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婚姻届を出さない夫婦
16話
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買い物から帰って来た時、私の住むマンションの一室に掛けられた二つの表札に目が止まった。
『宮川』『松永』
縦に二つ並べられた苗字。私の夫のものと、私のもの。
それを何の気なしにぼんやりと眺めてから、すぐにパッと目を離して部屋に入った。
「ただいま、宮くん」
真っ先にキッチンに向かい、鍋の前に立っている夫に声をかけた。
今晩の夕食であるカレーの味見をしていたらしく、小皿を持ったままこちらに顔を向けられる。
「おかえり、松ちゃん。ソース売ってた?」
「売ってた、売ってた。やっぱりウスターソースかけないと、いまいちカレーって感じがしないから」
「うーん、俺はかけずに食べるけど、売ってて良かったな」
私が昔勧めても、頑としてそのままカレーを食べることを貫き通した宮くんが苦笑いしながら言う。
美味しいんだけどなぁ、と私は首をすくめた。今日も私だけ堪能させてもらうことにしよう。
それにしても、ウスターソースをかけてないカレーはカレーではないという持論を持っている私が、カレーの日にウスターソースを切らすのは迂闊だった。
近くの小さな店はいろんなものが売り切れていることが多いのだけど、今日は売っていたからラッキーだった。
「私も味見していい?」
「いいけど、もう夕飯にするよ」
「いいの。いま、食べたいの」
宮くんから小皿を受け取って、舐めるように一口味見をする。
控えめな辛さが絶妙だ。美味しい、と私は大きく頷いた。
「そういえば、藤崎さんのとこに話に行くの、明日だっけ?」
「うん、そう」
冷蔵庫からサラダを取り出していると、宮くんがふと思い出したという風に尋ねてきたので頷いておく。
「宮くんも一緒に話す?」
「いや、遠慮しとく。仕事あるし」
「残念。私がちゃんと話しておくよ」
楽しみにしてるよ、と宮くんが笑いながらカレーをカレー皿に注いでいる。
スプーンを食器棚から取り出しながら、任せといてと胸を張った。
私たちの住むマンションの上のフロアに住んでいる藤崎美香さんと私は明日話をすることになっていた。
藤崎さんが書きたいと言っている本に、私たちのことも載せてもらうためだ。
私からお願いしたとはいえ、少し緊張しなくもない。私がウスターソースを買い忘れていたのもそのせいだろうか、と思いくすりと笑ってしまった。
世間一般とは違う夫婦の話を書きたいと語っていた藤崎さんの横顔を思い出す。
私の話も書いてくれませんか、と頼んだのは私の方からだ。
私と宮くんは夫婦だ。でも婚姻届は提出していない。それでも私たちは間違いなく夫婦なのだ。
『宮川』『松永』
縦に二つ並べられた苗字。私の夫のものと、私のもの。
それを何の気なしにぼんやりと眺めてから、すぐにパッと目を離して部屋に入った。
「ただいま、宮くん」
真っ先にキッチンに向かい、鍋の前に立っている夫に声をかけた。
今晩の夕食であるカレーの味見をしていたらしく、小皿を持ったままこちらに顔を向けられる。
「おかえり、松ちゃん。ソース売ってた?」
「売ってた、売ってた。やっぱりウスターソースかけないと、いまいちカレーって感じがしないから」
「うーん、俺はかけずに食べるけど、売ってて良かったな」
私が昔勧めても、頑としてそのままカレーを食べることを貫き通した宮くんが苦笑いしながら言う。
美味しいんだけどなぁ、と私は首をすくめた。今日も私だけ堪能させてもらうことにしよう。
それにしても、ウスターソースをかけてないカレーはカレーではないという持論を持っている私が、カレーの日にウスターソースを切らすのは迂闊だった。
近くの小さな店はいろんなものが売り切れていることが多いのだけど、今日は売っていたからラッキーだった。
「私も味見していい?」
「いいけど、もう夕飯にするよ」
「いいの。いま、食べたいの」
宮くんから小皿を受け取って、舐めるように一口味見をする。
控えめな辛さが絶妙だ。美味しい、と私は大きく頷いた。
「そういえば、藤崎さんのとこに話に行くの、明日だっけ?」
「うん、そう」
冷蔵庫からサラダを取り出していると、宮くんがふと思い出したという風に尋ねてきたので頷いておく。
「宮くんも一緒に話す?」
「いや、遠慮しとく。仕事あるし」
「残念。私がちゃんと話しておくよ」
楽しみにしてるよ、と宮くんが笑いながらカレーをカレー皿に注いでいる。
スプーンを食器棚から取り出しながら、任せといてと胸を張った。
私たちの住むマンションの上のフロアに住んでいる藤崎美香さんと私は明日話をすることになっていた。
藤崎さんが書きたいと言っている本に、私たちのことも載せてもらうためだ。
私からお願いしたとはいえ、少し緊張しなくもない。私がウスターソースを買い忘れていたのもそのせいだろうか、と思いくすりと笑ってしまった。
世間一般とは違う夫婦の話を書きたいと語っていた藤崎さんの横顔を思い出す。
私の話も書いてくれませんか、と頼んだのは私の方からだ。
私と宮くんは夫婦だ。でも婚姻届は提出していない。それでも私たちは間違いなく夫婦なのだ。
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