8 / 10
8.風邪をひいた幼馴染
しおりを挟む
俺の目の前にいる亜子は珍しいことに大人しくベッドに横たわっている。
いつもなら褒めただろう。よくベッドで寝たなって。ようやく俺の言うことを聞いてくれたんだなって。
まあこの状況では一ミリも褒めるわけにはいかないのだけど。
「だから言ったんだよ」
今回ばかりはと顔を顰め腕を組んで懇々と説教する俺を見て、亜子がびくりと肩を震わせた。
一瞬可哀想かと思ったものの、ここは心を鬼にするべきだと気を引き締める。
「俺、何回も言ったよな。風邪引くって。ちゃんとベッドで寝ろって」
そう、何度も何度も言い聞かせたにも関わらず亜子は断固としてベッドで眠らず、そして今日とうとう熱を出したのだ。
朝訪ねてきたら真っ赤な顔をして唸っている幼馴染を発見した俺の心臓の悪さも考えてもらいたい。危うく救急車を呼ぶところだった。
まあ熱はそんなに高くないし、今日明日は休みなので悪化しない限り家で休んでれば治るだろう。
亜子の看病のためにバイトは平謝りして休ませてもらった。バイト先には申し訳ないが仕方ない。
「ううう~、涼太がづめだい!」
喉を痛めているらしい亜子がぎゃんぎゃんと騒ぎ始めた。
「私だって!風邪引きたくて!引いたわけじゃ!ないもん!」
「あー、わかった、わかったから。悪かった」
甘いと言われても仕方ないが、いとも簡単に謝ってしまった。自分の決意の弱さに呆れる以上に少々心配になるくらいだ。
はあ、と溜め息を吐きながらいつまでも怒っているわけにもいかないので、優しい声を意識して尋ねる。
「食欲はあるか?昼、なに食べたい?」
「あったかいもの」
「おーおー、いつも通りな」
毛布を被ってきらりと目を輝かせる亜子に一安心する。食欲があるなら大丈夫だろう。悪化するようなら病院に担ぎ込めばいい。
「作って来るからちゃんと寝てろよ」
毛布を亜子の肩までかけてやりながら、しっかりと言いつけてから部屋を出る。
あまり長い間一人にしておくのは不安なので手早く作ることにした。
小鍋を取り出して炊いてある米を適量入れる。水で膨らむので気持ち控えめに。
そこに水を入れてぐつぐつと煮込む。煮立ったところで料理酒を入れて塩で味を整える。
最後に溶いた卵を流し入れて手早く混ぜれば卵粥の完成だ。
「亜子、出来たぞ」
いそいそと二人分の卵粥を持って部屋に戻ると、うつらうつらしていたらしい亜子が体を起こして緩慢に首を傾げた。
「涼太もここで食べるの?」
「ん、だって亜子一人じゃ寂しいだろ」
うん、といつもより幾分素直に亜子が頷く。
普段と変わらず元気な俺が卵粥だけでは後でお腹が空くだろうけど、まあ後で何か摘めばいい。
いつもなら褒めただろう。よくベッドで寝たなって。ようやく俺の言うことを聞いてくれたんだなって。
まあこの状況では一ミリも褒めるわけにはいかないのだけど。
「だから言ったんだよ」
今回ばかりはと顔を顰め腕を組んで懇々と説教する俺を見て、亜子がびくりと肩を震わせた。
一瞬可哀想かと思ったものの、ここは心を鬼にするべきだと気を引き締める。
「俺、何回も言ったよな。風邪引くって。ちゃんとベッドで寝ろって」
そう、何度も何度も言い聞かせたにも関わらず亜子は断固としてベッドで眠らず、そして今日とうとう熱を出したのだ。
朝訪ねてきたら真っ赤な顔をして唸っている幼馴染を発見した俺の心臓の悪さも考えてもらいたい。危うく救急車を呼ぶところだった。
まあ熱はそんなに高くないし、今日明日は休みなので悪化しない限り家で休んでれば治るだろう。
亜子の看病のためにバイトは平謝りして休ませてもらった。バイト先には申し訳ないが仕方ない。
「ううう~、涼太がづめだい!」
喉を痛めているらしい亜子がぎゃんぎゃんと騒ぎ始めた。
「私だって!風邪引きたくて!引いたわけじゃ!ないもん!」
「あー、わかった、わかったから。悪かった」
甘いと言われても仕方ないが、いとも簡単に謝ってしまった。自分の決意の弱さに呆れる以上に少々心配になるくらいだ。
はあ、と溜め息を吐きながらいつまでも怒っているわけにもいかないので、優しい声を意識して尋ねる。
「食欲はあるか?昼、なに食べたい?」
「あったかいもの」
「おーおー、いつも通りな」
毛布を被ってきらりと目を輝かせる亜子に一安心する。食欲があるなら大丈夫だろう。悪化するようなら病院に担ぎ込めばいい。
「作って来るからちゃんと寝てろよ」
毛布を亜子の肩までかけてやりながら、しっかりと言いつけてから部屋を出る。
あまり長い間一人にしておくのは不安なので手早く作ることにした。
小鍋を取り出して炊いてある米を適量入れる。水で膨らむので気持ち控えめに。
そこに水を入れてぐつぐつと煮込む。煮立ったところで料理酒を入れて塩で味を整える。
最後に溶いた卵を流し入れて手早く混ぜれば卵粥の完成だ。
「亜子、出来たぞ」
いそいそと二人分の卵粥を持って部屋に戻ると、うつらうつらしていたらしい亜子が体を起こして緩慢に首を傾げた。
「涼太もここで食べるの?」
「ん、だって亜子一人じゃ寂しいだろ」
うん、といつもより幾分素直に亜子が頷く。
普段と変わらず元気な俺が卵粥だけでは後でお腹が空くだろうけど、まあ後で何か摘めばいい。
0
あなたにおすすめの小説
大好きな幼なじみが超イケメンの彼女になったので諦めたって話
家紋武範
青春
大好きな幼なじみの奈都(なつ)。
高校に入ったら告白してラブラブカップルになる予定だったのに、超イケメンのサッカー部の柊斗(シュート)の彼女になっちまった。
全く勝ち目がないこの恋。
潔く諦めることにした。
幼馴染が家出したので、僕と同居生活することになったのだが。
四乃森ゆいな
青春
とある事情で一人暮らしをしている僕──和泉湊はある日、幼馴染でクラスメイト、更には『女神様』と崇められている美少女、真城美桜を拾うことに……?
どうやら何か事情があるらしく、頑なに喋ろうとしない美桜。普段は無愛想で、人との距離感が異常に遠い彼女だが、何故か僕にだけは世話焼きになり……挙句には、
「私と同棲してください!」
「要求が増えてますよ!」
意味のわからない同棲宣言をされてしまう。
とりあえず同居するという形で、居候することになった美桜は、家事から僕の宿題を見たりと、高校生らしい生活をしていくこととなる。
中学生の頃から疎遠気味だったために、空いていた互いの時間が徐々に埋まっていき、お互いに知らない自分を曝け出していく中──女神様は何でもない『日常』を、僕の隣で歩んでいく。
無愛想だけど僕にだけ本性をみせる女神様 × ワケあり陰キャぼっちの幼馴染が送る、半同棲な同居生活ラブコメ。
かつて僕を振った幼馴染に、お月見をしながら「月が綺麗ですね」と言われた件。それって告白?
久野真一
青春
2021年5月26日。「スーパームーン」と呼ばれる、満月としては1年で最も地球に近づく日。
同時に皆既月食が重なった稀有な日でもある。
社会人一年目の僕、荒木遊真(あらきゆうま)は、
実家のマンションの屋上で物思いにふけっていた。
それもそのはず。かつて、僕を振った、一生の親友を、お月見に誘ってみたのだ。
「せっかくの夜だし、マンションの屋上で、思い出話でもしない?」って。
僕を振った一生の親友の名前は、矢崎久遠(やざきくおん)。
亡くなった彼女のお母さんが、つけた大切な名前。
あの時の告白は応えてもらえなかったけど、今なら、あるいは。
そんな思いを抱えつつ、久遠と共に、かつての僕らについて語りあうことに。
そして、皆既月食の中で、僕は彼女から言われた。「月が綺麗だね」と。
夏目漱石が、I love youの和訳として「月が綺麗ですね」と言ったという逸話は有名だ。
とにかく、月が見えないその中で彼女は僕にそう言ったのだった。
これは、家族愛が強すぎて、恋愛を諦めざるを得なかった、「一生の親友」な久遠。
そして、彼女と一緒に生きてきた僕の一夜の物語。
幼馴染に告白したら、交際契約書にサインを求められた件。クーリングオフは可能らしいけど、そんなつもりはない。
久野真一
青春
羽多野幸久(はたのゆきひさ)は成績そこそこだけど、運動などそれ以外全般が優秀な高校二年生。
そんな彼が最近考えるのは想い人の、湯川雅(ゆかわみやび)。異常な頭の良さで「博士」のあだ名で呼ばれる才媛。
彼はある日、勇気を出して雅に告白したのだが―
「交際してくれるなら、この契約書にサインして欲しいの」とずれた返事がかえってきたのだった。
幸久は呆れつつも契約書を読むのだが、そこに書かれていたのは予想と少し違った、想いの籠もった、
ある意味ラブレターのような代物で―
彼女を想い続けた男の子と頭がいいけどどこかずれた思考を持つ彼女の、ちょっと変な、でもほっとする恋模様をお届けします。
全三話構成です。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる