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婚姻届を出さない夫婦
19話
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私が自分から書いてくれと頼んだのは、もちろん藤崎さん本人にも驚かれたのだけど、案外すぐに喜んでくれたのは嬉しい誤算だった。
こんな感じで書くから、とその段階で決まっていることを惜しげなく教えてもらった。難しいことはよく分からないけれど、とても誠実なものに見えた。
本当に藤崎さんは真剣に書きたがっているのだと、申し出た後で分かった。
そんな風に、つい藤崎さんと会った時のことから思い返してしまう。
人の家でぼーっとしていたことに気づき、慌ててそれを振り払うように小さく首を振る。
それを誤魔化すみたいに藤崎さんが出してくれたコーヒーに手を伸ばした。
温かくて美味しいコーヒーを一口飲み、ほっと息を吐く。
「今日は来てくれて、ありがとうございました」
藤崎さんが少し不安げな顔で、思い切ったように告げる。
私は慌ててコーヒーをテーブルの上に戻し、今度は藤崎さんに分かりやすいように大きく首を振った。
「いえいえ。私から頼んだのだから、当然ですよ」
「ああ、よかった。ちょっと急だったかなって思ってたんです」
大丈夫ですよ、と笑うと藤崎さんも笑い返してくれる。
普段からそうなのだけど、笑うと特に藤崎さんはひどく話しやすい人になる。自然と話を聞いてもらいたくなるのだ。
私が話したいと思ったのは、そんな理由もあるのかもしれない。
お話を聞く時に、メモを取らせてもらいたいんですけど。そう以前も言われたことを再度丁寧に告げられる。
もちろん、とこれまた笑顔で答える。
「これ、毎回言ってるんですけど、自然に話したいように話してくれれば大丈夫ですので」
もう何人かと話したのだろうか。藤崎さんが丁寧に、けれど慣れた声色で話してくれる。
はい、と私もつられるように幾分丁寧に答える。
「そんなに硬くならなくても、松永さんが話したいように話してくれれば大丈夫ですから」
「んー、でも私、要約とか出来ないから、ずっと話しちゃうかもしれませんよ」
「それこそ望むところですよ。どんどん話してください。幸い、時間も早いですし。まだまだ時間はありますよ。松永さんさえ良ければ、別に今日中に終わらなくても大丈夫ですし」
流石にそこまでは長くならないと思うと笑うと、なら尚更大丈夫だと藤崎さんも笑った。
深く考えるのは苦手だから、そう言ってもらえればなんとか話せるという気になってくる。
そもそも、私から言い出したことだ。
私はゆっくりと昔のことを思い出し、ゆっくりと話し始めた。
こんな感じで書くから、とその段階で決まっていることを惜しげなく教えてもらった。難しいことはよく分からないけれど、とても誠実なものに見えた。
本当に藤崎さんは真剣に書きたがっているのだと、申し出た後で分かった。
そんな風に、つい藤崎さんと会った時のことから思い返してしまう。
人の家でぼーっとしていたことに気づき、慌ててそれを振り払うように小さく首を振る。
それを誤魔化すみたいに藤崎さんが出してくれたコーヒーに手を伸ばした。
温かくて美味しいコーヒーを一口飲み、ほっと息を吐く。
「今日は来てくれて、ありがとうございました」
藤崎さんが少し不安げな顔で、思い切ったように告げる。
私は慌ててコーヒーをテーブルの上に戻し、今度は藤崎さんに分かりやすいように大きく首を振った。
「いえいえ。私から頼んだのだから、当然ですよ」
「ああ、よかった。ちょっと急だったかなって思ってたんです」
大丈夫ですよ、と笑うと藤崎さんも笑い返してくれる。
普段からそうなのだけど、笑うと特に藤崎さんはひどく話しやすい人になる。自然と話を聞いてもらいたくなるのだ。
私が話したいと思ったのは、そんな理由もあるのかもしれない。
お話を聞く時に、メモを取らせてもらいたいんですけど。そう以前も言われたことを再度丁寧に告げられる。
もちろん、とこれまた笑顔で答える。
「これ、毎回言ってるんですけど、自然に話したいように話してくれれば大丈夫ですので」
もう何人かと話したのだろうか。藤崎さんが丁寧に、けれど慣れた声色で話してくれる。
はい、と私もつられるように幾分丁寧に答える。
「そんなに硬くならなくても、松永さんが話したいように話してくれれば大丈夫ですから」
「んー、でも私、要約とか出来ないから、ずっと話しちゃうかもしれませんよ」
「それこそ望むところですよ。どんどん話してください。幸い、時間も早いですし。まだまだ時間はありますよ。松永さんさえ良ければ、別に今日中に終わらなくても大丈夫ですし」
流石にそこまでは長くならないと思うと笑うと、なら尚更大丈夫だと藤崎さんも笑った。
深く考えるのは苦手だから、そう言ってもらえればなんとか話せるという気になってくる。
そもそも、私から言い出したことだ。
私はゆっくりと昔のことを思い出し、ゆっくりと話し始めた。
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