Rotstufen!!─何もしなくても異世界魔王になれて、勇者に討伐されかけたので日本に帰ってきました─

甘都生てうる@なにまお!!

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第4章 (元)魔王と勇者の憩場に

26話9Part Fake World Uncover⑨

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「危なっ」

「ぎゃああああああああああああああ!?」

「聖火崎さあああああああああああん!!」


 鐘音は帝亜羅を抱えて寸での所で逃げ出したが、聖火崎はしっかり被弾した。

 勢いよく伸び続けるトゲに押され、そのまま近くの高層ビルに衝突した。

 衝突の直後にトゲは霧散し消え去り、大きくへこんだビルのくぼみに力なくのしかかった聖火崎の肩や脇腹、太腿ふとももには痛々しい傷が刻まれている。


「聖火崎さんっ!!......ぇ、うそ......」


 ピクリとも動かない聖火崎を見て、帝亜羅は目に涙を浮かべながら震えた声を上げる。鐘音はその横で、唖然としたままその様子を見つめていた。


「ベルゼブブの言う通り、外に出られたからって油断するからこうなるんですのよぉ?」

「あ......」


 そんな2人の元に、


「ほら、早く始末しておしまいなさい。貴方も彼処の世界ウィズオートに、帰りたいわよねぇ?」

「......ガルダ、」


 赤と黒の髪をゆらゆらと揺らしながら妖美に笑う、ガルダ=オーヴィラリが鐘音の方にゆっくりと話しかけながらやって来た。

 帝亜羅がふいと彼女の方を見ると、彼女の元に霧散したトゲが液体となって戻ってきていた。


「あなたが、今......聖火崎さんを......」

「ええ。だって彼女は、わたくし達の標的ターゲットですもの」

標的ターゲットって......」


 ガルダの言い草に、帝亜羅の胸の内で呆れと怒りがふつふつと湧き始める。


「聖火崎さんがあなたたちに、一体何したっていうんですか」

「国の政治の在り方に、必要以上に口を出しすぎた結果がこれよ。大人しく、上層部の命令に従っていれば良かったものを......」

「国の在り方って......あなたたちの政治は、国民のためになってるんですか!?なってないから、聖火崎さんたちが頑張ってるんじゃないんですか!!」

わたくしには分からないわぁ。だって、わたくしは政治家でも大臣でも何でもないんだもの」

「だからって......「帝亜羅」


 まだまだ言い足りなさそうな帝亜羅を、鐘音が横から制止した。


「鐘音くんっ、私は「いいから」


 それでもなお口を開こうとする帝亜羅を止めながら、鐘音はガルダの方に目を向ける。


「......た、聖火崎は......ベルは、僕が殺す」


 そうガルダに向けて言う、鐘音の声は震えていた。


「だから、帝亜羅は見逃して欲しい」

「え......鐘音くん......?」

「......そう、別にいいわよ。別に天使の資格を持っていて天界に所属していない人は、他にも数人いるし......そこら辺に関しては、"彼"が後々手回ししてくれるはずだから」

「......?......ありがとう」


 鐘音からの要望に、ガルダは承諾しつつも少し不服そうにしている。

 鐘音は礼を述べたが、何かが引っかかったのか終始不思議そうにしており、帝亜羅は別の部分が引っかかって頭上に疑問符を浮かべていた。

 そんな、2人の事を数秒間眺めていた、ガルダの口元がくいっと歪められる。


「......でも、片方はダメねぇ」

「......!」

「だって貴方、さっきまでの様子を見ていてとてもじゃないけど、トドメなんて刺せそうになかったもの。それじゃあダメ、ダメなのよ。......分かるでしょ?」


 ガルダの歪な笑み混じりの返答に、鐘音は怪訝そうな表情を浮かべて、


「......覚悟は、決めたから」


 そう一言、ぽつりと返す。


「......ふふ♪」


 しかし、その一言はガルダの恍惚とした笑いに容易く一蹴された。


「残念だけれど、無理だわぁ」

「......は?」

「無理なものは無理よぉ。貴方にやらせたら、妙な所でトドメを刺しあぐねて、生かして逃がしちゃいそうなんだもの」

「っ......しっかりやる、から」

「ダメよ。生半可な気持ちで事にあたろうと思っているのなら、余計な手出しせずにそこで大人しくしてなさい」


 ガルダの手が、鐘音に向けられる。


「かっ、ぐ......」

「っ!!鐘音くんっ!!」


 その瞬間、鐘音は喉元を押さえて浮遊したままうめき始めた。すぐ後ろから帝亜羅が鐘音の体を支えながら声をかけるが、


「っぎ、ぃ......」


 返ってくるのは辛うじて絞り出された、弱々しい苦痛の声だけであった。


「しっかりして!!鐘音くん!?鐘音くん!!」


 帝亜羅は鐘音と聖火崎の2方で交互に視線を行ったり来たりさせて、小さく1回だけ頷いた後、鐘音の肩を叩いて声をかけ続けた。

 ガルダはそんな2人を後目しりめに聖火崎の方に向き直り、そちらに先程鐘音に向けてやったように手をかざそうとした、その時、


「死なないでぇー!!あぁー、こんな所で死に別れるなんてぇ......うえぇん......」

「てぃあ?、ごふっ......」

「はあ......?」


 帝亜羅が、鐘音の肩に顔をつけて大声で泣き始めた。それが耳に嫌でも飛び込んできて、ガルダは少し呆れながらもため息を1つついて振り返る。


「大丈夫よぉ、死ぬほど強くないから......」

「うえええん......で、死ぬほど強くは......って、何をですか?」


 きょとん、とした表情でずっとそう言う帝亜羅に、ガルダはしらーっとした冷ややかな視線を向ける。

 それに対するガルダの返答の第一声は、「はあ......」という、ついさっきぶりのため息前の呆れて出た掠れた声であった。


「......血よ、血。私は人や獣、悪魔とか......まあ何でも、あらゆる生き物の血液を操ることができるの。生まれつきね」

「......なるほど、納得です!!」

「あっ、そう............ならいいわ......」


 帝亜羅のどこかあっけらかんとした物言いに、ガルダは再三ため息をつかざるを得なかった。


「......!......あっ、あともう1つ!!」

「まだ何かあるの!?」

「あと1つだけですから......」


 踵を返そうとしていたガルダは、再び帝亜羅に呼び止められる。


「はーぁ......もう、何よしつこいわねぇ......」

「本当に、1つだけですから......」


 もう既に不機嫌全開なガルダを前に、帝亜羅はガルダの方を真っ直ぐ見据えて、口を開く。


「......ガルダさん、今、本当に本心から話してますか?」


 そう、訊ねかけた帝亜羅の瞳は、普段の色とは似ても似つかない程、


「............!......やはり、貴方は......」


 ......明るく淡い、薄黄蘗うすきはだ色をしていた。


「ぅえ、ちょっ!?」

「............やはりこの子、置いてはおけないわ」


 その目を見て、ガルダは顔色をサッと変えて帝亜羅の腕を両手で掴み、強く引っ張った。


「......!?ガ、ルダ......待っ......ぇほ、けっ......」


 それを見ていた鐘音が、帝亜羅の方に這い寄ろうとした瞬間、


「この子も連れてい......「せおらああああああああああああ!!!」


 帝亜羅の目の前スレスレを、鋭い槍と流れるような猩々緋しょうじょうひの髪が大きな雄叫びと共に一瞬で通過し、


「な!?くっ......!」


 その直後に、帝亜羅の耳がガルダの悔しそうな声を拾い上げた。

 そのままガルダは後方に大きく弾き飛ばされ、少し遠くのビルに激突した音と苦しげな声が後から聞こえてきて、彼女が不意を突かれそこそこの傷を負った事がその場にいた全員が察した。


「......!」

「翠川さん......!」

「......すまない、聖火崎からテレパシーSOSは届いたのだが......遅くなってしまった」


 帝亜羅達3人を背に空に浮く翠川......こと聖槍勇者·ルイーズは、ふう......と小さく息を吐く。

 ガルダがすぐには再起しなさそうなのを確認した後、翠川は顔だけこちらに向けてそう謝罪の言葉を述べた。


「あー、痛かった」


 その後ろから、血だらけでどこそこ破けまくったスーツをまとった聖火崎が、肩を拳でとんとんと軽く叩きながらやってきた。


「聖火崎さん!無事でよかったぁ......」

「心配かけたわね。私、こう見えて結構丈夫なのよ!だから大抵のことじゃ平気だし、」


 そう言って、聖火崎は自身の胸を押さえる。

 その辺は、肩や脇腹といった近くの部分から出血した血を浴びたり、崩れたコンクリート等の粉を浴びたりして汚れてこそいるものの、衣服自体の損傷は見受けられなかった。


「即死だけは免れたから、回復魔法ヒールで出血だけでも抑えられれば何とか動けたし、ルイーズも来てくれたから今はもう元気ピンピンよっ!」

「よかった......本当によかったです......!」

「もう、大丈夫だからね。それじゃあ......帝亜羅ちゃんは、鐘音を連れて後ろに下がっててちょうだい」

「後は、私達に任せてくれ」


 聖弓勇者聖火崎聖槍勇者翠川は、タイミング良く瓦礫から出てきたガルダ、そしてその後ろで絶賛葵雲と戦闘中の海獣を見遣る。


「さっさとこの件片付けて、皆で焼肉にでも行きましょー!!」


 そして、聖火崎の勇者としての責任と欲たっっっぷりの叫び声で、皇国政府·聖教教会の連合機関との戦の、序戦第2ラウンド再開が高々と宣言されたのだった。



 ──────────────To Be Continued─────────────


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