上 下
34 / 50
天敵

天敵1★

しおりを挟む
 ★★★

 痣の浮かぶ足に、うまく力が入れられなくて、せつくんが、私をまた抱き上げる。またもやお姫様抱っこ。ごめんね、せつくん……。

 申し訳ないのだけど、体の震えが止まらなくて、せつくんの温もりに、心の強張りが少しずつ解けていくみたい。

「迷惑かけてごめんね……。助けてくれてありがとう」

 そう言い、せつくんの首に抱きつくと、何故だか彼は息を呑んだ。

 キッチンにつくと、詩紋しもんちゃんが椅子を引いてくれて、せつくんがそこに私をゆっくり座らせてくれる。

「大丈夫……?」

 ロゼくんはそう言って、私の顔を覗き込むと、膝の上に乗ってきた。私を安心させるように首に手を回して、ぎゅっと抱きしめてくれる。

詩紋しもんだって、樹里じゅりさんにハグしたいんだよ!」

 そう言って私の腕に、抱きつく詩紋しもんちゃん。温かいな優しいな。


 ★★★

 そんな事を痛感していると、「これでも飲んで、少しでも、気分が紛らわされるとよいのですが……」

 そう言いながらせつくんが、温かいココアを淹れてくれていた。お礼を伝えて一口飲むと、また温かい気持ちになる。

 メープルシロップの入った芳ばしさが香るのに、とても優しい味わいのココア。多分、ピュアココアを牛乳で丁寧に練って、砂糖の代わりにメープルシロップを入れてくれたんだろうな。メープルシロップの様な甘さや香りを感じるけど、すごく優しい味が口の中いっぱいに広がる。


 詩紋しもんちゃんもロゼくんも、ココアを羨ましそうに見てるから「仕方ないな…」そういうとせつくんは、全員分のココアを淹れていた。


 ★★★

 しばらく経ち、私が落ち着いたのを見て、千鶴さんも口を開く。

せつ、アイツラにやられたのか? ハクビシンの奴らに…。どう見ても樹里じゅりちゃんの足首に残る痣も、アイツラのものと同じようだし…。龍脈が活性化した事や、僕たちが居心地よくて集まってしまった事で、目には見えない異変があるんだろうね。だから、変化の中心として樹里じゅりちゃんが狙われた……。そう考えるべきじゃないかな…」


 その言葉に息が詰まりそうになる。

 きっとあやかしの木が、自分の意志で動き回るほど元気な事や、彼らが集まってきた事、よくわからないけど『龍脈』というものが、それの上にあやかしの木を植えてしまった事……。それらが原因で、もう彼らとは会えなくなっちゃうのかな。


 私以外の人間に、彼等雪くん達を迫害や利用をされたくなかった。だからその事については気をつけなきゃ…、そう思ってはいたけど、全然守れてなかったんだ……。

 そう思うと、力のない自分が不甲斐なくて唇を噛みしめる。

「わがままかもしれないけど……、みんなと一緒にいたいよ……。せっかく知り合えたのにこのままお別れなんて嫌だよ…」

 思わず口に出してはいけない思いが、溢れてしまった。ずっと忙しい両親にも、わがままは言わないようにしてたのに。私は一人でも、淋しくないって思ってたのに。

 彼らと過ごした時間は、短いけど濃厚で、一人でも大丈夫!淋しくないって、気がつかないふりをしていた心の穴を、優しく暖かく埋めてくれた。

 大人なのに情けない……、お別れなんて嫌だなって思う程、涙が止まらない……。


「大丈夫です。僕たちが樹里じゅりさんを見捨てて、このまま離れるとでも?」

 そう言い、私の頭を撫でてくれる。
 なんだろう、このショタは本当にイケメンだな……。

「僕たちが、アイツラを2度と手出ししたくならない様に、きっちり絞めれば、良いだけですから!安心してください」

せつに大ケガ負わせた、お礼もまだしてないしね…。どう返してあげたら、アイツラ喜ぶのかしら…」

樹里じゅりさん泣かせたの…、許さない……」

「こんなに愛らしい女の子を、泣かせるのは良くないよね。それに躾は大切だよね…、どう料理しようか……」


 あれ? うちの可愛い文鳥あやかしさん達、いい笑顔なのに、目が笑ってないような? 全員がすごい黒いオーラを出してる様に、感じるのは気のせいだよね……? 思わず驚きすぎて涙が止まる…。

 残りのココアを味わいながら、「そんなはずないわだってみんないい子だもの……」と、感じた事を誤魔化すのだった。
しおりを挟む

処理中です...