14 / 23
第一章
013 会長の行動は計算尽く……まじかよ?
しおりを挟む
友達から始めましょう。
男はその言葉を聞き、歓喜して感動に体を震わせる。
これからも友達でいましょう。
男はその言葉を聞き、涙を流し絶望で体を震わせる。
友達という言葉。単純な二文字の漢字であるが、それに含まれる意味は重い。
男は悠久の時よりずっとこの単語に苦悩し、絶望し、そして希望を見出して生きてきている。
そう。そこで俺は声を大にして言いたい。
女の子は男に向かって『友達』という時は気を付ける様に!
色んな意味でな!
莉緒に『ただの友達』と言われ、絶望したが昨日知り合ったばかりなのだ。完全に嫌われてるわけではない、そう脳内変換し俺は前へと顔を向ける。
「しかし、会長も莉緒もこれでお城に戻り辛くなったんじゃないのか?」
だが、言葉を発したのは、腕を組んで何か考えていた様子の歩だった。
「いや、会長さんの言うとおりパターンBなら戻り辛い……じゃなくて、戻らないほうがいいだろうね」
「歩君の言う通りなのですよー。もしかしたら、全てがBad召喚の可能性もありますよー」
シリアスな空気も会長の言葉遣いで何となく和む。狙ってやってるんだろうことに戦慄を覚えるが。
そういえばこの三人は予習組だなと思い、口を開こうとしたところで莉緒に先を越された。
「でも、そんな雰囲気って程でもなかったような……。大臣さんが怒ってたくらいで」
正直俺には小説の知識というものはない。
よく分からないので、三人の言葉に耳を傾けていたほうがいいのかもしれないと考える。
「ええ。だからおかしいのですよー。
私、カマをかける意味で、謁見の間で色々やってみたんですが覚えていますか?」
色々と言われても、色々過ぎて分からないほどに会長は傍若無人に振舞っていたように思える。
そう思っていると歩が、指を虚空に突きつけながら声を上げた。
「あの〇ョジョネタの、言葉先読みしてビシリ! ってやつですか? いや、すんごく笑ってしまいましたけど」
言いつつ思い出したのか、歩は小さく噴き出した。
「そうです、そうです。絶対無理な雰囲気なら流石に私もやりませんよ。
けれどやりました。そして反応は……穏やかなものでしたよね?
普通に考えれば、ああいう風になるわけがありません。だって、ある意味ではこの国の最高権力者を馬鹿にしたんですから」
好き放題やってんのかと思ったらそこまで計算していたのかと、小悪魔さんに心の中で賞賛を送った。
会長のカリスマ性はおそらく天にも届くので、それは今更かとも感じたが。
「二回やったのもそのためだったの、怜奈? あの時、ほんっとうに壺に入っちゃったんだけど」
莉緒が俺の顔をチラリと覗き込んでくるのは、あの『天国と地獄』をやったのを気にしてるからからだろうか。
「ええ、そうですよー。気付きました? 二回の空気が若干違ったことに」
どうだっけ、あの時はそれどころじゃなかったし、と思いつつもその時の雰囲気を思い出してみる。
「ただ……まぁ……今は何とも言えないのも事実。気になることはありますが、それも微妙に……何と言いますかねー」
会長は口に手を当てながら口ごもった。
よく分からないが何か心当たりはあるけど、確信は持てないということなのだろう。
「ま、歩君と兵輔君が襲われたってことは、単純な勇者召喚ではないのは確定ですかー。ただいらないだけなら叩き出せばいいんですから」
ニコニコしながら会長に『叩き出す』と言われると若干精神が抉られるのを感じた。
俺はその思いを振り払うように、小さく首を振って尋ねかける。
「えと、これからどうするんですか? この街にはいられないなら、早めに準備して出て行ったほうがいいですよね?」
「そうですね。私の考えですが、王様の言ったように私達は東、兵輔君達は南。とりあえず、それで進んでみて良いんじゃないかと思います」
その言葉を聞き莉緒が驚いた様子で会長に顔を向けた。
「あれ? てっきり四人で行くのかと思ってました。別れちゃうんですか?」
「はい。莉緒には昨日見せましたよね? 私の魔法を。連絡は取れます。だから、まずは魔王が本当にいるのか確認し、世界を知るべきだと思うのですよー」
魔法で連絡……? だが、確かに会長の言い分は正しいような気もする。俺も莉緒と一緒の旅になったと思って少しドキドキしていたが、この際仕方がないだろう。
そう思っていると会長は両手で円環をそれぞれ作り、俺と歩に向けてくる。両手で別々に作っているのを実践しているのを見て流石は会長だなと思った。
「円環に触れてみてください。それで私からお二人にメッセージを送れるようになります。あとで姿が見えなくなってから送ってみるのですよー」
便利なもんだ。俺なんてよく分からない魔法が一種類あるだけだというのに。
エメラルドグリーンの光に触れると、何の反応も示すことはなかったが、会長がそのまま両手で何かを確認し頷いたので大丈夫なのだろう。
それより、辺りはだんだんと明るくなり始め、人もポツポツ見えだしている。俺達と変わりがない普通の人々が。
「だんだん人が見え始めたわね。どうする? そろそろ動き出す?」
「そうですね。けれど、歩君と兵輔君は街を出歩かないほうが良いでしょう。みな……いえ、東門で待っててください。私達が買い出しに行ってきますので」
絶対、南門だと後で面倒だからと言い換えたな、と思ったが、買い出しをしてきてもらうなら、それが当たり前かと思い直す。
若干女の子に買いに行かせるのは悪いなと思うが、その方がいいのは確かなので、俺は歩に顔を向けた。
「俺、全部、金渡しちゃったからさ……。歩、いりそうなもん頼んでおけよ」
「ん? いや、そんなのいいよ。一緒に使おうよ。あれのおかげで助かったんだしさ」
金はただ単純に拾われて泥棒されただけだ。
先ほどのうそつき野郎共の事が思い出され、俺の心にどす黒いものが渦巻いた。
もっとも金塊だけみせて納得していたかは不明なので、本当に役に立たなかったかは今となっては分からないが。
「お金を渡して命乞いとは……ちょっとカッコ悪いですが、中々機転が利きますね。いえ、全額なら中々カッコいいかもしれませんよー」
言いつつ顔を赤らめでもしたら慰めになるんだろうけど、完璧な微笑みの前に俺の心は砕けそう。
実際、歩がいなかったら終わってただろうということも、理解している。俺の魔法だけでは陽動は出来ても打開はできなかったはずだ。
思っていると、莉緒が俺の顔を覗き込んでくる。
「いいよ、足りなかったら私出してあげるから。それより欲しいもんは?」
暴力的なくせに、こういう優しいとこが惹かれる。近くで見ても俺の好みドストライクなところは変わらないし。
ずっと見つめてしまいそうになるのを、俺の鋼の心で押さえつけ考える。
貰った金の価値も、物の価値も分からない。
俺はしばし考えて、腰に付けるカバンのようなもの、兵士から奪い取った剣の鞘、飲食物少々を頼むことにした。
何が必要になるか分からんし、何を売ってるかも分からんから、旅的に足りなさすぎる気はしたが、借りる立場だし遠慮してしまう。
「あーそうだ、あの不思議なコイン――金の価値を調べて教えてくんね? あと、南ってどう進めばいいんだろ。街道を通ればいいのか、地図でもいるのか……」
街はぐるりと外壁で囲まれているようで、ここからでは外の様子は拝めない。
けれど、昨日王城からみた景色では、薄闇の中森やら山やら街道のように伸びる道なんかが見えていた。
「うん! それも調べて教えたげるね。じゃ、怜奈、いこっか?」
「それではしばしお時間頂くのですよー。なるべく、隠れて人に見つからないようお願いするのですよ。もし姿が見えなかったら魔法を使っちゃいますので」
そう言いながら背中を向けて歩いていった二人に一瞬目を向けた時、ガサリと建物の陰から音が聞こえた。
それには歩も気付いたようで、目を合わせてから確認してみたが、特に異常は見当たらない。
「何だろうね?」
「ん、うーん……。誰かに見られてた……? と、したらやべーな。早めに東門に行っちまうか」
俺達の監視やら援軍であるなら、もうとっくに何か起きててもおかしくはない。そうなると、そうではないという事。
心の中にもやっとした気持ちが生まれたが、なるべく気にしないようにして、俺達は方位を確認しながら東門を目指していく。
「いやぁ、しかし、まじでびびったよな? 俺、目開けたら身体浮いてたもん」
街は本当にヨーロッパのような石造りっぽい建物が建ち並んでいる。
歩く人々も風変りな服装を着ているが、俺達と特に変わりはない。
髪色や瞳の色、顔つきなんかは地球と大して変わらず、変な色をした人は……と見回すとちらほら見かけることが出来るようだ。
と言っても、赤髪、オレンジ髪といった程度。アニメみたいな蛍光色の青髪とか瞳とか、獣人とかいなくてちょっぴり残念だとも感じる。
「僕、ベッドから転げ落ちる夢見ちゃったよ。何であんなにぐっすり……、もしかして……睡眠薬でも盛られてた?」
その考えは考えてないわけじゃなかった。昨夜の眠さはある意味異常といえるもの。飯食ってすぐだったという事もそれを裏付けるのかもしれない。
けれど、そうすると一つ納得のいかないことがある。
「かもしれん。かもしれんが、そうすると何で朝まで行動を起こさなかったんだ……? 寝るのが分かってるなら、俺ならすぐ殺しに行くぞ」
勿論口で言うだけではあるが、その立場ならそうするべきだと俺は考えていた。
其れよりも口にして、この世界で生きるなら人を殺すという覚悟が必要になるのだろうかと考え、背筋にゾクリと感じた。
「確かにそうだね。昨夜は会長たちが僕らの部屋に来ていたって言ってたじゃん? それでとかは……?」
「あーうん。そうかぁ。言われてみれば……」
俺は歩きながら腕を組み考える。
結局何一つ俺にはよく分からない。小説を読んでいれば、また違った予測を立てることが出来るのだろうか。
ゲームや漫画は深い意味もなく唐突にご都合主義が起きる、
整合性取れよ!と、たまに叫びたくなるが、そうすると話がつまらなくなる。寝静まった深夜に、暗殺するように殺されていたらもう俺たちはここにはいない。
ここは小説の世界ではないらしいが、小説の世界に似たような雰囲気らしい。ならば、意味を追い求めても仕方がないのだろう。
ということは、下手したら死んでいたということ。考えると心は冷たく感じたが、身体が温かみを保っていることに安堵し胸をなでおろした。
深い溜息をはきながら何の気なしに円環を作り、
「あ! 見ろよ、ほら! 俺、レベルが2も上がってる!」
ステータスを開いてみるとレベルが上がっていた。ちょっと、テンション回復したのを感じる。
ただ、表示される魔力量も変化しておらず、変わったのは『3』という数字が『5』になっただけ。
当然ユニーク魔法も変化しておらず、俺の体にみなぎる様な力も湧いてきてはいない。
「本当だ……、って僕も1上がってるよ! 何もしてないのに。レベルアップした感覚ってないんだ……」
確かにいつ上がったのかもよく分からない。
ゲームなら『たらららったったー』みたいなファンファーレがどこからともなく聞こえてくるが俺の耳には何も届いていない。
歩も俺と同じようにレベルの数字が変わっただけだ。
「別に兵士を倒したってわけじゃないのにな? ま、赤ちゃんに毛の生えた程度の俺達が、あそこまでやれたらレベルを上げるしかない、という神の思し召しってやつか?」
そう考え、俺は内心で三百九十円のお賽銭を捧げた。金は持ってないが気持ちが大事だと思いながら。
「どうかなー。とりあえず、モンスターを倒すだけがレベルアップの手段じゃないってことは分かったよ」
「んー、つか、モンスターって何よ? モンスターって英語だと怪物って意味だけど、本当にそんなのいるわけ?」
RPGだとモンスターがいるのは当然だ。それは分かる。ここは小説のような世界。それも理解している。
でも、結局モンスターって何?を説明できる人はいるのだろうか。いや、いないだろう。
理屈をこねてモンスターというものを作り上げることは出来る。けれど、それはあくまで空想の産物でしかない。
なぜなら地球にモンスターはいないからだ。いないものを説明するのは不可能、ま、それは魔法も然りだがな。
けれど、歩は当然のように答えてくる。
「え? 何言ってんの? そんなのいるに決まってんじゃん! だって、魔法があるんだよ?」
俺もさっき殺されかかってなかったら、もうちょっとテンション髙く反応出来たかもしれんけど今は無理だった。
今は精神が落ち着いてしまい、心が沸き立つような感覚がない。
けれど、確かにあの時戦闘が精神に高揚を与えていたというのも事実。
兵士を蹴り飛ばし、そして倒れゆくのを見て、俺は心の底からガッツポーズをかましたかったのもまた事実。
「ま、いると思っとくよ。けど、そうだとしたら危険じゃね? 俺達、鎧でもなんでもないけど……、大丈夫なんかな」
「ん~、そうだね。でも、僕が鎧なんか着て動けるとは思えないし、それにこの服意外と頑丈な気がするよ」
言われてみればと思い、肘までしかない袖の生地をつまんでみる。
何で出来ているのかは知らないが、割と厚手なのに動きも阻害しないし、頑丈そうな気もする。
どのようなプロセスで服がこうなったのかは分からないが、勇者として召喚したんだから、悪いモノを着させるわけはないはずだ。
と、思っていると見えてくる大きな赤銅色の門。
それをなるべくひっそりとくぐり抜け、俺達は街の外で待機することにした。
男はその言葉を聞き、歓喜して感動に体を震わせる。
これからも友達でいましょう。
男はその言葉を聞き、涙を流し絶望で体を震わせる。
友達という言葉。単純な二文字の漢字であるが、それに含まれる意味は重い。
男は悠久の時よりずっとこの単語に苦悩し、絶望し、そして希望を見出して生きてきている。
そう。そこで俺は声を大にして言いたい。
女の子は男に向かって『友達』という時は気を付ける様に!
色んな意味でな!
莉緒に『ただの友達』と言われ、絶望したが昨日知り合ったばかりなのだ。完全に嫌われてるわけではない、そう脳内変換し俺は前へと顔を向ける。
「しかし、会長も莉緒もこれでお城に戻り辛くなったんじゃないのか?」
だが、言葉を発したのは、腕を組んで何か考えていた様子の歩だった。
「いや、会長さんの言うとおりパターンBなら戻り辛い……じゃなくて、戻らないほうがいいだろうね」
「歩君の言う通りなのですよー。もしかしたら、全てがBad召喚の可能性もありますよー」
シリアスな空気も会長の言葉遣いで何となく和む。狙ってやってるんだろうことに戦慄を覚えるが。
そういえばこの三人は予習組だなと思い、口を開こうとしたところで莉緒に先を越された。
「でも、そんな雰囲気って程でもなかったような……。大臣さんが怒ってたくらいで」
正直俺には小説の知識というものはない。
よく分からないので、三人の言葉に耳を傾けていたほうがいいのかもしれないと考える。
「ええ。だからおかしいのですよー。
私、カマをかける意味で、謁見の間で色々やってみたんですが覚えていますか?」
色々と言われても、色々過ぎて分からないほどに会長は傍若無人に振舞っていたように思える。
そう思っていると歩が、指を虚空に突きつけながら声を上げた。
「あの〇ョジョネタの、言葉先読みしてビシリ! ってやつですか? いや、すんごく笑ってしまいましたけど」
言いつつ思い出したのか、歩は小さく噴き出した。
「そうです、そうです。絶対無理な雰囲気なら流石に私もやりませんよ。
けれどやりました。そして反応は……穏やかなものでしたよね?
普通に考えれば、ああいう風になるわけがありません。だって、ある意味ではこの国の最高権力者を馬鹿にしたんですから」
好き放題やってんのかと思ったらそこまで計算していたのかと、小悪魔さんに心の中で賞賛を送った。
会長のカリスマ性はおそらく天にも届くので、それは今更かとも感じたが。
「二回やったのもそのためだったの、怜奈? あの時、ほんっとうに壺に入っちゃったんだけど」
莉緒が俺の顔をチラリと覗き込んでくるのは、あの『天国と地獄』をやったのを気にしてるからからだろうか。
「ええ、そうですよー。気付きました? 二回の空気が若干違ったことに」
どうだっけ、あの時はそれどころじゃなかったし、と思いつつもその時の雰囲気を思い出してみる。
「ただ……まぁ……今は何とも言えないのも事実。気になることはありますが、それも微妙に……何と言いますかねー」
会長は口に手を当てながら口ごもった。
よく分からないが何か心当たりはあるけど、確信は持てないということなのだろう。
「ま、歩君と兵輔君が襲われたってことは、単純な勇者召喚ではないのは確定ですかー。ただいらないだけなら叩き出せばいいんですから」
ニコニコしながら会長に『叩き出す』と言われると若干精神が抉られるのを感じた。
俺はその思いを振り払うように、小さく首を振って尋ねかける。
「えと、これからどうするんですか? この街にはいられないなら、早めに準備して出て行ったほうがいいですよね?」
「そうですね。私の考えですが、王様の言ったように私達は東、兵輔君達は南。とりあえず、それで進んでみて良いんじゃないかと思います」
その言葉を聞き莉緒が驚いた様子で会長に顔を向けた。
「あれ? てっきり四人で行くのかと思ってました。別れちゃうんですか?」
「はい。莉緒には昨日見せましたよね? 私の魔法を。連絡は取れます。だから、まずは魔王が本当にいるのか確認し、世界を知るべきだと思うのですよー」
魔法で連絡……? だが、確かに会長の言い分は正しいような気もする。俺も莉緒と一緒の旅になったと思って少しドキドキしていたが、この際仕方がないだろう。
そう思っていると会長は両手で円環をそれぞれ作り、俺と歩に向けてくる。両手で別々に作っているのを実践しているのを見て流石は会長だなと思った。
「円環に触れてみてください。それで私からお二人にメッセージを送れるようになります。あとで姿が見えなくなってから送ってみるのですよー」
便利なもんだ。俺なんてよく分からない魔法が一種類あるだけだというのに。
エメラルドグリーンの光に触れると、何の反応も示すことはなかったが、会長がそのまま両手で何かを確認し頷いたので大丈夫なのだろう。
それより、辺りはだんだんと明るくなり始め、人もポツポツ見えだしている。俺達と変わりがない普通の人々が。
「だんだん人が見え始めたわね。どうする? そろそろ動き出す?」
「そうですね。けれど、歩君と兵輔君は街を出歩かないほうが良いでしょう。みな……いえ、東門で待っててください。私達が買い出しに行ってきますので」
絶対、南門だと後で面倒だからと言い換えたな、と思ったが、買い出しをしてきてもらうなら、それが当たり前かと思い直す。
若干女の子に買いに行かせるのは悪いなと思うが、その方がいいのは確かなので、俺は歩に顔を向けた。
「俺、全部、金渡しちゃったからさ……。歩、いりそうなもん頼んでおけよ」
「ん? いや、そんなのいいよ。一緒に使おうよ。あれのおかげで助かったんだしさ」
金はただ単純に拾われて泥棒されただけだ。
先ほどのうそつき野郎共の事が思い出され、俺の心にどす黒いものが渦巻いた。
もっとも金塊だけみせて納得していたかは不明なので、本当に役に立たなかったかは今となっては分からないが。
「お金を渡して命乞いとは……ちょっとカッコ悪いですが、中々機転が利きますね。いえ、全額なら中々カッコいいかもしれませんよー」
言いつつ顔を赤らめでもしたら慰めになるんだろうけど、完璧な微笑みの前に俺の心は砕けそう。
実際、歩がいなかったら終わってただろうということも、理解している。俺の魔法だけでは陽動は出来ても打開はできなかったはずだ。
思っていると、莉緒が俺の顔を覗き込んでくる。
「いいよ、足りなかったら私出してあげるから。それより欲しいもんは?」
暴力的なくせに、こういう優しいとこが惹かれる。近くで見ても俺の好みドストライクなところは変わらないし。
ずっと見つめてしまいそうになるのを、俺の鋼の心で押さえつけ考える。
貰った金の価値も、物の価値も分からない。
俺はしばし考えて、腰に付けるカバンのようなもの、兵士から奪い取った剣の鞘、飲食物少々を頼むことにした。
何が必要になるか分からんし、何を売ってるかも分からんから、旅的に足りなさすぎる気はしたが、借りる立場だし遠慮してしまう。
「あーそうだ、あの不思議なコイン――金の価値を調べて教えてくんね? あと、南ってどう進めばいいんだろ。街道を通ればいいのか、地図でもいるのか……」
街はぐるりと外壁で囲まれているようで、ここからでは外の様子は拝めない。
けれど、昨日王城からみた景色では、薄闇の中森やら山やら街道のように伸びる道なんかが見えていた。
「うん! それも調べて教えたげるね。じゃ、怜奈、いこっか?」
「それではしばしお時間頂くのですよー。なるべく、隠れて人に見つからないようお願いするのですよ。もし姿が見えなかったら魔法を使っちゃいますので」
そう言いながら背中を向けて歩いていった二人に一瞬目を向けた時、ガサリと建物の陰から音が聞こえた。
それには歩も気付いたようで、目を合わせてから確認してみたが、特に異常は見当たらない。
「何だろうね?」
「ん、うーん……。誰かに見られてた……? と、したらやべーな。早めに東門に行っちまうか」
俺達の監視やら援軍であるなら、もうとっくに何か起きててもおかしくはない。そうなると、そうではないという事。
心の中にもやっとした気持ちが生まれたが、なるべく気にしないようにして、俺達は方位を確認しながら東門を目指していく。
「いやぁ、しかし、まじでびびったよな? 俺、目開けたら身体浮いてたもん」
街は本当にヨーロッパのような石造りっぽい建物が建ち並んでいる。
歩く人々も風変りな服装を着ているが、俺達と特に変わりはない。
髪色や瞳の色、顔つきなんかは地球と大して変わらず、変な色をした人は……と見回すとちらほら見かけることが出来るようだ。
と言っても、赤髪、オレンジ髪といった程度。アニメみたいな蛍光色の青髪とか瞳とか、獣人とかいなくてちょっぴり残念だとも感じる。
「僕、ベッドから転げ落ちる夢見ちゃったよ。何であんなにぐっすり……、もしかして……睡眠薬でも盛られてた?」
その考えは考えてないわけじゃなかった。昨夜の眠さはある意味異常といえるもの。飯食ってすぐだったという事もそれを裏付けるのかもしれない。
けれど、そうすると一つ納得のいかないことがある。
「かもしれん。かもしれんが、そうすると何で朝まで行動を起こさなかったんだ……? 寝るのが分かってるなら、俺ならすぐ殺しに行くぞ」
勿論口で言うだけではあるが、その立場ならそうするべきだと俺は考えていた。
其れよりも口にして、この世界で生きるなら人を殺すという覚悟が必要になるのだろうかと考え、背筋にゾクリと感じた。
「確かにそうだね。昨夜は会長たちが僕らの部屋に来ていたって言ってたじゃん? それでとかは……?」
「あーうん。そうかぁ。言われてみれば……」
俺は歩きながら腕を組み考える。
結局何一つ俺にはよく分からない。小説を読んでいれば、また違った予測を立てることが出来るのだろうか。
ゲームや漫画は深い意味もなく唐突にご都合主義が起きる、
整合性取れよ!と、たまに叫びたくなるが、そうすると話がつまらなくなる。寝静まった深夜に、暗殺するように殺されていたらもう俺たちはここにはいない。
ここは小説の世界ではないらしいが、小説の世界に似たような雰囲気らしい。ならば、意味を追い求めても仕方がないのだろう。
ということは、下手したら死んでいたということ。考えると心は冷たく感じたが、身体が温かみを保っていることに安堵し胸をなでおろした。
深い溜息をはきながら何の気なしに円環を作り、
「あ! 見ろよ、ほら! 俺、レベルが2も上がってる!」
ステータスを開いてみるとレベルが上がっていた。ちょっと、テンション回復したのを感じる。
ただ、表示される魔力量も変化しておらず、変わったのは『3』という数字が『5』になっただけ。
当然ユニーク魔法も変化しておらず、俺の体にみなぎる様な力も湧いてきてはいない。
「本当だ……、って僕も1上がってるよ! 何もしてないのに。レベルアップした感覚ってないんだ……」
確かにいつ上がったのかもよく分からない。
ゲームなら『たらららったったー』みたいなファンファーレがどこからともなく聞こえてくるが俺の耳には何も届いていない。
歩も俺と同じようにレベルの数字が変わっただけだ。
「別に兵士を倒したってわけじゃないのにな? ま、赤ちゃんに毛の生えた程度の俺達が、あそこまでやれたらレベルを上げるしかない、という神の思し召しってやつか?」
そう考え、俺は内心で三百九十円のお賽銭を捧げた。金は持ってないが気持ちが大事だと思いながら。
「どうかなー。とりあえず、モンスターを倒すだけがレベルアップの手段じゃないってことは分かったよ」
「んー、つか、モンスターって何よ? モンスターって英語だと怪物って意味だけど、本当にそんなのいるわけ?」
RPGだとモンスターがいるのは当然だ。それは分かる。ここは小説のような世界。それも理解している。
でも、結局モンスターって何?を説明できる人はいるのだろうか。いや、いないだろう。
理屈をこねてモンスターというものを作り上げることは出来る。けれど、それはあくまで空想の産物でしかない。
なぜなら地球にモンスターはいないからだ。いないものを説明するのは不可能、ま、それは魔法も然りだがな。
けれど、歩は当然のように答えてくる。
「え? 何言ってんの? そんなのいるに決まってんじゃん! だって、魔法があるんだよ?」
俺もさっき殺されかかってなかったら、もうちょっとテンション髙く反応出来たかもしれんけど今は無理だった。
今は精神が落ち着いてしまい、心が沸き立つような感覚がない。
けれど、確かにあの時戦闘が精神に高揚を与えていたというのも事実。
兵士を蹴り飛ばし、そして倒れゆくのを見て、俺は心の底からガッツポーズをかましたかったのもまた事実。
「ま、いると思っとくよ。けど、そうだとしたら危険じゃね? 俺達、鎧でもなんでもないけど……、大丈夫なんかな」
「ん~、そうだね。でも、僕が鎧なんか着て動けるとは思えないし、それにこの服意外と頑丈な気がするよ」
言われてみればと思い、肘までしかない袖の生地をつまんでみる。
何で出来ているのかは知らないが、割と厚手なのに動きも阻害しないし、頑丈そうな気もする。
どのようなプロセスで服がこうなったのかは分からないが、勇者として召喚したんだから、悪いモノを着させるわけはないはずだ。
と、思っていると見えてくる大きな赤銅色の門。
それをなるべくひっそりとくぐり抜け、俺達は街の外で待機することにした。
1
あなたにおすすめの小説
神に逆らった人間が生きていける訳ないだろう?大地も空気も神の意のままだぞ?<聖女は神の愛し子>
ラララキヲ
ファンタジー
フライアルド聖国は『聖女に護られた国』だ。『神が自分の愛し子の為に作った』のがこの国がある大地(島)である為に、聖女は王族よりも大切に扱われてきた。
それに不満を持ったのが当然『王侯貴族』だった。
彼らは遂に神に盾突き「人の尊厳を守る為に!」と神の信者たちを追い出そうとした。去らねば罪人として捕まえると言って。
そしてフライアルド聖国の歴史は動く。
『神の作り出した世界』で馬鹿な人間は現実を知る……
神「プンスコ(`3´)」
!!注!! この話に出てくる“神”は実態の無い超常的な存在です。万能神、創造神の部類です。刃物で刺したら死ぬ様な“自称神”ではありません。人間が神を名乗ってる様な謎の宗教の話ではありませんし、そんな口先だけの神(笑)を容認するものでもありませんので誤解無きよう宜しくお願いします。!!注!!
◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。
◇ご都合展開。矛盾もあるかも。
◇ちょっと【恋愛】もあるよ!
◇なろうにも上げてます。
異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?
来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。
そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった!
亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。
「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」
「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」
おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。
現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。
お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、
美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界で貧乏神を守護神に選ぶのは間違っているのだろうか?
石のやっさん
ファンタジー
異世界への転移、僕にはもう祝福を受けた女神様が居ます!
主人公の黒木翼はクラスでは浮いた存在だった。
黒木はある理由から人との関りを最小限に押さえ生活していた。
そんなある日の事、クラス全員が異世界召喚に巻き込まれる。
全員が女神からジョブやチートを貰うなか、黒木はあえて断り、何も貰わずに異世界に行く事にした。
その理由は、彼にはもう『貧乏神』の守護神が居たからだ。
この物語は、貧乏神に恋する少年と少年を愛する貧乏神が異世界で暮す物語。
貧乏神の解釈が独自解釈ですので、その辺りはお許し下さい。
英雄将軍の隠し子は、軍学校で『普通』に暮らしたい。~でも前世の戦術知識がチートすぎて、気付けば帝国の影の支配者になっていました~
ヒミヤデリュージョン
ファンタジー
帝国の辺境で、ただ静かに生き延びたいと願う少年、ヴァン。
彼に正義感はない。あるのは、前世の記憶と、母が遺した『物理法則を応用した高圧魔力』という危険な理論だけだ。
敵の大軍が迫る中、ヴァンは剣も振るわず、補給線と心理を切り裂く。
結果、敵軍は撤退。代償も、喝采も、彼には無意味だった。
だが、その「効率的すぎる勝利」は帝国の目に留まり、彼は最高峰の『帝国軍事学院』へと引きずり出される。
「英雄になりたいわけじゃない。生き残りたいだけだ」
謎の仮面メイド『シンカク』、命を取引に差し出した狼耳の少女『アイリ』。
少年は選択する。正義ではなく、最も費用対効果の高い道を。
これは、合理が英雄譚を侵食していく、学園ミリタリーファンタジー。
【※作者は日本語を勉強中の外国人です。翻訳ソフトと辞書を駆使して執筆しています。至らない点もあるかと思いますが、物語を楽しんでいただければ幸いです。】
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
無能なので辞めさせていただきます!
サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。
マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。
えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって?
残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、
無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって?
はいはいわかりました。
辞めますよ。
退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。
自分無能なんで、なんにもわかりませんから。
カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる