ポメ・ポメ・パニック!〜犬猿幼なじみと甘い主従関係!?〜

鶴機 亀輔

文字の大きさ
18 / 29
第4章

タイムリミット3

しおりを挟む
 すると城内先生は困ったように眉を下げ、頼りない笑みを浮かべた。

「ミノタウロスって聞いたことがあるかな?」

 なんのことだろうと頭の中でクエスチョンマークを浮かべながら、僕は世界史の過去問解説の授業で先生が鼻息を話していた、よもやま話を思い出す。

「えっと、半分牛で、半分人間の怪物ですよね……? 古代ギリシャのクレタ島にある迷宮に住みつく化物で人間を食べちゃう怖い魔物モンスター

「そうだよ。最近は、その迷宮らしき建物が見つかったって歴食なんかの間でも話題になってる」

「世界史の先生も言ってました。入ったら二度と抜け出せない迷宮で、でもテセウスっていう英雄がアリアドネの糸を使って、抜け出したんだって。それが何か関係あるんですか?」

「まあ、ね」と先生は歯切れ悪く返事をしてから、ぼくの目をじっと見つめた。「……獣医や医師、学者を目指す人の中には、ヒューマン・トランスフォーマーの人間を物語に出てくる“怪物”と考える人もいるんだ」

 その言葉を聞いて、ぼくは思わずひゅっと息を呑んだ。

「“怪物”を生かしてはおけないと考え、警察や自衛隊、軍の兵隊に電話をかけようとする人、“怪物”を見世物にしようと考えマスコミに情報を売ろうとする人、そして己の私利私欲と好奇心を満たすため実験動物にしようとする人が、この二十一世紀の令和にもいることは忘れてないよね」

「じゃあ先生は――隼人がもし、ぼくの気持ちを受け入れて恋人になったとしても、ぼくを“怪物”だと思うって、そう言ってるんですか……?」

 嘘だと言ってほしかった。でも――「隼人くんが悪い子ではないと思うよ。それでも、犬になるきみを恋人として受け入れてくれるかどうかまでは、正直言ってオレにもわからない」

「だったら言わなきゃいいだけです! 隼人のやつには、ぼくがポメラニアンになる人間だって悟られないようにします。このことは墓場まで持っていくつもりです。だから先生が言うようなことには……」

「渉くん、そうしたらきみは大切な人に死ぬまで嘘をつき続けることになるんだよ。そんな悲しいことをしていいの? 大好きな人を欺き続けるような人生を送るんだよ。今はまだ学生だからいいけど、社会に出て働く社会人になったら、ストレスはもっと増える。いやなやつや意地の悪いやつと関わって、大好きな人に本当のことを言えない後ろめたさを感じているうちにポメラニアンになったら、どうするの?」

「それは、その――……」

 だから先生はマスターやパートナーの話をしたんだなと腑に落ちる。

 僕が隼人と付き合えても、もしうまくいかなったときは二度と人間でいることに絶望して、ただのポメラニアンになってしまうから……。

 ヒューマン・トランスフォーマーには、自分を人間に戻してくれるパートナーかマスターが必要になる。 

 ヒューマン・トランスフォーマー同士でパートナーになれば、お互い人間として生まれながら動物に変態する苦労がわかっている者同士。お互いを裏切ることがないし、どちらか一方が動物に変わっても、お父さんとお母さんみたいにすぐ対応できる。

 パートナーは動物のつがいみたいに仲よくなることが多いから、男女だったら結婚することが多いし、同性でも恋人になったりする。

 その一方でマスターと主従関係を結ぶヒューマン・トランスフォーマーもいる。マスターは守護者と同じ、普通の人間だ。でも守護者のようにヒューマン・トランスフォーマーの生態に詳しかったり、医療知識や薬学、心理学に通じている人間じゃなくてもなれる。

 動物と人間を心から愛し、大切にする人。その条件を満たせば誰もがマスターになれる。

 ヒューマン・トランスフォーマーの主人を代々輩出している家もあれば、偶然が重なってヒューマン・トランスフォーマーを知り、マスターの道を選ぶ人もいる。ヒューマン・トランスフォーマーにとっては家族や守護者と同等、またはそれ以上に信頼できる人間だ。マスターとなる人間とヒューマン・トランスフォーマーは、まるで運命の赤い糸で結ばれているみたいに息が合うという。

 隼人はヒューマン・トランスフォーマーじゃないし、代々マスターをやっている家の子でもない。

 もし僕がポメラニアンになる人間だと知って助けてくれるのならマスター候補になる。でも、そうじゃなかったときは、ぼくとの記憶はすべて消されてしまう。

 そしてぼくやお母さん、お父さんも隼人がいる場所から移動しなきゃいけない。生まれ育ったこの川越から、どこか遠くの知らない場所へ、引っ越さなきゃいけなくなるんだ。

「きみは隼人くんのそばにいれなくなっても平気なのかい?」

「それは……」

「ねえ、渉くん。幸せなときに大切なものを失うと、それは永遠の喪失になりうる場合があるんだ」

「永遠の喪失?」

「そうだよ」と城之内先生が悲しそうな笑みを浮かべた。「今、犬猿の仲の状態で振られるよりも、恋人として仲よくなってデートをしたり、ハグをして幸せを感じているときにヒューマン・トランスフォーマーであることを知られてしまい、別れを告げられたときのほうが、きっと苦しい思いをする。そうして隼人くんに二度と会えない状態になる。そのとき、きみはきみでいられる?」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

希少なΩだと隠して生きてきた薬師は、視察に来た冷徹なα騎士団長に一瞬で見抜かれ「お前は俺の番だ」と帝都に連れ去られてしまう

水凪しおん
BL
「君は、今日から俺のものだ」 辺境の村で薬師として静かに暮らす青年カイリ。彼には誰にも言えない秘密があった。それは希少なΩ(オメガ)でありながら、その性を偽りβ(ベータ)として生きていること。 ある日、村を訪れたのは『帝国の氷盾』と畏れられる冷徹な騎士団総長、リアム。彼は最上級のα(アルファ)であり、カイリが必死に隠してきたΩの資質をいとも簡単に見抜いてしまう。 「お前のその特異な力を、帝国のために使え」 強引に帝都へ連れ去られ、リアムの屋敷で“偽りの主従関係”を結ぶことになったカイリ。冷たい命令とは裏腹に、リアムが時折見せる不器用な優しさと孤独を秘めた瞳に、カイリの心は次第に揺らいでいく。 しかし、カイリの持つ特別なフェロモンは帝国の覇権を揺るがす甘美な毒。やがて二人は、宮廷を渦巻く巨大な陰謀に巻き込まれていく――。 運命の番(つがい)に抗う不遇のΩと、愛を知らない最強α騎士。 偽りの関係から始まる、甘く切ない身分差ファンタジー・ラブ!

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

異世界転移した元コンビニ店長は、獣人騎士様に嫁入りする夢は……見ない!

めがねあざらし
BL
過労死→異世界転移→体液ヒーラー⁈ 社畜すぎて魂が擦り減っていたコンビニ店長・蓮は、女神の凡ミスで異世界送りに。 もらった能力は“全言語理解”と“回復力”! ……ただし、回復スキルの発動条件は「体液経由」です⁈ キスで癒す? 舐めて治す? そんなの変態じゃん! 出会ったのは、狼耳の超絶無骨な騎士・ロナルドと、豹耳騎士・ルース。 最初は“保護対象”だったのに、気づけば戦場の最前線⁈ 攻めも受けも騒がしい異世界で、蓮の安眠と尊厳は守れるのか⁉ -------------------- ※現在同時掲載中の「捨てられΩ、癒しの異能で獣人将軍に囲われてます!?」の元ネタです。出しちゃった!

虐げられている魔術師少年、悪魔召喚に成功したところ国家転覆にも成功する

あかのゆりこ
BL
主人公のグレン・クランストンは天才魔術師だ。ある日、失われた魔術の復活に成功し、悪魔を召喚する。その悪魔は愛と性の悪魔「ドーヴィ」と名乗り、グレンに契約の代償としてまさかの「口づけ」を提示してきた。 領民を守るため、王家に囚われた姉を救うため、グレンは致し方なく自分の唇(もちろん未使用)を差し出すことになる。 *** 王家に虐げられて不遇な立場のトラウマ持ち不幸属性主人公がスパダリ系悪魔に溺愛されて幸せになるコメディの皮を被ったそこそこシリアスなお話です。 ・ハピエン ・CP左右固定(リバありません) ・三角関係及び当て馬キャラなし(相手違いありません) です。 べろちゅーすらないキスだけの健全ピュアピュアなお付き合いをお楽しみください。 *** 2024.10.18 第二章開幕にあたり、第一章の2話~3話の間に加筆を行いました。小数点付きの話が追加分ですが、別に読まなくても問題はありません。

ブラコンすぎて面倒な男を演じていた平凡兄、やめたら押し倒されました

あと
BL
「お兄ちゃん!人肌脱ぎます!」 完璧公爵跡取り息子許嫁攻め×ブラコン兄鈍感受け 可愛い弟と攻めの幸せのために、平凡なのに面倒な男を演じることにした受け。毎日の告白、束縛発言などを繰り広げ、上手くいきそうになったため、やめたら、なんと…? 攻め:ヴィクター・ローレンツ 受け:リアム・グレイソン 弟:リチャード・グレイソン  pixivにも投稿しています。 ひよったら消します。
誤字脱字はサイレント修正します。
また、内容もサイレント修正する時もあります。
定期的にタグも整理します。

批判・中傷コメントはお控えください。
見つけ次第削除いたします。

【完結・BL】俺をフッた初恋相手が、転勤して上司になったんだが?【先輩×後輩】

彩華
BL
『俺、そんな目でお前のこと見れない』 高校一年の冬。俺の初恋は、見事に玉砕した。 その後、俺は見事にDTのまま。あっという間に25になり。何の変化もないまま、ごくごくありふれたサラリーマンになった俺。 そんな俺の前に、運命の悪戯か。再び初恋相手は現れて────!?

ウサギ獣人を毛嫌いしているオオカミ獣人後輩に、嘘をついたウサギ獣人オレ。大学で逃げ出して後悔したのに、大人になって再会するなんて!?

灯璃
BL
ごく普通に大学に通う、宇佐木 寧(ねい)には、ひょんな事から懐いてくれる後輩がいた。 オオカミ獣人でアルファの、狼谷 凛旺(りおう)だ。 ーここは、普通に獣人が現代社会で暮らす世界ー 獣人の中でも、肉食と草食で格差があり、さらに男女以外の第二の性別、アルファ、ベータ、オメガがあった。オメガは男でもアルファの子が産めるのだが、そこそこ差別されていたのでベータだと言った方が楽だった。 そんな中で、肉食のオオカミ獣人の狼谷が、草食オメガのオレに懐いているのは、単にオレたちのオタク趣味が合ったからだった。 だが、こいつは、ウサギ獣人を毛嫌いしていて、よりにもよって、オレはウサギ獣人のオメガだった。 話が合うこいつと話をするのは楽しい。だから、学生生活の間だけ、なんとか隠しとおせば大丈夫だろう。 そんな風に簡単に思っていたからか、突然に発情期を迎えたオレは、自業自得の後悔をする羽目になるーー。 みたいな、大学篇と、その後の社会人編。 BL大賞に応募しましたので、見て頂けると嬉しいです! ※本編完結しました!お読みいただきありがとうございました! ※短編1本追加しました。これにて完結です!ありがとうございました! 旧題「ウサギ獣人が嫌いな、オオカミ獣人後輩を騙してしまった。ついでにオメガなのにベータと言ってしまったオレの、後悔」

【完結】アイドルは親友への片思いを卒業し、イケメン俳優に溺愛され本当の笑顔になる <TOMARIGIシリーズ>

はなたろう
BL
TOMARIGIシリーズ② 人気アイドル、片倉理久は、同じグループの伊勢に片思いしている。高校生の頃に事務所に入所してからずっと、2人で切磋琢磨し念願のデビュー。苦楽を共にしたが、いつしか友情以上になっていった。 そんな伊勢は、マネージャーの湊とラブラブで、幸せを喜んであげたいが複雑で苦しい毎日。 そんなとき、俳優の桐生が現れる。飄々とした桐生の存在に戸惑いながらも、片倉は次第に彼の魅力に引き寄せられていく。 友情と恋心の狭間で揺れる心――片倉は新しい関係に踏み出せるのか。 人気アイドル<TOMARIGI>シリーズ新章、開幕!

処理中です...