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新たなる一歩
2 (鳴 視点)
しおりを挟む数日後、私の状況なんて考えずに、また声をかけてきた担任の先生。
「私が言ってあげたし、苛められそうだったのは、もう収まったんじゃないかしら…」
先生が、まるで助けてくれたみたいに言う。 実際は苛めを激化させただけなのに、私をまるで守ってくれたみたいな言い草。 思わず言い返してしまいそうになって、私が何言っても多分無駄だと口籠る。
正直、同じ空間で存在しているだけでも、今の彼女は苦痛に感じる。
その影響なのか、例のホームルームの件以降、英語の授業が奮わない。
嫌いになってしまった人に、教えを請う行為に対しての不満なのか、それとも苛めの悪化をもたらしめた、先生が担当している授業だからなのか。
憧れていたはずの、英語というものに関して、食指が全く動かなくなっていく。
以前の私なら、英語という言葉に興味を持っていた。 もっと知りたいとか思っていた教科であった。 例えば、洋楽を聴いたとする。
その意味の翻訳が、自分で出来たなら、歌詞の響きや言葉選びが、心の琴線に触れるのだろうと信じていた。
実に勿体ないとは思うけれど、もう無意識にそれそのものを拒絶をしているみたいだった。
その時さえ、苛めが収まればいいと言うのが見え隠れしている。 そんな先を見ようとない、そして……先の見えない人の言葉には辟易してしまう…。
たぶん私が言葉を尽くした所で、自身を無意識に美化している、この人にはきっと通じないに違いない。
それを認めてしまうと都合の悪い自身をも認めなきゃいけないのだから…。
そう…思って…、しまうからだろうか。 先生に返す言葉が上手く見つからない。
先生は、私に感謝されている…、という一択でしか物事を考えていなかったみたいで、口ごもる私に対して忌々しそうに言い放った。
「そういう所なんじゃないかしらね? 苛めが起こりそうだった原因は…」
無言を貫く私が気に入らなかったんだろうな…。
その言葉が私の胸をグサリと刺した。 先生が言い捨てる様に私に、そう言い残すと立ち去っていく姿を見送った。
本当にいい人なら、恩を着せにわざわざ来ないよ……!
相手も大人だって事でマウントとったつもりみたいだけど…
人間なんだから…、私もだけど、誰しも間違いは犯すものかなのだから、鳴…、落ち着いて……。
自分に言い聞かせる。
けれど言葉の闇に囚われそうになるのはなんでだろう。
くだらない…、相手の土俵に自分を落とす必要はないのよ…、私…落ち着いて…。
そう……。
それに先生の中では、苛めなんて、起こってすらいないのね。 起こっていたら都合が悪いから…。 なかった事にしたいのだろう。
あの人達は、言葉の持つ怖さを知らないんだろうな。
同じ言葉なのに……、人によっては良くも取り、人によっては悪く取られる。
そして、あの人達は例えば私に謝れば、ゲームなんかみたいになかった事に出来るんだと勘違いしているみたい……。
殴ったり蹴ったりただ見てるだけ、周りに合わせてるだけ……。
みんながどんな気持ちでやったのかわからない…。
けれど、自身が痛い思いをしていないから出来る事だし、言える事じゃないのかな…。
安全圏から、言いたい事を言っているだけ。
大切なものを亡くした経験がないから…。 ゲームみたいにやり直しが出来ると…、ありえない希望を思っているんだろう。
例えば…私が死んでしまっても、生き返るとでも思っているのかな……。
本当にくだらない…。
一度失われた命は、どんなに泣いたって後悔したって、もう戻ることはない。
そんなふうに自分を誤魔化してる、そんな人たちになんて、泣かされてやるものか。
苛めをする人は嫌いだ。 ただ見てるだけの人も。 そして、先生みたいに『私が守ってあげた』と、偽善ぶってる人が大嫌いだ。
ずっと憎しみに、囚われていたら疲れてしまう、上手に周り受け入れられなくなる……。
だから私もこの闇から抜け出したいのに…。
上手く抜け出せる術のない私自身も、他の場所に逃げてやり過ごそうとしている私も大嫌いだ。
今にも溢れ出しそうな涙を堪え、私は今は大嫌いになってしまった教室を後にした。
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