-全無生物を魔法に変える落ちこぼれ勇者- ユニーク魔法で異世界無双

とりっぷましーん

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第一章

012 初戦闘が対人戦かよっ!

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 ワックスが頭皮に触れたせいか知らないが、あまりの痒さに目を瞑ったまま思わず頭を搔きむしる。
 ワックスも一緒に召喚されたのか?と考えると江原の事が思い出される。
 オールバックはそのままだった。もし、ポマードかなんかが取れていたら、おそらく爆発したハリネズミにでもなっていただろう。

 そんなどうでもいいことをそこまで考え、最重要であるはずの今の状況に気付く。

 なんだ……この振動は……?

 体が縦に揺れ、ガシャリガシャリと金属音のような音が耳に届く。腹に当たるは硬質な感触と圧迫感。
 確か俺は異世界に召喚されて部屋で歩と――と、その先が記憶として蘇らない。ベッドで寝たとこまではいい、それ以降の記憶だ。
 つまり俺はずっと寝てて、今起きたという事。
 柔らかな布団の感触も、美少女との『おはようイベント』もない。
 恐る恐る目を開けると見えるのは土の地面。そして、鎧を着た足が規則正しく動いている光景。

 抱え上げられてる……?

 と、思った瞬間「よし、この辺でいいだろう」と耳に届き、そして、

「痛ってぇぇ!」

 地面に乱暴に投げ捨てられた。
 そのままゴロンと一回転し、歩の姿が目に映る。

「あいたたたたた。な、なに? なんなの? ここどこ?」

 歩は寝ぼけ眼を擦る暇もなく、驚いた様子で辺りを見回した。
 日はまだ登り切っていないのか薄暗い。さらに建物が周りにあるがなんとなく鬱蒼とした気配を感じる。
 俺達を運び、投げおろし、見下ろしているのは鎧を着こんだ兵士が二人。
 二人の体格に差があるのは、俺の方が歩よりも体がでかいからということになるのだろうか。

「おい!こら! 一体何なんだよ! 俺達勇者様だぞ!」

 俺の言葉に、じゃがいものような顔をした体格の良い兵士と、歩を運んだ黒い髭を生やした兵士は、顔を見合わせ口を歪めた。

「はっはははは。聞いたか? おい」

「ああ、聞いた聞いた。勇者様って言ったな? このゴミ共が!」

 その言葉を聞き、あーこれまずいやつだ、と俺の心臓が警鐘を鳴らす。
 だが、声を上げたのは歩だった。

「な、何言って……、まさか、僕たちを殺すつもりなの!? くそ、そのパターンか」

 兵士たちは「ああ、そのまさかだ」と言いながらシャリリと腰の直剣を抜き取ったのを見て、俺は歩の手を取り立ち上がると、後方へと引いた。
 しかし、そのパターンとは……、いや、今はそんなことはどうでもいい。

「ちっ、どういうことだ? 大臣……か?」

 思い当たる俺達に殺意を持ちそうなのは、大臣一択。だが、俺達がただ弱いから殺すという理由は、理由として弱いような気がする。
 俺の言葉に兵士たちはニヤニヤと笑いながら歩み寄って来るだけで、口を開こうとはしない。

「おい、どうせ金だろ? 俺の金を渡すから見逃してくれよ!」

 言いながら収納庫から金の詰まった袋を取り出し、地面に投げ落とす。水色と青色と赤色のコインが10枚ずつ入った革袋を支度金として受け取っていたもの。
 けれど、それを拾い上げ懐に入れるだけ入れたくせに、兵士たちは歩みを止めない

 泥棒!と声を大にして言いたいがそんな余裕はないので、俺は歩に囁き掛ける。

「俺が何とか時間を稼ぐ。だから……そうだな、お前の魔法で金の延べ棒を出してくれ。二本な」

 言ってから俺は地面に落ちていた石ころを、手で隠しながら円環を当てた。
 付随するエメラルドグリーンの光を見てか、兵士たちが声を上げる。

「な、お前! 不審な動きすんじゃねぇぞ!」

「いや、待て。あいつらには魔法はない。どうせ赤ん坊のようなステータスでも確認してみたんだろ」

「はっはっはっは。確かにそうだ」

 その腹立つ言葉を尻目に俺は内部を確認。
 どうか頼むと念じながら、


『投石(レベル1)』
  直径二センチの石を指定した方向へ秒速30メートルで飛ばす


 この場を打開する程の力はなく、いまいちな結果ではあるが、植毛よりは余程良い。
 瞬時に頭を回し作戦を練る。刹那の時間が勝負――それが実戦というもの。
 思いながら、さらに石ころを拾い上げ円環を当てる。同じ魔法が発動するのを確認し、俺は兵士の側方へと駆け出した。

「なっ!」

 と、言いながら兵士が剣を振りかぶった瞬間、俺が発動時間を調整し待機させていた二つの魔法――二つの石ころが空中で衝突し硬質な破砕音と石塵を放つ。
 上手くいったことに安堵しつつ、口の端から笑いが漏れ、そのまま、

「うらぁぁ!」

「なんだ――うぉっ」

 破砕音に気を取られたジャガイモ顔の兵士の外腿を、思いっきり蹴とばしてやった。
 相手から目を切るとか甘ぇよ!と見ていると、ガシャアと大きな金属音を立て、もう片方の兵士に覆いかぶさるように倒れ込む。

 よし! 体格の差ドミノ!

 とガッツポーズをかましたいが、流石にそこまで余裕はない。
 そのまま倒れ込んだ兵士の脇に転がった剣を拾い上げ、歩の元へと駆け寄っていく。
 鎧を着て倒れたら、中々起き上がれないって聞いたことあるから今の時間が勝負となる。

「出来たか!?」

「あ、うん、出来たよ。び、びっくりしちゃったよ。兵輔、凄くない?」

「はは、火事場の馬鹿力と運の賜物だよ」

 俺は歩から、思った以上に小さい金の延べ棒を、すげー輝きと艶めかしい質感だな、と思いつつ受け取り、その小さな金塊から感じるあまりの重みに驚愕する。
 そのまま「痛ってぇ」「お前、ふざけんなよ」と言いながら、意外と素早く起き上がろうとしている、兵士に言葉を言い放った。

「おい、あんたら! これ、渡すから俺達の事を見逃してくれ! 俺達はここから出て行く、殺したことにしてくれていいから」

 言いつつ二本の金の延べ棒を兵士に見せつけた。
 明らかにそれで目の色を変える兵士たち。
 よし、貰った、と内心でガッツポーズをかましつつ、剣を片手で正中線に構えると、真剣を片手で構えることの重さに目を剥いた。

 昨夜の魔力が回復しているのであれば、俺が魔法を放てるのは後二回。長引くと俺達の負けなのは明白だ。
 ジッと見つめていると兵士たちは、ぼそぼそと二人で相談し頷いたことに、油断も隙も一分も見せないようにしつつも心は僅かに安堵した。

「分かった。絶対にこの街に顔を見せるなよ。じゃないとお互いに良い事にならないからな」

「ああ、たりめーだろ。こんなとこにいたくねーよ」

 この延べ棒はどうでもいいけどさっきの金袋は返して欲しい。しかし、流石にそれは言えないので泣く泣く金塊を投げ渡す。
 重過ぎて地面をカランカランと転がったのは若干格好がつかないが、結果だけ見れば良しといえる。
 王女さんが金を大量に身に着けていたから思いついた作戦だが、金の輝きってモノは、どこの世界でも人を魅了するのだなとその魔力に感心を覚えた。

 だが、兵士達が金塊を懐にしまい立ち上がったところで、俺の目にあるモノが飛び込んでくる。
 それは莉緒と会長が駆けつけて来る姿。
 流石ブラックベルト保持者と言うべきか、先に駆けつけた莉緒が俺達を見ながら目を見開く。

「な、何!? 何やってんの? ああ!! 兵輔怪我してるじゃない! あ、歩君も!」

 よく見れば剣を構える腕やらなんやら擦りむいている。最初に投げ落とされた時だろう。
 気付けば痛みもチクチクと襲ってくるが、そんな痛みも目の前の光景を見て吹き飛んだ。
 莉緒は兵士たちに顔を向け歯をギリリと噛みしめると、物凄い形相で、

「あ、あんたたちがなんかやったのね!?」

 と、言いながら上段回し蹴りを放つ。兵士の顔を掠める到底人間の放つ蹴りとは思えない楕円上の軌跡は、兜を吹き飛ばし頬をぱっくりと裂いた。
 そのまま兜を吹き飛ばし建物の壁にぶち当たり、クルクルと回転し兜はコシャっと奇妙な音を立てて二つに割れた。

 それを見て俺の頭の中と心がかき乱される。
 凄まじく速いが、美しい円弧は莉緒のクマさんパンツを再度覗かせていたのだ。
 恐怖、安堵、歓喜などの感情が入り混じり複雑な化学反応を巻き起こす。

 莉緒の残像が出そうなほどの高速蹴りを味わった兵士たちは、怯えた様子でへなへなと腰を下ろした。

 とここでやってくるのが、天ヶ崎会長様という恐怖の女王。
 腕を組んで兵士たちを見下ろし、あざ笑うかのように口の端を上げる。

「ふぅん、ふぅん。何ですか、この自分の匂いで死ぬカメムシみたいな人達は?」

 そのまま天使のような微笑みを浮かべたまま指をぴんと持ち上げると、

「これは江原君達よりも害悪な存在のようです。駆除しましょう」

 言いつつ両腕で大きなエメラルドグリーンの円環を作り上げてみせた。その瞬間、兵士たちの顔が恐怖に染まり、座っていた地面がじわと黒く染まっていく。
 円環を利用した駆け引きという脅し。それをこの世界に来てから二日でやってのける会長の順能力の高さに、脱帽するしかない。

「あらあら、汚い。カメムシは後ろから臭いガスを出すものかと思ってましたが、前からも汚い汁を出すのですね。これでは、ただの汚物発生装置じゃないですか」

 調子のよい毒舌も味方であるならこんなにも頼もしいと思えることはない。
 そこまで喋ったところで莉緒が会長の腕をとった。

「れ、怜奈、そのへんにしときましょ。ちょっとやり過ぎちゃったような気がするわ」

「そう? 息の根を止めようと思ったのだけど……、仕方ないです。莉緒に感謝するのですね」

 それを聞き兵士たちは、ガシャンガシャンと逃げる様に去って行った。
 もう彼らの自信は回復することはないだろう、と思いながらその背中を見つめていると、なぜか莉緒が俺に駆け寄ってきて抱き着い――じゃなくビンタをかましてきた。
 思わぬ突然の衝撃に剣を落とし、混乱した頭でなぜ叩かれたのかを考える。

 頬がびりびり痛むその痛みは、地球で貰ったビンタよりもかなり強い。
 まさか、クマさんパンツを再度見てしまったから? いやいや、それなら歩も見えただろう、と考え歩は後で頬をつねってやることにした。

 けれど、痛む頬を手で擦りながら見ると、莉緒の表情は怒りではなく、目の端に涙を浮かべていて、

「朝、部屋を覗きに行ってみて、もぬけの殻だったから二人でこっそり出て行っちゃったのかと思って……、心配しちゃったじゃない!」

 と言って、じっと俺の顔を見つめると今度は本当に俺に抱きついてきた。
 あれ、まじでフラグ立ってんの?とか、俺何で叩かれたの?といった考えが頭を巡り、俺は茫然自失。
 でも、莉緒が可愛くて、良い匂いがして、体温を感じて、そして、むにゅと柔らかいものがあたって俺の脳に歓喜の波が押し寄せる。

 俺の腕は抱き返していいのかという永遠の疑問を抱え、虚空をさまようクラゲのような奇妙な動きをしているだろう。
 このままだと分身がまずい……かも、というところで莉緒が離れ、口を開いた。

「会長がこれはパターンBって言って、それで……」

「パターンB?」

 そう言えば歩もパターンがどうとかとか言ってたな、と思って聞き返すと、歩の様子を見ていた会長が口を開く。

「パターンBadですよー。勇者召喚に巻き込まれた落ちこぼれを、殺そうとするパターンになりますかー。
 いやいや、その可能性は考えてお二人の様子を昨夜見に行ったのですがね……」

「うん、しばらく様子見てたけど、凄くぐっすり寝てるようだったから……」

 俺たちの寝顔を見てた……!?と思うと、顔が僅かに熱くなる。

「ええ。莉緒が兵輔君を見ながらキスで目覚めるかな? とか言い出したので、兵輔君の貞操を守るために私は必死で頑張りましたよー」

 会長の微笑交じりの言葉に驚愕と嬉しさを感じつつ莉緒を見ると、顔は赤くなっていたが、

「そ、そんなこと言ってませんし、何もしてません! 私達はただの友達です!」

 と、絶望を俺に叩きつけた。

 ただの友達。ただの友達。ただの友達、と俺の頭の中を切ない言葉が三度木霊していく。


――ほれ見たことか!
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