世間が何を言おうとも、私たちは夫婦です。

蒼キるり

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セックスをしない夫婦

15話

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 私と正樹は一人の部屋を持っている。プライベートスペースを持つことは大切という共通認識があったからだ。
 でも時折、どちらかの部屋で一緒に寝ることがある。
 それは冬の寒い日であったり、ホラー映画を見た日の夜だったり、今日のようにどこか寂しい日だったりする。
 同じベッドに潜り込むと、身体のどこかが触れ合う。正樹の体温はひどく心地よい。
 こんな風に同じベッドで眠る日が時折ある。私から言ったり、正樹から言ったり、それは色々だ。
 私たちは一緒に眠る。でもセックスはしない。


「まだ、不安がある?」


 いつもより近くで正樹の穏やかな声が聞こえる。
 正樹の目が少し不安そうに揺れるのを見て、私は小さく笑って見せた。


「私は臆病だから、不安が友だちなの」


 そう答えると、正樹は少し安心したように目を細めた。
 こんな風に話していると、世界に私たちしかいないようなそんな錯覚に襲われる。


「亜子の不安は……僕らの不安は、もし一度セックスしたら、消えるものなのかな」

「どうだろう。消えるかもしれないし、また不安になるかもしれない」


 考えてもそれは分からないことのように思えた。
 布団の中で私たちは黙って手を繋いだ。


「例えば、誰かとセックスしなければいけないって言われたら、僕は絶対に亜子を選ぶよ」

「うん、私も」


 あり得ない例え話に私たちはくすくすと笑いを零した。


「私がセックスしないと地球が滅びるって言われたら、間違いなく正樹を選ぶよ」

「うん、そうして」


 笑い声がふわふわと巡って、それがとても心地よかった。
 正樹の指が私の手の甲を優しくなぞった。


「しようと思えば、多分できるんだけどね」


 うん、と私も微かに頷いてみせる。
 何を言いたいか、何を思っているか、お互い手に取るようにわかっていた。
 それでも口に出すことが私たちにとっての生き方だった。


「したいと思わない、でしょう?」

「うん、そうなんだ」

「私もだから」


 大丈夫。そう告げた声は、存外丸く優しく響いた。
 瞬きの感覚が重なる。正樹が近づき、私も近づく。ほぼ同じ動きが重なって、愛があふれたみたいに唇が微かに重なる。
 これはまだ照れくさくて、私たちは小さく笑った。

 私たちは夫婦だ。でも私たちはセックスをしない。
 これから先、ずっとしないかもしれないし。いつかする日が来るのかもしれない。分からない。私にはそんな未来のことは分からない。
 確かなのは、私たち夫婦にとってそれが重要なことではないという、ただそれだけのことだ。
 私たちはセックスをしなくても、とても幸せな夫婦だ。
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