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10.後悔は先に立たない

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 後宮に越して来てしばらくが経ったが、ミアはまだ慣れてはいなかった。
 女達ばかりがいる空間だからというのも理由の一つだが、何より皆時間を持ち余しているのだ。
 国王陛下の後宮のように今夜来るかという希望を持っている女達は自分磨きに勤しむからまだ良い。
 皇子の後宮では諦めかけている者が殆どらしく、それ故に唯一皇子が足繁く通っているミアを敵対視している。
 あんな娘の所に行くのだから私の所にも来るはずだと燃えるものは放って置けばいいが憎しみを持って接してくるのは流石のミアも辟易としていた。
 最も互いに関わる機会はないから避けようと思えば避けられるのだが。

 誰かが訪ねて来るのも文を届けて来るのもどちらも厄介だなと思い、ミアは庭に足を運んでいた。
 しかし天気の良い日だからか、考えることは皆同じようで、幾人かの女達が庭先で花々を眺めていた。ミアは顔を顰めつつ、半ば逃げるように廊下に戻った。
 何処へ行こうという当てもなくふらふらと後宮を彷徨っていると、城の近くまでやってきてしまった。
 後宮の女が城に勝手に入ることは禁じられているが、この辺りならば叱られることはない。最も城から見える位置ではあるので歓迎もされないのだが。
 自分から呼び寄せておいた女を邪魔者扱いするなんて一体何様だろうかとミアは不服そうに首を傾げた。


(殿下は今頃公務だろうか)


 ミアはふとそんなことを考えていた。皇子が今何をしているかなんて関係の無いことなのに、と思わず呟いてしまうほどにミアはひどく驚いていた。
 この間、皇子にきちんとした相手が出来ることを想像したあの時から、自分はどこかおかしいとミアは眉を寄せながら首を振った。
 調子でも悪いのかもしれないから部屋に戻ろうと踵を返そうとした、その時だった。

 後宮から微かに目視することが出来る渡り廊下に皇子らしき人影を見つけたのだ。ミアは思わず目を見開いて本当に本人かと目を凝らしてしまった。
 皇子だけならばこんな風に確認することもない。だけどそこにいたのは皇子だけではなかったのだ。
 皇子の隣には一人の女がいた。とても親しそうに皇子の近くにいて、皇子はミアの見間違いでなければ笑ったり話したりとひどく楽しそうで忙しない様子だった。
 時折困ったような表情を浮かべているようにも見えたけど、それさえ仲の良い戯れの範疇に見えた。
 そんなまさしく恋仲と称して良いであろう二人をミアは呆然と見つめ、ふと我に帰ったようにその場を去った。
 きつく唇を噛み締め、決して城を振り返ることはなかった。
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