世間が何を言おうとも、私たちは夫婦です。

蒼キるり

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夫が働かない夫婦

29話

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 当たり障りのない内容かどうか頭の中で考えながら、それは表に出さないように慎重に話しかける。
 もちろん慎重に振る舞っている素振りも見せない。あくまでいつも通りに。出来ているだろうか。きっと出来ている。自分で言うのもなんだけど、私は存外器用な人間だ。
 田辺さんの顔を真っ直ぐに見つめながら私は笑う。そして聞きたかったことをようやく会話の弾みでぶつけた。


「なにか仲の良い秘訣とか、あります?」


 自分で尋ねておいて、なんだか少し虚しくなった。私達だって他人に教えてもらうまでもなく仲は良いのに。
 そのことは誰より私が分かってるのに、人にこんなことを尋ねたくなるのが、なんだかひどく滑稽だった。
 優也のことは本当に好きで大切で、なのに一歩外の世界に出るとずっと気を張っていなければいけないのが、ほんの少しばかり辛いのかもしれない。
 今更気づいた。こんなところで。私は辛いと思っているのだろうか。まさかこんなに日々が楽しいのに。馬鹿みたいだ。
 世界が自分に優しくないなんて当たり前だ。だってそんな風には出来ていない。分かっている。
 それでも諦められないから、きっと私は田辺さんに話しかけたのだろう。まあでも、諦めの悪い自分は嫌いではない。


「話し合うこと、かな」


 田辺さんが少し考えた後に答えてくれた。ひどく誠実な回答だった。
 私のようにはぐらかしたり誤魔化したり、そんなことが微塵も感じられなかった。私には出来ないことだった。


「お互いが思ってることを出来るだけ分かり合えるように、伝えるようにはしてる」

「それって、顔を見て、ですか?」

「うん、うちの場合はそうかな」


 真似をしようとした訳ではない。だって私は田辺さんにはなれない。
 でもこんな風に答えてくれるのだから、私の不躾な質問に笑ってくれるのだから、私も少しくらい応えなければいけないと思った。
 ああ、やっぱり私はどうしようもなく不器用で、素直に言おうとすればするほど、心とは裏腹な言葉が口から出ようとする。真剣な顔をしようとすればするほど、なんでもないふりをして笑ってしまう。
 馬鹿で不器用で、ここまで来ても私は思っていることを口にすることすら難しい。
 田辺さんから目を逸らす。交差していた視線が消える。私の視界から田辺さんがいなくなる。
 そこまでしてやっと、私は素直な言葉が言えた。


「田辺さん、私。人の顔を見て素直に話すのが苦手なんです。だから、いつも上手くいかない」


 うん、と田辺さんの優しい頷きが痛かった。否定されなかったことが嬉しかった。そんなことないよ、と言われたらもう話せなかった。
 田辺さんの顔を見ないままに、田辺さんの優しさだけ感じながら、私は話を続けた。
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