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かくしてダンジョンは彼女の城となる[中編]
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彼女が僕の腹違いの姉だと知ったのは、母が亡くなって父の家に引き取られた日だった。
父に連れられ、お屋敷と呼んでもいいであろう大きな家に入ると、そこにあの時の彼女が「姉」として紹介されて本当に驚いた。
彼女は真っ白のワンピースを着ていた。恐ろしいほどによく似合っていた。
父は気まずそうにして目を合わせなかったし、今日から義母になる人はどんな顔をしていいかわからないようだった。
彼女だけが、姉だけが、笑っていた。
「うれしい。ずっと、弟が欲しかったの」
そう言って僕を抱きしめた。優しく髪を撫でられる。小指が僕の耳を掠めた。あの日、結婚を誓った指が。
彼女は僕を自分の部屋に連れて行くと宣言した。二人ともそれに逆らわなかった。何故か二人とも彼女を恐れているようだった。自分の子だろうに。
彼女の部屋はお屋敷の一番上の階にあって、とても広かった。
「これからはずっと一緒にいられるわね」
彼女は嬉しそうに言った。僕はなにを言おうか考えて考えて、それから「知ってたの?」とだけ聞いた。
君は、僕と姉弟だって、父を同じくする人間だって、知ってたのか?
「あの日、かわいい弟を見に行ったの」
それはこれ以上なく明確な『知っている』だった。
「こんなにかわいいなんて思わなかった」
彼女の手が優しく僕の頬を撫でる。
結婚したいと思った人が姉だった。これは絶望すべき場面だろうか。頭ではそう思っても、上手くショックを受けることができなかった。
だってこの、天から降ってきたような手に通う血と僕に流れる血に同じものが混じってるなんて、こんなに嬉しいことがあるだろうか。
弟とは結婚できない、と思われていたら、あれはただの弟を可愛がるための言葉だったなら、それは、とても寂しいが……
「結婚したいくらい、かわいいだなんてね」
その言葉に希望を感じて、思わず手に擦り寄ってしまう。
「まだ、僕と結婚したいって思ってる?」
「あなたは違うの?」
「ちがわない」
ふふ、と彼女が笑って僕から手を離してしまう。途端に寂しくて仕方なくなる。
僕は今までどうしてこの人と離れて生きていられたんだろう。前に会ってからも今日までずっと会いたかった。
母が死んだことは悲しかったが、彼女に一瞬手を離されただけでそれ以上に悲しい。僕はどこかおかしいのだろうか?
彼女はふわりとベッドの上に立つ。はしたないはずの行為も、彼女がすれば神の戯れと等しい。
「私、白と黒がとっても似合うの。だからみんなこんな服ばかり着せようとする。私はあんまり好きじゃないけれど……こうして見ると、ウェディングドレスみたいね」
ならよかったかも、とほんの少しの諦めを含めた横顔をして言う。僕は彼女になにひとつ諦めてほしくない。
「ねえさん」
僕はほとんど跪くような格好で焦がれるように彼女を見上げながら言った。
「結婚式には、姉さんが好きな服を着てほしい」
彼女はぴょんと跳ねて僕に飛びついてきた。
「だいすき」
頬にされたキスの嬉しさを今でもよく覚えている。
***
ダンジョン内では魔物が溢れていると聞いていたので、僕も一応剣は持って来たのだが(姉さんに強化魔法をかけてもらったので多分未来では聖剣とか呼ばれる)姉の魔法で全て倒せてしまうため、僕の仕事は姉の服に塵がつくたびに払うだけだ。
ダンジョンは外からはせいぜい姉の生家程度の広さにしか見えないが、中に入ると無限とも思われるほど広がっていて、正確な地図すらまだ生まれていない。
ダンジョンには必ずどこかに『核』が存在しているらしい。それが無ければダンジョンは徐々に崩壊してゆく。
ダンジョンを嫌うこの国の王は核を見つけ出し王に捧げる者の願いはなんでも聞くと約束している。
姉はその核を手に入れ、僕と結婚するという目標を叶えるつもりだ。この国では異母姉弟であっても結婚は許されていないから。
「王は結婚も許してくれるのかな」
「許してくれなければ国外に行けばいいだけよ。魔法使いが国外に出るのは色々と許可が必要だけど、王のサインがあればそれで済むはず」
「魔法使いはなんで気軽に国外旅行もできないの?」
「財産を他所にやりたくないという理由がひとつ。あとは、そうね、魔法使いはそもそも兵器と同じなの。国から国を気軽に渡られたら、宣戦布告と捉えられてもおかしくはないでしょう?」
ふふ、と笑う姉は綺麗だったけど、どこか寂しそうだった。僕が隣にいても寂しい? 僕はなんて不甲斐ない弟だろう。愛する姉ひとり満たしてやれないなんて。
「僕もあなたにとってのそういう存在になりたい」
僕の告白に、ゆるりと目を細めた姉は僕の手を優しく握った。
「とっくにそう」
父に連れられ、お屋敷と呼んでもいいであろう大きな家に入ると、そこにあの時の彼女が「姉」として紹介されて本当に驚いた。
彼女は真っ白のワンピースを着ていた。恐ろしいほどによく似合っていた。
父は気まずそうにして目を合わせなかったし、今日から義母になる人はどんな顔をしていいかわからないようだった。
彼女だけが、姉だけが、笑っていた。
「うれしい。ずっと、弟が欲しかったの」
そう言って僕を抱きしめた。優しく髪を撫でられる。小指が僕の耳を掠めた。あの日、結婚を誓った指が。
彼女は僕を自分の部屋に連れて行くと宣言した。二人ともそれに逆らわなかった。何故か二人とも彼女を恐れているようだった。自分の子だろうに。
彼女の部屋はお屋敷の一番上の階にあって、とても広かった。
「これからはずっと一緒にいられるわね」
彼女は嬉しそうに言った。僕はなにを言おうか考えて考えて、それから「知ってたの?」とだけ聞いた。
君は、僕と姉弟だって、父を同じくする人間だって、知ってたのか?
「あの日、かわいい弟を見に行ったの」
それはこれ以上なく明確な『知っている』だった。
「こんなにかわいいなんて思わなかった」
彼女の手が優しく僕の頬を撫でる。
結婚したいと思った人が姉だった。これは絶望すべき場面だろうか。頭ではそう思っても、上手くショックを受けることができなかった。
だってこの、天から降ってきたような手に通う血と僕に流れる血に同じものが混じってるなんて、こんなに嬉しいことがあるだろうか。
弟とは結婚できない、と思われていたら、あれはただの弟を可愛がるための言葉だったなら、それは、とても寂しいが……
「結婚したいくらい、かわいいだなんてね」
その言葉に希望を感じて、思わず手に擦り寄ってしまう。
「まだ、僕と結婚したいって思ってる?」
「あなたは違うの?」
「ちがわない」
ふふ、と彼女が笑って僕から手を離してしまう。途端に寂しくて仕方なくなる。
僕は今までどうしてこの人と離れて生きていられたんだろう。前に会ってからも今日までずっと会いたかった。
母が死んだことは悲しかったが、彼女に一瞬手を離されただけでそれ以上に悲しい。僕はどこかおかしいのだろうか?
彼女はふわりとベッドの上に立つ。はしたないはずの行為も、彼女がすれば神の戯れと等しい。
「私、白と黒がとっても似合うの。だからみんなこんな服ばかり着せようとする。私はあんまり好きじゃないけれど……こうして見ると、ウェディングドレスみたいね」
ならよかったかも、とほんの少しの諦めを含めた横顔をして言う。僕は彼女になにひとつ諦めてほしくない。
「ねえさん」
僕はほとんど跪くような格好で焦がれるように彼女を見上げながら言った。
「結婚式には、姉さんが好きな服を着てほしい」
彼女はぴょんと跳ねて僕に飛びついてきた。
「だいすき」
頬にされたキスの嬉しさを今でもよく覚えている。
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ダンジョン内では魔物が溢れていると聞いていたので、僕も一応剣は持って来たのだが(姉さんに強化魔法をかけてもらったので多分未来では聖剣とか呼ばれる)姉の魔法で全て倒せてしまうため、僕の仕事は姉の服に塵がつくたびに払うだけだ。
ダンジョンは外からはせいぜい姉の生家程度の広さにしか見えないが、中に入ると無限とも思われるほど広がっていて、正確な地図すらまだ生まれていない。
ダンジョンには必ずどこかに『核』が存在しているらしい。それが無ければダンジョンは徐々に崩壊してゆく。
ダンジョンを嫌うこの国の王は核を見つけ出し王に捧げる者の願いはなんでも聞くと約束している。
姉はその核を手に入れ、僕と結婚するという目標を叶えるつもりだ。この国では異母姉弟であっても結婚は許されていないから。
「王は結婚も許してくれるのかな」
「許してくれなければ国外に行けばいいだけよ。魔法使いが国外に出るのは色々と許可が必要だけど、王のサインがあればそれで済むはず」
「魔法使いはなんで気軽に国外旅行もできないの?」
「財産を他所にやりたくないという理由がひとつ。あとは、そうね、魔法使いはそもそも兵器と同じなの。国から国を気軽に渡られたら、宣戦布告と捉えられてもおかしくはないでしょう?」
ふふ、と笑う姉は綺麗だったけど、どこか寂しそうだった。僕が隣にいても寂しい? 僕はなんて不甲斐ない弟だろう。愛する姉ひとり満たしてやれないなんて。
「僕もあなたにとってのそういう存在になりたい」
僕の告白に、ゆるりと目を細めた姉は僕の手を優しく握った。
「とっくにそう」
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