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家族

家族11★

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 足を掴むような痛みと、足首にじわじわと獣の足跡のように見える痣だけが濃くなっていく。

 いつもと違う雰囲気を見せる、山の木々の狭間。そこは仄暗い闇に覆われているように見えて、恐怖からなのか本能からなのか…。鳥肌がたっている。

『夜の…、森や山みたい……』

 日中は優しく受け入れてくれる印象のある、木々や自然が…、夜になると人を拒絶するような。禍々しい空気を生み出すように感じる時がある。そういうものと同列の、正体のわからない恐怖感を訳もわからず感じてしまう。

 拒絶していると感じるのに、どうして引き込まれるのか……。こんな経験を私はしたことが無かった。

 夜の山や森の拒絶感は、危ないから近寄るな……。そんな優しさなのかもしれないと感じていた。だからその場所には近づかなかったし、近寄りたいとも思わなかったから。

 その禍々しく感じてしまう空間に、私を何者かが引きずり込もうとしているみたいで、恐ろしくて声もせない。

せつくん!!』

 いつも助けてくれる、あの子の顔が浮かび、心の中で彼の名を呼んでしまう…。

『怪我が治ったばかりのあの子を、巻き込んじゃ駄目なのに…』

 何者かに背中を強く押されたみたいな、感覚があり転ぶ様にして仄暗い歪みに「捕まる!」そう覚悟した。刹那…。

 強い風が私の転ぶ先の軌道を変え、足首にまとわりついていた、何かを切り裂いた。
 前に倒れ込みそうだった身体が、背中から倒れてしまう! そう感じ痛みを覚悟した瞬間。


樹里じゅりさん! 大丈夫ですか!?」

 せつくんが転びかけた私を、小さな体で抱きとめ、見えないなにかと対峙しているみたいに見えた。

 少し遅れて、詩紋しもんちゃんやロゼくん、千鶴さんも来てくれる。

 何も見えない空間から「ちっ」そんな舌打ちが聞こえたかと思うと、その場の禍々しさが嘘のように消え去った。


 何が起きたかわからないままに、私はヘタリと地面にしゃがみこむ。

「………まだここでは…、危ないかもしれません。強い結界のある屋内に移動しましょう」

 せつくんが、真顔で言い放つ。

「うん……。まさか樹里じゅりさんに目をつけるなんて……。詩紋しもん達を狙うならともかく……、アイツラ……許せない!」

「安全なとこに行こ?」

 怒りを抑えきれないように、言い放つ詩紋しもんちゃんに、気遣わしげに言葉少なに、私に声をかけてくれるロゼくん。

 澱んでいた空間を睨めつけるようにみつめ、何か考え込んでいる千鶴さん。

「ありがとう…。何が起こったのか理解はできてないけれど……、助けてくれたのはわかる気がするから」

 精一杯笑ったつもりだけど、ちゃんと笑顔になっていたのかな? 心配かけていないかな。
なんとなく、みんなの態度を見ていて感じ、そしてわかってしまった…。

 多分、せつくんを襲ったような、何かに襲われたのだろう。

 私を人質に取れば、みんなが種を生み出すと思われたのかな。まだ出会って間もないのに、足手まといにしかならないなら、みんなはいなくなってしまうのだろうか。

 ここ数日の幸せな時間が、幻の様に壊れていく気がして、私は何も言えなくなってしまった。
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