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本編

3(アレク視点)

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 僕は魔族領の森の中の小屋で、この辺りの調査をしていた。部下もしばらくしたら、戻って来るはずだ。

 書類を見ながら考え込んでいた時に、小さくノック音が聞こえた。部下にしては早すぎる…。そう考えていると、聞き覚えのない声が聞こえてきた。

「どなたかいらっしゃいませんか?」

 カタリと音を立てて、扉を開く。

 目の前には絵本で見た、青空を映したような髪色に、金色の目が印象的な女性の姿があった。

「誰だ。君は何しにこんなところへ来たんだ?」

 普通の人間ならば、この土地では、永く生きて行けない。魔獣に襲われたりして、すぐに命を落とすから。面倒だが送り届けるべきかと思考を巡らせる。

 すると女性の口からとんでもない事を言われる。

「突然とこの森に連れて来られて、捨て置かれました…。私を乗せた馬車は、すぐさまきた道を戻って行ってしまいました…。一晩だけで良いですから、泊めて頂けないでしょうか…?」

 殺す気でここに置いていったのか…。酷なことをする…。けれど確認しなければならない。我々の敵なのかどうかを。

「ここに? 一晩? 君はここ魔族領が怖くないのか…?」

「怖くないと言ったら、嘘になると思います…。けれど…、言葉が通じるならお互いの、なにか力になれると思うのです…」

 強い意志が、感じられる言葉だった。話を聞くに、死を望まれ捨てられたようなのに、どこか前向きな考え方に、好感が持てた。

「………人間・・にしては、珍しい考え方をするんだな」

「そうでしょうか」


 建物を見つけて、安心でもしたのだろうか、女性は急に鳴り出す、お腹に頬を染める。

「腹が減っているのか。食料らしい食料は持ち歩いてないんだ。この地魔族領はあまり植物が実らない…。魔獣を狩って食料にするくらいしかないんだ…」

 魔獣を狩りに行くべきか? それまでまたせてしまうことになるが。部下の猫獣人のセインやうさぎ獣人のフィールがいれば、早急に獲物は捕まえられただろうが、あと数時間は帰らないだろうしな…。そんな事を考えていると、女性が口を開いた。

「そうなのですか…。家の周りの土地と、キッチンをお借りしても?」

 食材がないのに、外に出て何をする気なのだろうか。少し興味を惹かれてしまう。

「それは構わないが、僕の話を聞いていた?」

「ではお借りしますね…。ありがとうございます」

 そう言い女性は、小屋を出ていく。仕方なくそのあとへと続く様に足を進めた。女性は広まった場所にしゃがみ込み、土に触れる。一体何をする気なのだろうか。
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