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夫が働かない夫婦
28話
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今日は給湯室でお昼を食べることにした。
別段、昨日の話を気にしているという訳ではない。あれから特に何か言われた訳ではないし、ああいうことは勢いがある時以外は案外言いにくいものなのだ。
だから今日、みんなと一緒にお昼を取っても何か言われる可能性は極めて低いし、別に気にしなければいい話だ。
それでもなんとなく行きにくい。私らしくもない、と思いながらも今日は行かないことにした。
それからもう一つ理由を挙げるとすれば、田辺さんだ。
田辺さんは今日も給湯室でお弁当を食べているのだろう。
私はコンビニで買ったおにぎり片手に給湯室に向かった。
「向坂さん?」
想像通り、そこには田辺さんがいた。
美味しそうにお弁当を突く田辺さんはいつも違ってひどくリラックスしているみたいで、お邪魔したかなと一瞬申し訳なくなる。
でも、そんなこと言う方がきっと気を遣わせるから、私はにこりと笑って中に入った。
「お昼、ご一緒させてもらってもいいですか?」
「うん、それはもちろん。でも、向坂さんがこっちなんて珍しいね」
それには曖昧に頷いて、田辺さんの向かい側に座る。
くるくるとおにぎりのフィルムを剥がしてパクリと口にする。
きっと優也に頼めば、私もお弁当を作ってくれたと思うけど、優也の仕事を増やすのは申し訳ないし、たまにはこういうのも美味しい。
「私ね、前から田辺さんとゆっくり話したいなぁって思ってたんですよ」
「うん、私も」
田辺さんの返事に内心少し驚く。いつもどこか人と違う雰囲気を醸し出している田辺さんは、私のことなんて気にしてないと思っていた。
もちろんただの愛想かもしれないけど、それでも私はひどく嬉しかった。
田辺さんと話したかったのは、似ているかもしれないと思ったからだ。
私と田辺さんは似ていて、もしかしたら私の目標のヒントを教えてくれるかもしれない、なんて打算もあった。
「田辺さんのとこって結婚して何年目でしたっけ?」
当たり障りのない質問を、何の含みもない風を装って尋ねる。
「三年とちょっと、かな」
「そっかぁ、先輩ですよねぇ。仲とかよろしいんですか?」
「うん、いいよ」
田辺さんの笑顔はなんだかひどく吹っ切れて見えた。
少し前までもう少し暗い雰囲気もあった気がするのだけど、今は感じられない。
私もこんな風に優也の話をする時に自然に笑えたらいいのに。ううん、笑えるようになるんだ。絶対に。
そう思って、そこに近づくために私はまた笑いながら田辺さんに声をかけた。
別段、昨日の話を気にしているという訳ではない。あれから特に何か言われた訳ではないし、ああいうことは勢いがある時以外は案外言いにくいものなのだ。
だから今日、みんなと一緒にお昼を取っても何か言われる可能性は極めて低いし、別に気にしなければいい話だ。
それでもなんとなく行きにくい。私らしくもない、と思いながらも今日は行かないことにした。
それからもう一つ理由を挙げるとすれば、田辺さんだ。
田辺さんは今日も給湯室でお弁当を食べているのだろう。
私はコンビニで買ったおにぎり片手に給湯室に向かった。
「向坂さん?」
想像通り、そこには田辺さんがいた。
美味しそうにお弁当を突く田辺さんはいつも違ってひどくリラックスしているみたいで、お邪魔したかなと一瞬申し訳なくなる。
でも、そんなこと言う方がきっと気を遣わせるから、私はにこりと笑って中に入った。
「お昼、ご一緒させてもらってもいいですか?」
「うん、それはもちろん。でも、向坂さんがこっちなんて珍しいね」
それには曖昧に頷いて、田辺さんの向かい側に座る。
くるくるとおにぎりのフィルムを剥がしてパクリと口にする。
きっと優也に頼めば、私もお弁当を作ってくれたと思うけど、優也の仕事を増やすのは申し訳ないし、たまにはこういうのも美味しい。
「私ね、前から田辺さんとゆっくり話したいなぁって思ってたんですよ」
「うん、私も」
田辺さんの返事に内心少し驚く。いつもどこか人と違う雰囲気を醸し出している田辺さんは、私のことなんて気にしてないと思っていた。
もちろんただの愛想かもしれないけど、それでも私はひどく嬉しかった。
田辺さんと話したかったのは、似ているかもしれないと思ったからだ。
私と田辺さんは似ていて、もしかしたら私の目標のヒントを教えてくれるかもしれない、なんて打算もあった。
「田辺さんのとこって結婚して何年目でしたっけ?」
当たり障りのない質問を、何の含みもない風を装って尋ねる。
「三年とちょっと、かな」
「そっかぁ、先輩ですよねぇ。仲とかよろしいんですか?」
「うん、いいよ」
田辺さんの笑顔はなんだかひどく吹っ切れて見えた。
少し前までもう少し暗い雰囲気もあった気がするのだけど、今は感じられない。
私もこんな風に優也の話をする時に自然に笑えたらいいのに。ううん、笑えるようになるんだ。絶対に。
そう思って、そこに近づくために私はまた笑いながら田辺さんに声をかけた。
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