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或る男の渇望 7
しおりを挟む朝の訪れを告げる小鳥の囀りが、摺り硝子の窓越しに差し込む柔らかな光とともに幸助の部屋を満たしていた。昨夜の熱気を残す空気も、今はゆっくりと冷まされて、清らかな朝の気配が漂っている。
「……ん」
もぞ、と小さく身じろいだ一葉は、背中に回された逞しい腕にぐっと引き寄せられた。大きな体に包み込まれ、その胸に頬を寄せると、温かな体温と優しい匂いが一葉を包み込む。まるで、世界のすべてから守られているように心地良い。
薄く瞼を開けば、目の前にあるのは、少し寝不足の影を瞳の下に刻みながらも穏やかに眠る幸助の顔だった。
「……こう、すけ……」
起こさぬように、ごく小さな声で愛しい名を呼ぶ。唇が震え、胸がじんわりと熱で満ちる。一葉は静かに微笑み、幸助の頬にそっと手を添えた。普段は見ることがない無精ひげを蓄えた輪郭も、荒々しさの中に優しさを残す眉も、すべてが愛おしくてたまらない。
一葉は、眠る幸助の顔を見つめた。
唇が無意識に弧を描き、胸の奥から溢れるものを抑えきれず、小さく開いた唇にそっと口付けを落とす。
「……幸助……愛してるよ」
掠れるほどの小さな声。それでも、その想いは確かに幸助に届いている気がした。
幸助の腕の力が少し強まり、一葉をさらに抱き寄せる。眠りの中でも、彼は一葉を離さない。
まだ、起きるには早い時間。小鳥の囀りと幸助の寝息だけが、静かな部屋に響いていた。
一葉はその腕に抱かれたまま、幸助の愛に身を委ねるように再び瞼を閉じる。
***
昨夜、幾度も交わした言葉と熱は、未だ二人の身体に余韻を残している。
幸助は抑えきれない感情と欲望を一葉にぶつける。一葉がいなければ生きていくことさえできない。一葉がいなければ、幸福など望めない。幸助は気付いていないかもしれない。一葉にとってもまた、幸助なくしては生きられないのだということを。
溢れる情熱や欲望をぶつけるのは幸助の愛。
その荒々しいまでの愛を、包み込み、受け入れるのが一葉の愛。
互いの在り方は違えど、根底にあるものは同じ。
愛し合うために出会ったとしか思えない、必然のような絆。
誰がいようと、誰もいなかろうと関係ない。互いさえいれば、それでいい。
愛も、信頼も、絆も、焦燥も、渇望さえも――二人にとってはかけがえのない宝物。
永遠にそうであると信じ、願う。
目に見えない、形のないものだからこそ、大切にしたい。
求め合うことで満たされる。満たされた後から、渇望して求め合う。互いで互いを埋めるように求め、与え合う。
その繰り返しすら、二人にとっては幸せで。
与えられた時間を惜しむことなく互いに費やす。
許される限り、求め合い、与え合う。
――最高の幸福――
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