世間が何を言おうとも、私たちは夫婦です。

蒼キるり

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セックスをしない夫婦

7話

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 合コン、というのは明らかに私に向いている場所ではないだろうとは見当がついていた。
 だから、それまで一度も足を運んだことはなかった。
 そもそも恋人を作りたくなかった私がそこに向かうのもおかしな話だろうと思っていたから、ずっと誘われても断ってきたのだ。


「お願い、今回だけ!」


 人数がどうしても足りないから、と友人に頼み込まれた。
 無理だと断ったものの、いるだけでいいからと押し切られてしまったのだ。
 どうしてこんなことに、と思いながら大人数が集まる合コンという場に向かった。
 後から思えば、あの時行って良かったと思うのだから、人生って不思議なものだ。
 だってそこには正樹がいたのだから。

 私の向かい側の席に座る正樹は私と同じように、どこか所在無さげだった。
 たどたどしい自己紹介を終え、後は食べることに集中して場を終わりにしようと思ったのに、不思議なほど目の前にいる人が気になった。
 恋だろうと言われれば、否定は出来ない。
 でも、それだけではなかった。正樹からは同族の匂いがしていたのだ。

 正樹は私と全く同じ人間だった。
 同じ、というと語弊があるだろうか。正樹は誰か分かり合える恋人を求めてそこに来ていたのだから。
 それでも私と正樹は同じだった。


「いきなり距離を詰めたりとか、そういうのが苦手なんだ」


 初対面だというのに、どうしてだろう。似た空気を感じたからだろうか。私たちはいとも自然に話が出来ていた。周りの友人が驚くほどに。


「ゆっくり、ゆっくり分かり合えていけたらいいなって思ってるんだけど」


 上手くいかないんだ、と苦笑いする正樹の気持ちが痛いほど分かった。
 ざわめく店内に紛れるようなか細い声に重ねるように私は何度も何度も頷いた。


「私も」


 そう短く答えることしか出来なかった。
 それ以上口を開いたら、泣いてしまいそうだった。


「似てるね、僕たち」


 ありきたりな言葉だと、常套句だと言われるだろうか。
 でも私にとっては、今までの恋人に告げられた言葉のどれよりも嬉しかったのだ。


「また話したいな」


 彼の言葉に頷いて連絡先を交換した。
 付き合おうという言葉でもなければ、会おうという言葉でもなかった。
 ただ話したいのだというそれがとても嬉しくて、頷くことしか出来ない自分が恨めしかった。
 それすら笑って受け入れてもらえるのだから、もうどうしようもない。


「私も話したい」


 やっとのことで告げることが出来たのは、解散すると言われてからだった。
 周りの人には散々囃し立てられたけど、どうでもよかった。正樹が笑ってくれたことが嬉しかった。
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