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第21章
つかの間の休息1
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こうしてカレイドスコープ村にやってきた魔族は死の谷へ戻り、戦いが終わった。
マックスさんの言っていた通りにピーターや兄様は生き残った。マックスさんたちも無事だ。
だけど中には戦死したり、治らない傷を負った人たちがいる。
エリザさんもやマックスさんは人間にできることは少ないし、戦いが起これば全員無傷で済むことは不可能だと言う。その意味は理解できるし、道理にかなってる。
だけど納得はできなかった。
僕は生まれたときから裕福な暮らしをして極限状態に陥ったことはない。彼らのように人を殺さなければ自分が殺されるような状況にもあったことがない。
「だからあんたは甘ちゃんで青二才なのよ。温室育ちのお坊ちゃん」とエリザさんから皮肉を言われても、しょうがない。
第一『過去』の女神様に祈りを捧げ、彼女に会えたとしても、もう過去の世界へは戻してもらえない。
それでも本当に、これでよかったのだろうか? と悩まずにはいられなかった。
*
戦争によって破壊された王城や村の修復を終え、帰り支度をする。
ピーターは一足先に王都へ向かって出発し、兄様も王様に勝利を報告する義務があるので部下とともに帰っていった。
今後こういった戦争がいつ何時起きるかわからない。魔王の封印は依然として解かれたままだ。本物の神子や光の聖女でもいない限り、魔王をふたたび封印することはできない。
村の家屋をクロウリー先生とエリザさんと一緒に直していると、「これからギルドの仕事が増えていくわい」
クロウリー先生が重いため息をついた。
「おじい様の言う通りだわ。ギルドとしてお金が稼げるっていっても、こういうふうに戦争ばかりになったら、どっちにしろ洋服や靴、化粧品も劣悪になるし、流通できなくなる。国交も少なくなるから買いたいものも買えなくなって意味がないわ」
「エリザさんもお洋服やお化粧に興味があるんですね」
エリザさんが斧で切り倒してた木を魔術で組み立てながら、戦火で焼かれた家を再建する。
「当たり前じゃない。潜入捜査の任務やミッションのときの必需品。商売道具だもの。なくちゃ困るわ。紳士に仕えているときはそれだけで済むわ。後は新聞と本を読んで相手の交友関係をじっくり観察してタイムスケジュールを管理すれば最低限のことは済む。
けど、ご婦人方に仕えるときはもっと大変! ポケットマネーでお茶やお菓子、香水や香木、ドレスや宝飾品やドレスにそれらのついた雑貨まで買い揃えなきゃいけなくなるのよ。安いものでいいものもあれば、高くても人体に悪影響を及ぼすものもあるから、それを頭に入れておかなきゃいけないし。貴族や騎士階級の新聞には載らないゴシップや噂、水面下での女同士の争いや協定、不倫に浮気、子供の交友関係まで熟知してなきゃ仕事が回らないんだもの!」
「古代、男は外へ狩りをしたり、戦に出ていたんじゃ。そして女は家で家事と育児を行った。どちらもコミュニケーションが必要になってくるんじゃが男は戦いの勝敗や怪我の有無で生死が決まり、女は隣人と仲良くできるかどうかや家と子供を守れるかどうかで生死が決まったそうじゃぞ」
「そうなんですか? よくわかりませんが……」
でも言われてみればそうかもしれない。
父様や僕ら兄弟はシンプルな人付き合いだ。敵味方に対しての態度も明暗がはっきりしていて、わかりやすい。
一方母様は敵対勢力であるはずのご婦人方ともお茶会をしたり、食事のパーティに誘うことすらある。逆に笑顔で接していたし、普段から会話を刷るから仲がいいのだろうと思っていた人物やその家が、後になってクライン家のことを疎ましく思っていたとわかった……なんてことがあって人間関係がより複雑だ。
「でもまあ、政治となってくると男も陰謀やら策略やらでとんでもないことになるけどね。ねえ、ルキウス。あんたの弟さんって経済博士の弟子よね。戦時中だとしたら硬化やお札よりも何が役立つか知ってたら教えてくれない? 魔族の件が一段落ついたらあたし、宝石好きの貴婦人のところへ配属されるのよ。なんでも悪魔憑きだって話で。なんかいい話、ない」
「うーん、そうですね。――ビルいわく金やダイヤモンド、プラチナは持っていて損にならないそうですよ。金は世界でも少ないもので魔法や魔術でも作れません。貴族や王族も昔からこぞって争う金属ですから価値があります。溶かせば魔力の源になりますから。ダイヤモンドも希少性もありますし、魔族と遭遇したとき一度だけ命を救ってくれるアイテムですから人気です。剣や鏃も防いでくれる効果があるので貴族・王族の装身具にもなりますよ。後、プラチナです。金属で肌荒れを起こす人もプラチナでは肌荒れを起こしにくく医術にも使えると医師たちから注目の的になってます」
「えっ、なんでよ? 三つの中では一番地位が低いし、歴史も浅いじゃない。医者たちはあんなものが好きなの?」とエリザさんが肩をすくませる。
「もしかしたら賢者の石が生まれるかもしれないそうですよ」
「うっそ、あの錬金術師がこぞって作って失敗してる万能薬が!?」
マックスさんの言っていた通りにピーターや兄様は生き残った。マックスさんたちも無事だ。
だけど中には戦死したり、治らない傷を負った人たちがいる。
エリザさんもやマックスさんは人間にできることは少ないし、戦いが起これば全員無傷で済むことは不可能だと言う。その意味は理解できるし、道理にかなってる。
だけど納得はできなかった。
僕は生まれたときから裕福な暮らしをして極限状態に陥ったことはない。彼らのように人を殺さなければ自分が殺されるような状況にもあったことがない。
「だからあんたは甘ちゃんで青二才なのよ。温室育ちのお坊ちゃん」とエリザさんから皮肉を言われても、しょうがない。
第一『過去』の女神様に祈りを捧げ、彼女に会えたとしても、もう過去の世界へは戻してもらえない。
それでも本当に、これでよかったのだろうか? と悩まずにはいられなかった。
*
戦争によって破壊された王城や村の修復を終え、帰り支度をする。
ピーターは一足先に王都へ向かって出発し、兄様も王様に勝利を報告する義務があるので部下とともに帰っていった。
今後こういった戦争がいつ何時起きるかわからない。魔王の封印は依然として解かれたままだ。本物の神子や光の聖女でもいない限り、魔王をふたたび封印することはできない。
村の家屋をクロウリー先生とエリザさんと一緒に直していると、「これからギルドの仕事が増えていくわい」
クロウリー先生が重いため息をついた。
「おじい様の言う通りだわ。ギルドとしてお金が稼げるっていっても、こういうふうに戦争ばかりになったら、どっちにしろ洋服や靴、化粧品も劣悪になるし、流通できなくなる。国交も少なくなるから買いたいものも買えなくなって意味がないわ」
「エリザさんもお洋服やお化粧に興味があるんですね」
エリザさんが斧で切り倒してた木を魔術で組み立てながら、戦火で焼かれた家を再建する。
「当たり前じゃない。潜入捜査の任務やミッションのときの必需品。商売道具だもの。なくちゃ困るわ。紳士に仕えているときはそれだけで済むわ。後は新聞と本を読んで相手の交友関係をじっくり観察してタイムスケジュールを管理すれば最低限のことは済む。
けど、ご婦人方に仕えるときはもっと大変! ポケットマネーでお茶やお菓子、香水や香木、ドレスや宝飾品やドレスにそれらのついた雑貨まで買い揃えなきゃいけなくなるのよ。安いものでいいものもあれば、高くても人体に悪影響を及ぼすものもあるから、それを頭に入れておかなきゃいけないし。貴族や騎士階級の新聞には載らないゴシップや噂、水面下での女同士の争いや協定、不倫に浮気、子供の交友関係まで熟知してなきゃ仕事が回らないんだもの!」
「古代、男は外へ狩りをしたり、戦に出ていたんじゃ。そして女は家で家事と育児を行った。どちらもコミュニケーションが必要になってくるんじゃが男は戦いの勝敗や怪我の有無で生死が決まり、女は隣人と仲良くできるかどうかや家と子供を守れるかどうかで生死が決まったそうじゃぞ」
「そうなんですか? よくわかりませんが……」
でも言われてみればそうかもしれない。
父様や僕ら兄弟はシンプルな人付き合いだ。敵味方に対しての態度も明暗がはっきりしていて、わかりやすい。
一方母様は敵対勢力であるはずのご婦人方ともお茶会をしたり、食事のパーティに誘うことすらある。逆に笑顔で接していたし、普段から会話を刷るから仲がいいのだろうと思っていた人物やその家が、後になってクライン家のことを疎ましく思っていたとわかった……なんてことがあって人間関係がより複雑だ。
「でもまあ、政治となってくると男も陰謀やら策略やらでとんでもないことになるけどね。ねえ、ルキウス。あんたの弟さんって経済博士の弟子よね。戦時中だとしたら硬化やお札よりも何が役立つか知ってたら教えてくれない? 魔族の件が一段落ついたらあたし、宝石好きの貴婦人のところへ配属されるのよ。なんでも悪魔憑きだって話で。なんかいい話、ない」
「うーん、そうですね。――ビルいわく金やダイヤモンド、プラチナは持っていて損にならないそうですよ。金は世界でも少ないもので魔法や魔術でも作れません。貴族や王族も昔からこぞって争う金属ですから価値があります。溶かせば魔力の源になりますから。ダイヤモンドも希少性もありますし、魔族と遭遇したとき一度だけ命を救ってくれるアイテムですから人気です。剣や鏃も防いでくれる効果があるので貴族・王族の装身具にもなりますよ。後、プラチナです。金属で肌荒れを起こす人もプラチナでは肌荒れを起こしにくく医術にも使えると医師たちから注目の的になってます」
「えっ、なんでよ? 三つの中では一番地位が低いし、歴史も浅いじゃない。医者たちはあんなものが好きなの?」とエリザさんが肩をすくませる。
「もしかしたら賢者の石が生まれるかもしれないそうですよ」
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