【本編完結】貴方のそばにずっと、いられたらのならばいいのに…。

皇ひびき

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本編

30(レイス視点)

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 時短の魅力に負けたのか、パン作りの発酵時間を早めてもらったりしつつ、本来かかるであろう時間も説明しつつ、パンの生地を作りあげた。
 あとは、パンの形を整えて、焼き上げているらしい。

 フライパンで、良い香りを漂わせている、パンチェッタなる物をお皿に乗せ、フォークに刺して、味見をする…。

「ん、自分で作っておいてなんだけど、美味しい!」

 レイが口元を抑え、嬉しそうに食べる。想像した味に出来たらしい。

「噛む度、ハーブの香りと程よい塩分が滲み出て、すごく美味しいよレイ!」

「すごく美味しいわ! 料理人の皆には悪いけど、レイちゃんの料理を食べた後だと、物足りないわね…。年下の子に師事するのは嫌かもしれないけど、色々レイちゃんから学んでくれると嬉しいわ」 

 母上がそう言うと、緊張……を含んだ表情で料理人たちは言う。

「レイ様が生み出す料理は、素材の味が生き、かと言って単調でもなく、複雑で繊細な味わい。私達もレイ様より色々教わりたいです! 厨房への立ち入りの許可をありがとうございます!」

「レイ様のおかげでどうしたら、美味しくなるのか…。その思考に広がりが持てました」

 コクコクと他の二人も頷いている。

「このパンチェッタはただ焼いても美味しいし、スープに入れてもコクが出るし、おすすめです!」

「焼きたてのパンも頂いていいかしら…」

 そんな声が聞こえて、レイは皆にパンを渡す。

「あの人にも後で渡してあげたら喜ぶわ。だって他ならぬレイちゃんの手作りだもの」

 そういいながら、僕も母上も小さく千切って、口へと運ぶ。

「柔かいわ!」

「バターが効いていて、美味しいよ。これは父上に食べさせたら、また起業案件になりかねないね。はは…、すごい」

「そうなんです。しっとりしてふかふかなんです。あちらのパンは…」

 そういったきり、レイは黙り込んでしまった。

「きっとレイシアは、レイちゃんの中でおやすみしてるの。だから、罪悪感なんて持たないで」

 レイシアは実の娘だ。淋しくないわけないのに、そう母上は言った。

 様子のおかしいレイを見ると、どんどん血色が悪くなっていく。

「レイ? 顔色が悪いよ…、大丈夫……?」

「はい…、部屋に帰って休ませて…、もらいますね」

 厨房から出たあと、顔色の悪いレイの代わりに、パンを届けた。


 それ以降、レイは部屋に籠もるようになった。

 食事はティーファに部屋に運んでもらい、最低限ティーファとは接するみたいだけど、僕達の前に姿を現さなくなった。

 レイ…、元気でいるの? 少しでも顔をみたいよ…。掻きむしられる様な心の痛みを覚え、初めて僕は自分の恋を自覚した。
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