるんじゃね!?
 いや、やべぇ、ちょっと感動した!」

 人差し指を立てその先が光る様は、〇びまるこちゃんの〇尾君。
『ズバリ!』が口癖の彼の強化版みたいなのだ。

「うん、頭の中で考えながら円環を作るだけで良いみたい。時間ないから早く描かなきゃ」

 と言いながら、空中でつつつっと指を滑らせた。
 空中に書いてある平面画像なので俺にはよく分からないが、光の軌跡が虚空に浮かび非常に神秘的に見える。
 描こうと思った時だけ線が浮かび上がるのか、全ての指の動きに光の軌跡が発生するというわけではないのも興味深い。

 完成したのか指をパッと離すと同時に、肌色に彩色されたそれは実体化し、床に落ちる前に俺がキャッチした。

「セーフ! てか、マジでできちゃったよ……、ん、んん? ぶはっ。いやいや、ちょっと待ってくれよ!」

 直方体の中央に切れ込みのような線は入っている。
 けれど分断されておらず、いくら力を込めても真ん中で割れないことに思わず吹き出してしまう。

「何これ! 割れねーじゃん! これじゃ割り箸じゃなくて、割れない箸だぞ!」

 そう言って歩に渡すと、「んぎぎ」と言いながら力を込めたが、やはり割れない様子だった。

「ま、真ん中にちゃんと線書いたのに失敗したの……これ……?」

「まぁ、割り箸としてなら失敗だよな、完全に。割れねーもん。けど、質感とかは完全に割り箸の手触りだぞ?」

 色も質感も大きさも本物と差異があるようには思えないほどの出来栄え。ただ、真ん中で割れないというだけだ。それこそ、割り箸の本質だとは思う。
 そう考えると思い出されるのは、ラーメン屋での割り箸ケース。
 たまにこういうはずれの割れない箸が混ざってることがある。


――打ち首もんだろ!


 つって、元の住処にぶち込んでやるけどな。

「こ、これは練習と研究が必要になるかもだね……」

「ああ、そうだな。例えばだけどさ、隙間を作って描いてみたらどうよ? 時間は案外余裕あっただろ?」

 俺の言葉に頷くと再度指を光らせ宙に描き始める。正直な話、これを見てるだけで面白い。
 今度は自分でキャッチし、それを眺めて「うーん」と唸ってみせた。
 指で描くからか二ミリ程も隙間の空いた肌色の箸。最初から二つ出せば良い話でもあるが、それだと魔力を二倍消費する。

「ん、まぁ不格好だけど……、貸してみてくれよ?」

「うん、いいよ。割れるのかな?」

 力を込めるとパキリと乾いた音を立てて二つに分かれる。それを見て俺はホクホク顔で、予め箸で取る用にと残しておいたローストビーフの切れ端を、つまんで口に放り込んだ。

「んぐ、いいぞ、うん。でも、もぐ、10分で。ごく。10分で終わった時、白トリュフでもつまんでたら泣けるな」

「た、食べながら喋らないでよ。てか、白トリュフなんて普通つままないでしょ」

「おいおい、普通とか、常識とかの言葉で世の中を片付けていたら、いつか痛い目見るぜ?」

「はぁ~。じゃ、その時になったら考えるよ。それよりさ、僕の事は分かった。次は兵輔の番だよ?」

 その言葉にドキリと心臓が跳ねる。
 何だかんだ言って、俺には本当に才能も何もないという可能性もある。
 調べてみたい。見てみたい。けれど、もし、ステータスがスライドしなかったら、そう思うだけで、視界が僅かに揺れる。
 だが、やる。やるしかない。そう決意を決めて、俺はステータスを出すために円環を作り上げた。

「あーこえぇよ。くっそ不安なんだけど……」

「大丈夫、大丈夫。僕は絶対大丈夫って信じてるよ!」

 いや、それってフラグってやつだろ、と内心でツッコみつつ俺はステータスを出現させた。
 エメラルドグリーンの表示。指でスライドさせるとそれは動き新たな文字が現れる。

「ああ! やった! あった! あったあああぁ!」

 歩と同じように『ユニーク魔法』と書かれた横に『無生物魔法化』と書かれていて、内容は兎も角、俺は心の底から安堵した。

「ほらね! やっぱりあったでしょ!」

 俺はその言葉を聞いて歩の手を取った。

「ありがとう! ありがとう! 歩先生! 俺、大人になりました……」

「いや、感謝はいいけどさ。兵輔って大人になってないでしょ? 僕と同じ匂いがするもん」

「な、なんだってー!」

 まさか歩が下ネタを返してくるとは思ってもみなかった。
 確かに俺は童貞だ。悲しき発情期の雄。それは否定しない。

 けれど、童貞こそ正義。

 いや、社会的、生物的には悪なのかもしれない。けれど、童貞の方が楽しいと、多分思うのだ。
 些細な女の子の接触に勘違いし、些細な女の子の視線に勘違いし、そして最終的にストーカーをぶちかますのだ!


――良い子は真似しないようにっ!


 そんなことを考えていると、莉緒の事が頭を過る。
 今頃会長と楽しく話しているんだろうかな、とか。
 今後の事に不安を覚えて、ベッドの角でうずくまっていないだろうか、とか。

 だが、俺達は別にそんな関係でも何でもない。今日知り合っただけの関係でしかない。
 それでもこんなことを考え、楽しむことが出来るのも俺達の特権であり正当な権利である。

「ちょ、何、ニヤニヤと気持ち悪い顔して笑ってんの……?」

「しししし、失敬な! そそ、そんな顔してません! ちょっと、かかか、考え事してただけですわい!」

「はぁ~。何となく今日で兵輔のこと分かってきたような気がするよ……。それよりさ、早く見てみようよ?」

「一日で俺の何が……。ま、いいや。いやいや、楽しみすぎて焦らしちゃったんだよ!」

 歩が肩を竦めてバゲットサンドに口をつけるのを見て、何となく遺憾に思いながらも、俺はステータスから先ほどの画面を開きタップしてみせた。


『無生物魔法化(レベル1)』

 円環を作りながら触れた無生物を、魔法化する魔法。
 魔法化する対象物により、消費魔力量は変動する。
 また、消費魔力量によって魔法化後の性質と範囲、威力も変動する。
 魔法化した物を無生物に戻すことは現行のレベルでは不可能であり、待機時間を越えた魔法は自動で発動される。
 魔法発動待機時間「最大10秒」 消費魔力量範囲「50-50」
 ユニーク魔法所持の特例者として、総魔力量の上昇に固有計算式が適応される。


 俺は歩以上に真っ黒けな説明文を完全にスルーすることにした。

「歩とは違ってわっかりにくい魔法だな、これ。本当に当たりなのかよ……」

「試してみればいいじゃん? ふわぁぁ」

「いや、大あくびかましながらそう言われてもな……」

 どんな能力か分からないが、無生物に戻すことが出来ないと書いてある以上、戻せないのだろう。
 そうなると、今俺の身の回りにある物は、全て俺の物じゃない。
 他人の――それもお城の高級品になるはずだ。
 服なんかでは試したくないし、落ちてる埃でも、と思って探してみたが、掃除が行き届いているのかハウスダストは見つからない。
 路銀にと受け取った、透き通るコインみたいなお金の入った革袋も、収納庫に入れてる上に勿体ないからやりたくない。

 飯も俺のは食っちゃったし、皿に付いてるタレでもいいかな?と思いながら指を伸ばそうとして、脳裏に閃きが走る。

 ないなら、作ってしまえば良い。

 そう思いながら、俺は髪の毛を一本抜いた。
 毛根の細胞はまだ生きてるはずだがこの際どうでもいい、試して駄目なら駄目で構わなかった。俺の黒髪一本にそこまでの価値はない。
 親指と中指で円環を作り頭で『無生物魔法化』と考えるが、歩のように指先が白く光ることはなかった。

 〇尾君に対して内心で毒づいた後、気を取り直して髪の毛に触れてみる。すると髪の毛が光輝き、俺の指に吸い込まれるように消えていく。
 同時に小さなエメラルドグリーンの円環の中に表示される小さな文字。


『植毛(一本)』
  指定した場所に髪の毛を一本生やす


「…………」

 まじですか?

 うおっしゃ来たこれえええええ! これで世界中の禿げは撲滅じゃああああああ!

 なんて叫ぶとでも思ったか!?

「ちょ、歩これ見てくれよ。あほだろこれ……」

 と言ったところで時間が来そうになり、俺は思わず腕に向けて魔法を発動させてしまう。
 ぴょいんぴょいんと、魔法化した髪と同じ長さの黒い毛が腕に一本生え……俺は泣いた。

「ちょ、兵輔! 何泣いてんの?……って嘘泣き! うん、まぁ……確かに兵輔のは愉快な魔――」

「しゃらーーーーーっぷ! くそ、なんだよこれ! おらっ!」

 力を込めると僅かな痛みを伴なったが簡単に毛は抜けた。
 唯一本の長い髪の毛が抜け、ハンカチを目の端に当てる波平〇んが目に映るよう。
 俺は『アホ腕毛』の称号を得なかったことに、ホッとし胸を撫でおろす。

「あはは、いいじゃん。面白かったし! ふわぁぁ。
 それに、僕も兵輔もまだレベル3だからさ。レベル上がったら、ふさふさのかつらが現れるようになるかもよ?」

 慰めようとしてくれてんのかよく分からんが、確かにそれなら俺は毛のない人に神と崇められることだろう。

「髪だけになっ!」

「な、急に何言ってんの? それより僕ちょっと眠いよ……。お風呂入ってないけど……疲れちゃったのかなぁ……」

 歩のツッコミが入らないことに寂しさを覚えると同時に、俺もかなりの眠気に襲われてることに気が付いた。
 見れば歩は瞼をとろりと落としそうで、首がこっくりこっくりと揺れている。
 俺自身も時間を確認するのも億劫な程に眠いが、多分、まだ眠くなるような時間じゃないはずというのは分かる

「ああ、俺もすげーねみーや……。確かに疲れてんのかもしれん。とりあえず、ベッド行って寝ようぜ? 風呂は……明日でもいいだろ……」

 そう言いながら、動きの緩慢な歩の肩を支えてベッドに運ぶと、俺も突っ伏すように倒れ込み、

「…………」
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