台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた

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第3章

ナイトフライト・イズ・グッド(後編)

 ばすん!

 破裂音がして、スクロールから光の矢が放たれた。

 夜の闇に、美しい光の直線が描かれる。
 そして吸い込まれるように、海面へと消えていった。

 ホウキは高速で旋回を続け、台風から離れていく。
 モチコは振り返って、スクロールが着弾したあたりを見た。
 白い閃光が走ったのに続けて、ズーンという地響きのような音が聞こえる。

 凍結スクロールが……完璧に決まった。

「モチコ、ベリーグッド。満点だね」
「なんとか……、うまくいきました」

 パチパチと海面が凍っていく音が聞こえ、凍結した空気がキラキラと輝く。

「よし、タワーへ戻ろう」

 ホウキはスピードを上げ、しばらく陸へ向かって直進した。
 台風から離れ、だいぶ風が弱まったあたりで、一旦スピードを落とす。


「このあたりで、実験を始めようか」

 きた。実験。
 先輩は今日も忘れていなかったらしい。
 仕方なく、聞いてみることにする。

「……今日は何をするんですか?」
「今までは、どうにかして身体を近づける方向性で考えていたけど、発想を転換しようと思う」
「発想の転換……」

 なんだか嫌な予感しかしない。

「身体ではなく、心を近づける」
「心……。同じものを思い浮かべる、とかですか?」
「一緒にホウキを飛ばすイメージでやるのはどうかな」

 なるほど。
 今まではオーラを先輩に流し込むイメージでやっていたが、ふたりでホウキを飛ばす意識でやったら、変わるかもしれない。

 それなら――。
 ふと思いついたことを先輩に提案してみる。

「私が先輩に代わって、ホウキを握ってみるのはどうでしょう? ……二人羽織みたいに」
「いいね。ふたりでひとつになる感じだ」

 二人羽織なんて恥ずかしいけれど、思いついたんだから仕方ない。
 決して先輩と二人羽織で密着したかった訳ではない。ないです。


 さっそくミライアが制服の留め具を外して、前開きにする。
 そして器用に袖から腕を抜いていった。

 スカーフは巻いたままなので、ちょうどマントを被っているような感じだ。
 この場合は二人羽織だから、羽織と言うべきか。

「モチコ、準備できたよ」
「……はい」

 モチコの心臓はドキドキと速くなっていた。
 が、自分が言い出したことなので、やるしかない。

 おそるおそるミライアの制服の裾から頭を突っ込んで、両手を袖に通した。
 モチコは身体が小さいので、ミライアの制服のなかにすんなり収まる。 

 先輩の制服の中はあったかいし、いい匂いがする。
 先輩のなめらかな肌に触れてるし、なんなら鼻先が先輩の下着に当たっていて、もう頭が先輩で飽和状態だ。
 ああ、なぜか私は台風の夜空の上で先輩につつまれている……。

 ホウキの上で完璧な二人羽織が完成した。
 客観的にみれば変な状況だが。

「いい感じだね。じゃあ、さっそく実験しようか」
「なんだか頭が変になりそうなので、早めにお願いします……」
「よし、今夜はモチコとひとつになろう」

 先輩、その言い方はなんかやらしいです……と言おうとして、余計に恥ずかしくなりそうなので止めた。

 モチコは二人羽織した腕を、ぐぐっと前に出してホウキを握る。
 ミライアは腕を後ろに回して、モチコの腰のあたりを掴んでいた。

「うーん。ホウキを握ってないと手の置き場が落ち着かないけど、まあいいか。いくよ!」

 ミライアはそう言うと、オーラを練り始める。
 まばゆいオーラがモチコの身体ごと黄金色こがねいろに染めた。
 ホウキが一気に加速する。

「あ、そうだ」

 ミライアが何か思いついたようにつぶやいた。
 何だろう?

 と思った、その直後――。

「ひぁっっ!?」

 突然、足の付け根あたりがぞわっとして、モチコは変な声で叫んだ。
 太もものあたりで、なにか生温かいものがうごめいている。

「ここなら手が安定して、いい感じ」
「せっ、先輩……。あっ、くすぐったいです……」

 ミライアが後ろに回した手を、モチコのスカートのポケットに突っ込んでいた。

 予期せぬ手の侵入によるくすぐったさに、モチコはミライアの制服の中でモゾモゾと身じろぐ。
 吐く息が熱くなり、制服の中の温度がさらに高くなった。

「すぐ終わるから、少し我慢して。フルスピード行くよ!」
「うぇぇ……。ふぁい」

 モチコの曖昧な返事が届いたかは分からないが、ホウキはさらに速度をあげる。

 フルスピードに達すると、モチコはなんとか意識を集中させた。
 自分でホウキを飛ばすイメージをしながら、オーラを練る。

 緑色のオーラが泡のように吹き出し、ミライアの制服の中で黄金色と混じり合った。

 そのあと、いつものようにホウキが一瞬だけものすごい加速した。
 加速が終わると、ホウキはふたたびスピードを落とす。

「これでも変わらないか。まだまだ研究の余地がありそうだね」
「ふぁぁ……。なんとか乗り切った……」


 ポケットへ侵入する魔の手から解放されたモチコは、乱れた息を整えながらぐったりとしていた。
 妙に疲労感のある身体をモゾモゾと動かし、ミライアの制服から脱出する。
 二人羽織から無事に解放された。

 シグナスの仕事には少しづつ慣れてきたけれど。
 先輩のこの変な実験に、慣れる日は来るのだろうか。

 そんな日々の苦労はありつつも、この秘密の実験も、ほかに誰もいない夜だからこそ出来ることだ。
 なんだかんだで真夜中のフライトは楽しい。
 そういうことにしておこう。

 モチコはまだドキドキしている胸を押さえながら、ふぅと大きく息を吐いた。
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