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第3章 (元)魔王と勇者は宇宙樹の種子と
15話2Part そしてこっちも何者かと対面を...?
しおりを挟む「......げっ」
......兵庫県明石市、もう既に日の入りを過ぎ完全に暗くなった望桜と別れ、バイト上がりにちょっとコンビニに寄ってビニール袋片手に瑠凪はガラス戸の自動ドアを出た。そしてその直後に入れ替わりでコンビニに入ろうとしていた人物の顔を見て思い切り不満を顕にした。......それぐらい、瑠凪にとっては会いたくない人物だったのだ。
「いやげってなに......何ですか!!」
「堕天使に敬語使う大天使とか面白すぎるんですけど......ww」
「不敬罪にでもなったらどうするつもりなのさ!......なんですか!!」
「なるわけないだろそんなの!元大天使筆頭だし、ましてや堕天した後なんだから一介の悪魔扱いしてもらわないとなんか釈然としないんだよ......特にお前達7大天使相手だとね......」
そう言って瑠凪は目の前の人物の名前を口にした。
「......大天使ガブリエル」
......7大天使·ガブリエルだ。180cm弱の身長と天使の中では平均的な体躯、外ハネの緑髪と頭の装飾品から伸びるエメラルドグリーンのリボンが夜風に踊らされてひょこひょこと揺れている。瑠凪の方を真っ直ぐ見据えている瞳は、淡い黄色で全体が染まっている。
瑠凪の嘲笑混じりの物言いにガブリエルは半分呆れながら足を半歩前に出し、そのまま怠そうに言い返した。
「あのねぇ......貴方様が堕天してから、天界はすっごく荒れてるんだ!貴方様は主のお気に入りだったし......貴方様の所為で僕達も忙しくなった......"枝"やら"果実"やらの回収で......」
「......待って、"枝"の回収をしてるのは知ってたけど......"果実"の回収も始めたのか?」
そのガブリエルの口からほいほいと出てくる文句の中で大事なことがさらっと流されかけたのに瑠凪は気づき、それを拾い上げて掘り下げた。
「ああ。まあ僕はミカエル様から主の命令を間接的に受け取って実行してるから詳細までは知らないよ?」
「あ、そう......ってことはお前らが聖火崎と帝亜羅、フレアリカを襲った時には既にその命令は......」
「下ってなかったよ、あの時は単純にベルの持ってる聖弓を奪いに行っただけさ。まあまさか聖剣も持ってるとは思わなくて、後でミカエル様に叱責されたけど......」
......ガブリエルは日本では1番知名度の高い天使だ。"天使といえば?"と問えば大多数の人間がガブリエルの名前を口にするだろう。つまり日本の中ではそれだけ"天使の代表"であり大きな聖なる力を持っているとされているということだ。
「......天界では基本的に、生まれた順番で序列が決まるからな。ガブは確か......」
「7期生だよ。まあ今は少なくともイェグを除く4、5、6期生の奴らよりは偉いけど......」
「あー......まあそれくらいだったらミカエルには敵わないか......ミカエルはウリエルと同じ1期生だからね」
......しかし、天界でのガブリエルの地位は"7大天使"の中の第5序列で、上にミカエル、ウリエル、ラファエル、イェグディエルがいる。そして序列は基本的に生まれた順番で決まり、生まれた時点での序列位から天軍の練兵訓練や知能育成訓練等の成績で序列を上げていき、上位7人が"7大天使"という肩書きとそれに見合った権力を与えられる。
1期生がウリエル、ミカエル。2期生がラファエル、3期生がバラキエル、セラフィエル。4期生がイェグディエル、7期生がガブリエルだ。天使の中では決して神気の受容量が多いわけではなく、7大天使の中でも最低の受容量なのがガブリエルだが、そのぶん天軍練兵での高い近接戦闘能力で7大天使の座に滑り込んだ武闘派天使である。
かつては雲の上の存在、そして今は地の遥か下の存在である堕天使ルシファーを目前に、大天使聖ガブリエルは軽い様子で問答への受け答えをこなす。ガブリエルのその動作が"天使"も"悪魔"も想像上の生物であるとされているここ日本で事を構える気はない、とはっきり示していた。
「その計算でいくと貴方様は1期生なの?」
「や、僕は0期生だよ」
「はあ、どーりであんな桁違いの力を......」
......前に1度、ガブリエルはまだ瑠凪ことルシファー......ルシフェルが熾天使だった頃に戦闘しているのを見た事がある。練兵訓練にも知能育成訓練どころか仕事の際にも滅多に顔を出さないことで有名で、ガブリエルもその噂を聞いて"人間や下級天使達から崇拝されている天使なのに怠惰で仕事をしない人"だとばかり思っていた。
しかし事実は違った。仕事をしないのではなく、単純に働く機会がなかっただけなのだ。天界や唯一神を信仰する"聖教信者"に危機が迫った時に、彼らをその身に宿る強大な力で護る事、それが熾天使ルシフェルに与えられた仕事であった。
彼の線の細い体とそれに比例して細い白磁の指で蒼色の法術陣をさっと描きあげ、勢いよく蒼の爆炎を悪へと叩きつけると、その瞬間とてつもない爆音と共に神気の波が数kmにも渡って同心円状に拡がりその刹那で悪は黒い塵となって波に埋まり邪な力は微塵も残らなかった。
近くで戦闘していた悪魔も身を焼かれ、信者や騎士、天使は吹き飛ばされないように何かしらを掴んで必死に耐えなければ世界の彼方まで飛ばされそうなほどの凄まじい威力の攻撃法術を扱った直後も、いつもと変わらない飄々とした態度で自身の執務室のある神殿横の摩天楼·総王宮へと戻っていく。
"聖なる焔"で危機を弾き悪を滅ぼす為に尽力し、"聖なる光"を怯える者や迷える者に与えて救いの手を差し伸べる。その姿にガブリエルは感銘を受けて、自身の世話係であり現在は直属の上司となったミカエルに"僕もああなりたい!"と口煩く言っていた。......今考えるとすっごい迷惑だったろうなあ、ミカエル様......
「......ちょっとちょっと、こんな歩道のど真ん中で考え込まないでよ......!」
「へ?あ、ごめん」
......そうガブリエルが考え込むこと数分後、昔のことを思い出してぼーっとしていたところに自身の視線のちょうど下から濃い黄色の瞳が覗き込んできているのに気づき、はっと我に返ったガブリエルは小さく謝りながら後ろに1歩後ずさる。
「大天使がこんな道端で考え事なんて......信者がいたら拝まれちゃうかもねぇ?ww」
「聖教信者はここにはいないよ......」
瑠凪の若干腹黒い意味のこめられた言葉に半ば呆れながら、ガブリエルは言葉を返した。......本当に自身が憧れていた大天使筆頭熾天使"光をもたらす者"であるルシフェルと同一人物なのだろうか?と頭の中で審議が繰り返されているのをガブリエルは外には出さない。あくまで平常心、無疑心、あれはもう自身の記憶の中だけの人だ......
「それはそーと......最近は物騒だから、僕はそろそろ帰らせてもらうからな!」
「んな急に言われても......ってか別に引き止めた訳じゃないんだから、さっさと帰ればいいじゃない」
MINEの通知を受け取ってプッシュ通知が瑠凪のスマホに入り、今までの余裕ぶった態度とは打って変わって焦る様に歩み始める瑠凪の言葉にガブリエルは今まで以上に顔を顰めて言い返した。
「ミカエルによろしくー!!!」
「はいよぉ~......って、これ天使と悪魔の会話じゃないような......まあいっか」
そしてここ10数分の瑠凪との会話内容を思い出して若干の違和感を感じたガブリエルだったが、くだらない......とその違和感について考える事を数秒すら経たずに放置した。
──────────────To Be Continued───────────────
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