Rotstufen!!─何もしなくても異世界魔王になれて、勇者に討伐されかけたので日本に帰ってきました─

甘都生てうる@なにまお!!

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第5章 堕天使は聖教徒教会の

29話4Part 年明け早々の悪魔達④

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「............い、今......?」

「今......?」


 今............いま............ima............なう............?頭の中で"今"という言葉が4週ぐらいぐるっと廻った後、


「............へぁ......?」


 めちゃくちゃ頼りない変な声を上げて、望桜はますます怪訝そうに顔を顰める事となった。


「今、か......」


 望桜の言葉に、的李はこくりと頷く。


「今......って、こうやって人に詰め寄られてる時ってことだよな?」


 この問いに、的李は今度は首を横に振った。


「......えと、」

「おい、まさか」


 なんかもう信じたいけど信じられないような事を言われそうな気がしたので、望桜は腹を括って的李の方をじっと見つめる。


「......ま、望桜が近くにいる時......」


 的李本人も自分が何を言っているのかよく分かっていない(というよりかは理解したくない)らしく、目を白黒させながらも恐る恐るそう言った。


「......まじ?」

「本当、なのだよ......自分でも信じられないけれど、というより信じたくないけれど」



 望桜としても割と本気でありえない事なのだ、これは。嬉しいけど。嬉しいけれども。


「お前が俺にそーいうこと思うような動機って、はっきり言ってないよな。だって俺は戦えねえし、計画性ねえし、料理とか日本に来てからのことでもお前に任されるようなことないわけだし」

「で、でも......んー......」


 ......これはお世辞でもなく、本当に、望桜よりも的李の方が色々な面でのスペックは高いはずなのだ。

 剣術に長けていて近接戦闘が強く、物事を冷静に見られて先の見通しも立てられて計画性があり、料理面に関しては的李は一切できないが、だからといって望桜が料理担当になるほど腕が良い訳でもない。

 何回考え直しても、的李に望桜が惚れられる要素など1ミリもないのだ。一般的にスペックだけ見れば。

 そこまで考えて、望桜は思った事をふっと言ってみた。


「......あ、もしかしてお前って駄目な奴放っておけなくて好きになるタイプ......」

「違うのだよ!?違う、けれど......」


 おい、それって俺の事駄目な奴認定してる反応だよな......そこだけが、望桜にとってはちょっぴりショックだった。分かってはいたけれど。


「......」

「......」


 お互いがお互い、相手の言い草を十二分に理解した上で、受け止められずにいた。

 沈黙が10数秒続いた後、


「......あ、ひょっとしたらお前、酒の影響とかで勘違いしたのかもな」

「あ......」


 ふいと、昨晩の的李の様子を思い出した望桜が、落ち着かせるためにも一旦そう声をかけた。

 ......酔いに酔って顔真っ赤にして潰れていたレベルなのに、後日影響がないなんて事はないんじゃないか?

 そんな"酔った勢いで勘違い"という、駄目な大人の言う事No.1と言っても過言ではない言い訳を、酒を飲んでから丸1日後に使おうという何とも無理がある提案に異を唱える者は誰もいなかった。


「でも今、動悸以外に特に問題ないんだろ?」

「ま、まあ......」

「なら、今日は気分転換にでも外に風呂入りに行こうぜ」

「は......?」

「こういう時は、一旦気晴らしに好きなことするとか、逆にいつもとは違うことするといいって聞いたからな」

「っ、ちょっと望桜、痛っ!」


 こういう時はリフレッシュ現実逃避するのが1番、そう思って望桜は戸惑う的李の手を割と強めに引いてタオルと着替えだけ取り、急いで外に出たのだった。



                                            ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇



「っはー!!久しぶりに来たけど、やっぱ広い風呂っていいなー!!」


 ......望桜が的李の手を引いて家を飛び出してから15分ほど後、望桜と的李は近所にある銭湯にて、客が他に1人もいない浴場にて呑気に湯に浸かっていた。

 ご飯時だからなのか、望桜達が来た時にちょうど出てきたおじさん3人組以外は客の姿が見えない。


「望桜、なんでここに銭湯があること知ってたんだい?」

由多よしださんが前に言ってたんだ。水道管の工事とか入る時には風呂とか使えなくなるから、銭湯に行けって」

「なるほど......」


 望桜達の住むマンションであるヨシダパークハイムは、外装や中の設備等こまめに改築する事で見かけ等では分かりづらいが、一応築数10年経っている中古のマンションだ。

 そのためなのか、管理人である由多が他のマンション以上に水道管やらガス管の点検作業にかなり力を入れており、欠陥が見つかればすぐさま工事を決定してしまうレベルで設備の整備に敏感。

 だから、住人には予め"近所の施設まとめマップ"とやらを入居時に配布し、いきなり工事が入ってもインフラ的な面では大丈夫なようにしている。

 管理人さんに助けられたな......そんな事を思いながら、望桜は改めて的李の方に向き直り、


「......ってかお前、髪長いとこあったんだ」


 と、的李が後ろで1つに纏めている一際長い髪の房を見ながらそう言った。


「え?ああ......これのことかい?」


 そんな望桜の方を見遣ってから、的李は自身の後頭部辺りで結んだ髪をぽふぽふと触る。


「そーそーそれ」

「私、いつも耳の後ろで編み込んで留めているけれど......まさか、140年一緒にいるのに気づかなかったのかい?」

「いや、編み込んでるから長いとこがあるんだろうな~とは思ってたが、そのくらい長いとは思ってなかった」

「あーそういう......まあ、訳あってここだけ伸ばしてるわけだけれど......」

「そうなのか!」


 ......横髪が生えている辺りから後ろに持ってきて結んで、その結び目から更に15cmほどある髪をくるんと輪っかにして纏めている。的李が頭を動かす度にぽよんぽよんと動くので、尻尾のようで可愛らしい。


「......にしても、来てよかったのだよ。何だか............落ち着いたような、気がする」

「ならよかったぜ!」


 ちゃぷ......と湯を両手ですくって、的李は顔を軽く洗う。

 その時の表情は、先程までのどことなく焦っているような戸惑いの表情ではなく、恐らくいつも風呂に入る時に洗顔する際と変わらない表情なのだろう。

 平時とほぼ変わらない様子なので、リフレッシュは上手いこと成功したらしい。

 そんな風に落ち着いた2人の顔は、あたたかいお湯に逆上のぼせてすっかり赤くなっていた。


「......どうする?もう上がるか?」

「......ん、だね」


 他の客の姿もちらほら見え始めた頃に、2人は銭湯を後にしたのだった。



 ─────────────To Be Continued─────────────


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