Rotstufen!!─何もしなくても異世界魔王になれて、勇者に討伐されかけたので日本に帰ってきました─

甘都生てうる@なにまお!!

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第5章 堕天使は聖教徒教会の

31話5Part 晴耕雨読⑤

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 ......アズライールのどことなく小さな"イラッ"を滲ませた笑いの後、約1万人はいた南方地方騎士団騎兵部隊の騎兵達が何の前触れもなく事切れた。


「......ねぇ、まだ分かんないかなぁ?騎兵隊の隊長さん」


 アズライールは明らかに機嫌が悪い。表面だけ見ても冷たく、奥の奥の奥まで覗いたって一片の感情も抱えていない冷徹な瞳で、隊長を見据えていた。


「っ、な、何がだ」


 明らかに気圧されている隊長は、1m程離れた場所でその場から1歩も動こうとしていないアズライールから、馬を動かして1歩後ろに距離を取るように移動する。


「......はぁ、この分じゃ何時間睨んでても気付かなそーだねぇ。んーまあ、信じらんないか。うん、そ、そーだよね。あんまし気が回んなくってごめんねぇ?」

「......」

「は......?」


 しかし、顰めっ面のアズライールの口から飛び出してきたのは、あっけらかんとした声色に乗せられた謝罪の言葉だった。

 これには、隊長は黙り込み副隊長は思わず声を上げる。


『............あれ、隊長と、その横の奴はまだ殺されてない......』


 遠くで状況を観察している聖火崎も、先程痛切に実感させられたアズライールの異才の恐ろしさでかえって冷静になった頭で、現状を振り返っていた。

 ......が、しかし、


「......あ、こーすれば分かんじゃね?」


 アズライールが隊長に見せつけるようにバサッと大袈裟にひるがしてローブを脱いでみせたことで、


『は、嘘でしょ!?やばいやばいやばいやばいやばやばやばっ......!はっ!?嘘、ちょっと待って待って待ってマジでマジのやつ?』


 一気に、先程と同じ位......いや、それ以上のパニックに陥ってしまった。


「っ、」

「!!」


 聖火崎とほぼ同タイミングで隊長と副隊長もひゅっと息を呑み、


「聖火崎?何をそんなに慌てて......彼奴あいつらも......」


 ローブを脱いだ姿のアズライールを見ても特に何も掴めておらず現状が分かっていない或斗だけが、ただただパニくる3人を見て頭上に疑問符を浮かべていた。

 ......アズライールがローブの下に着ていたのは、とある濃紺の軍服であった。

 濃い青色をベースに、白色のラインが所々に走っていて中央には黄金のボタンが3つ、縦に仲良く並んでいる。

 そして肩には、どこかの部隊か何かへの所属を示しているらしい文様が載ったタグが着けられていた。

 そして、そんな軍服姿になったアズライールは、"これなら貴方あなたでも分かりますよね"と言わんばかりの何とも言えないうざったらしい表情で隊長と副隊長を見つめている。


「もっ、申し訳ありませんでした!!」

「まさか、NeutraノイトラーlGriffルグリフの一員の方だったとはっ......我々の御無礼を、どっ、どうかお許し下さいっ!!」


 にまにまと悪戯っぽい煽りの表情を浮かべるアズライールに対して、隊長と副隊長は慌てて馬から降りてガバッと勢いよく頭を下げて、正座をしてから地面に額を擦り付けた。......所謂いわゆる、土下座というやつだ。


「一員ってゆーか、一応組織長ボスなんだけど......」


 そして続け様に謝罪の言葉を口にする2人に対してアズライールがさらりとそう告げると、


「「っ!!!」」

「ぷっ、ひゃははははははwww」


 面白いように顔を真っ青にするので、アズライールは目の前で腹を抱えて大爆笑してしまった。


「......なあ聖火崎、のう......のい、のいとらるずりふとは何だ......?」


 そんな3人を訳も分からずぽかんとしたまま見つめていた或斗は、聖火崎におずおずとそう訊ねかける。


「騎兵隊の隊長共の反応を見るに、相当皇国での位が高いみたいだが......」

『............NeutraノイトラーlGriffルグリフ......あれはね、皇国政府......いや、皇室が直々に金払って雇ってる便利屋集団よ』

「便利屋......?」

『......通称、奇傑きけつのマフィア。めちゃくちゃ腕が立つ、変わり者の殺し屋であるボスと、その仲間?っていうか友人?6人が集まってできてる小さな民間軍事組織なんだけど、めちゃくちゃ強い......らしい、のよね』

「らしい?」


 聖火崎の妙な言い回しというか言いよどみが気になった或斗は、間髪入れずにすぐに聞き返した。

 すると、


『......絶対的中立者』

「は?」


 聖火崎はぽつり、と何かを呟いた。

 何だその今までの話との前後関係が一切不明な単語は、そう思って思わず声を上げた或斗だったが、


「......ああ、なるほど」

『分かったでしょ?』


 すぐに納得したような表情を浮かべてこくりと頷き、聖火崎のどこか得意気な問い掛けに「分かった」と返してやった。


「NeutralGriff......アズライールあいつのことだから、大方おおかた全ての情報を掌握した上で、どの勢力にも属さない組織になろう、的な?意味合いなんだろう」

『世渡り上手に、か......』


 聖火崎の何だか意味ありげなぼやきは流して或斗はアズライール達の様子を伺うのに神経を傾注させる事にし、ようやく落ち着いてきたらしい3人の方に視線を向けた。


「あー、はははww......ふー、ん゛ん゛っ......失礼しました」


 目尻に涙を貯めてようやっと引いた笑いの波に咳払いを1つ、口に手を当てていかにも上品そうにした後、隊長と副隊長の方に乱れた服装を整えて胸に手を当てて、軽く会釈をしながら改めて簡潔な自己紹介の言葉を述べる。


「民間軍事組織、NeutralGriffの代表の者です」

「だ、代表......」


 ......たかが6人といえども、代表は代表。おまけに皇室が直属に雇っているとかいう、凄腕の殺し屋が代表でその部下も腕が立つ殺し屋ばかりの組織。

 皇帝をかしらに置く政府軍の中でも結構下の方の位である自分達と、皇帝から直々に雇われている目の前の青年とでは、政府軍内の地位や社会的な権力に天と地程の差がある。


「今回は皇帝陛下からの命を受け、南方領主ジシュの護衛に組織全メンバーを集めて皇都から南方まで大急ぎで向かっていたのですが......どうやら間に合わなかったみたいですね」


 アズライールがふいっと視線を動かした先には、或斗による毒殺で殺され、その後にアズライール自身の手で首を千切り取られて頭を砕かれた、無惨な姿の領主が転がっている。

 尿と血と唾液、その他諸々の体液に塗れてのたうち回ったような跡も見られる事から、かなり悲惨というか苦痛に悶えながら死んでいったのがよく分かる領主の遺体。

 それを隊長と副隊長も一瞥した後、隊長が口を開いた。


「わ、我々も騎兵を総動員して領主殿を守るべく尽力したのですが、1歩遅かったらしく......」

「分かってますよ、南方地方騎士団の基地からは距離がありますもんね。馬を全力で走らせたって20分はかかるのに、10分弱で館の護衛兵を全員倒すような敵相手に丸腰の領主を守るなどゲート術も使えない貴方方あなたがたにはほぼ不可能です。......ところで、仮にも皇室直属の組織の長相手に、先程までの隊長殿の部下達の態度は如何なものかとー......」

「そ、それに関しては、隊長の私に責任があります故、どんな罰でも甘んじて受けまっ......「そうですねー、本来なら不敬罪で火炙りの刑にでも処して頂きたい所ですが......」

「っ、」


 ......ウィズオート皇国において"政府を少しでも批判すれば即座に首が飛ぶ(物理的に)"のは常識なのだが、政府軍の中でも"自分より上の立場の人間に対して失礼な態度を少しでも取ると問答無用で不敬罪に問われて何かしらの罰が下る"というのもまた常識......というよりは法律として存在している。

 それは所謂"不敬罪"という"敬うべき相手に対して失礼な態度をとった"罪で罰せられるなんとも理不尽な法律で、その懲罰内容は失礼な態度を取られた側が本人の裁量と倫理観の中でどんなものにするのかを決める(滅多にないが、情状酌量の余地によっては刑罰が軽くなる場合もある)。

 そして、懲罰内容は大抵は禁固2年や地下労働5年といった、きついけれど死にはしない刑が下される。

 それだけに、今回のアズライールが望んだ"火炙り"の刑は、隊長達に"此方こちらが相当気に触るような態度を取ったのでは?"と本能的な恐怖を感じさせるような刑罰だった。

 そんな"火炙り"という単語を聞いた隊長がひゅっ、と無自覚に呑んだ息は細かい砂と共に肺に迎えられたが、咳1つすら吐き出せない。浅く呼吸する度に、やっぱり空気と共に砂を吸い込んでしまって喉が痛む。

 それでも隊長はアズライールに向けて下げた頭を上げられず、地味にパサパサしていてすぐに舞い上がる軽い砂が覆う地面に顔を擦り付けたまま、言葉の続きを静かに待つ事しかできなかった。



 ─────────────To Be Continued─────────────


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