男爵家の娘の私が気弱な王子の後宮に呼ばれるなんて何事ですか!?

蒼キるり

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6.こういうことは度胸です

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「……では、こうすればいいです」


 しばらくしてミアは唐突にそう言った。それから自分の服の胸元を探り始める。


「ようするに血がついていれば良いのでしょう。後宮に上がる女は純潔であることが条件ですから。それが破れた証としての血があれば納得してもらえるはずです」

「そ、それは、まあ、そうだが……」

「では良い案があります。但し、私はこれを持ち込むことは許可されていないので、他言無用でお願い致します」


 皇子が何を言っているのか分からないという風に唖然としている間にミアは短剣を取り出した。
 小さく声を上げて怯える皇子を放置してミアは自分の指に刃先を当てた。

 目に毒々しいほどの深紅の血が滲み出て流れてゆく。
 それが床に着く前にミアは寝台へ近づき、皇子からなるべく距離を取ったままシーツを汚した。
 ぽつぽつと滲む血の色は正しく行為を終えた後を彷彿とされる。
 これで良いでしょう、とミアが自分の指を抑えて血を止めている間に皇子が激しい声を上げた。


「なにをしてるんだ!」


 寝台が軋む音を立てたかと思うと勢いよく皇子はミアの元まで距離を詰めた。
 僅か数歩しか離れていなくても皇子にとっては精神的にひどく遠かっただろうに、とミアは呆気に取られていた。


「何を、と言われましても。これが一番最適だと思ったので」


 この人は何をこんなに狼狽えているのだろう。自分が怪我をしたわけでもないのに。
 そうミアが内心混乱している間も、皇子は触れていいのかすら分からないという風に傷のついたミアの指の近くの宙で手を動かしている。
 その顔はまるで痛くて堪らないという風に悲痛に満ちていた。


「でも、こんなことしたら痛いじゃないか」


 その言葉にミアは不躾だと思いつつも、皇子の顔をまじまじと見つめてしまっていた。


(王になるには到底向いていない弱気な皇子だと思っていたけれど、案外そうでもないのか)


 向いているかはともかくとして、この人はきっと優しい人ではあるのだろう。そう思い、ミアは自然と頬を緩めていた。


「大丈夫です。大して痛くもありませんし、この程度の傷ならすぐに治ります」

「……でも、痛いのはよくないことだ。血も、こんなに出ているし、それに」


 もごもごと聞き取りにくいことを言いながら、眉を下げて心配そうな顔をする皇子を他所にミアは素早く治療を終える。短剣を懐に戻すことも忘れない。
 明日誰かにその指はどうしたのかと問われたら紙で切ったということにしようと決めて、ミアは皇子から再度距離を取った。
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