台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた

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第3章

体調はFeel?隊長はCool。(中編)

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 モチコが中央展望室コントロールルームへ戻ると、シズゥがお茶の準備をしていた。
 台風は完全に過ぎ去ったようだ。

 お茶の用意されたテーブルにつくと、シズゥとリサも向かい側に座った。

「それでは~。今夜も魔女のお茶会のはじまり~」
「ありがとうございます。いただきます」
「今日は紅茶だよ~」

 さっそくカップに注がれた紅茶を口にすると、まさにザ・紅茶という感じの味だった。
 しっかりとした余韻があって、飲みごたえがある。
 モチコはお茶の味にあまり詳しくないが、これがいわゆるコクというものなのかもしれない。

「あら、この紅茶おいしいわ。高そうな味ね」
「さすがリサ、お目が高い~。夏摘みの茶葉でちょっといいやつにしてみた~」

 ほほう。高いと聞いてから飲むと、なぜかおいしさが増した気がする。
 モチコは一気に飲み干しかけていたカップの中の紅茶を、少しづつ味わって飲むことにした。
 そこでふと思い出す。

「あ、そういえば、謝らなくてはいけないことがありまして……」
「あら、どうしたのモチコちゃん?」
「この制服、少し破いてしまいました……。申し訳ありません」

 モチコはそう言いながら右腕のケープ部分をふたりに見せた。
 漁礁ぎょしょうでお手洗いの壁に引っかけたところだ。
 大きく破けている訳ではないが、少しだけ裂けて糸の一部がほつれている。

「ありゃ~。これは直さないとだねえ~」
「モチコちゃんが着てる制服って、たしか特別仕様だったわよね?」
「えっ!? そうなんですか!?」
「あ~。これね、魔導繊維で出来てるんだよね~」

 魔導繊維とは、簡単に言うと魔素マナを染み込ませた糸で織った布のことだそうだ。
 作るのにも、直すのにも、相当な手間と技術が必要となる。

 一般庶民が着るような代物ではない。
 当然、びっくりプライスだ。

「うあぁ……。修繕費用は私のお給料から引いておいてください……」
「モチコちゃん、大丈夫よ。おシズが直せるから」
「えっ! おシズさん、これ直せるんですか!?」
「直せるよ~。ま、趣味みたいなものだね~。モッチーは特別初回サービスで無料にしといてあげる~」
「ありがとうございますっ!! このご恩は忘れません……!」

 その後の話によると、アルビレオが着る制服にだけ、特別に魔導繊維が使われているとのことだった。
 海に落ちた時に身体が浮く効果と、雷に打たれてもある程度は服が身代わりになってくれる機能があるらしい。

 シズゥが直してくれることになり、モチコはひと安心してカップに残った紅茶に口をつけた。
 カップの中を覗くと、白磁に紅茶の色が良く映える。
 その美しく透き通った色が、奥様の琥珀色の瞳を思い出させた。

「そういえば、先日お屋敷で、ヴェネルシア伯爵様にお会いしま……うわっ!」

 突然、シズゥのまあるい顔がモチコの目の前に貼り付く。
 軽い雑談のつもりで出した話題だったが、予想外の食いつきだ。

 シズゥの身体は大部分がテーブルの上に乗り出していて、正面に座っているモチコと鼻の先がくっつきそうなほど顔が近い。

「モッチーその話もっと聞きたいな~。詳しく教えてよ~」
「お、おシズさん。わかりました……。そんなに近づかなくても話しますから」

 噂好きのシズゥは、この激レア情報に興味津々なようだ。
 モチコは奥様にお会いしたときのことを思い出しながら話し始めた。

 奥様が会話しながらもずっと本を読んでいたことや、紅茶のおかわりを淹れたこと、物語を読むよう薦められたこと。
 シズゥが細かいところまで聞きたがるので、あの日の出来事を、ほとんど最初から最後まで説明することになった。

「優れた魔女になるには、恋をしなさい、って言われました」
「なるほど~。恋かあ~」
「恋なんて、したことがないので良く分からないですけどね……」

 モチコがそう言うと、シズゥは妙ににやにやしていて、リサはなぜか目をきらきら輝かせていた。

「それならチャンチャルに聞いてみたらどうかな~」
「え? ちーちゃんですか?」
「あの子はたしか恋愛小説が好きだったはずだよ~」
「おおっ。物語が読めて、恋も学べて一石二鳥ですね」
「モチコちゃんの恋、私は全力で応援するわ!」

 リサは相変わらずきらきらと輝く目をしたまま、謎のエールを送ってくれた。

 そのあとも色々な雑談で盛り上がっていると、気づけばガラス窓の外が明るくなり始めた。
 もう夜明けが近い時間だ。
 お茶会はそこでお開きになった。


 モチコが中央展望室コントロールルームから螺旋階段を下りていくと、下からミライアの声が聞こえてきた。
 誰かと会話をしているようだ。

 下の待機室ラウンジで、ミライアと知らない女の人が立ち話をしていた。
 テーブル席にはマルシャも座っている。
 もうすぐシフト交代の時間なので、朝番のふたりが準備をしているところだったようだ。
 
 ミライアはモチコに気がつくと、隣にいるショートヘアの女の人に向かって言った。

「この子がモチコ。新しく入った私の相方」

(後編へ続く)
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