台風のよる、君ひそやかに、魔女高らかに

にしのくみすた

文字の大きさ
44 / 50
第3章

体調はFeel?隊長はCool。(後編)

しおりを挟む
「この子がモチコ。新しく入った私の相方」

 紹介されたモチコは、女の人に向かってぺこりとお辞儀をした。

「はじめまして、モチコといいます」
「私はアリサ。よろしく」

 クールな声だった。

 アリサが差し出してきた手を、モチコも握りかえして握手する。
 その手は特別大きくはないが、がっちりと自信を感じる握り方で、安心感があった。

 胸にはマルシャと同じ赤色のスカーフ。
 制服の左胸にあるポケットの上には、シグナスでの階級を示すピンバッジが光っている。

 丸いバッジに描かれているのは、白鳥のシンボルと、2つの星。
 前にシズゥから聞いた話によれば、2つ星は隊長の証だ。

「モチコ、シャワー浴びてくるから少し待ってて」

 ミライアはそう言うと、奥にあるシャワー室の方へ消えていった。

 残されたモチコは、アリサ隊長をあらためて見上げる。
 ミライアより少し細身だが、同じくらい背が高い。
 ショートカットの髪は、輝きのある金色。

 ミライアとは違うベクトルで整ったその顔立ち……。
 ハンサムな美しさ、とでも表現したらよいだろうか。

 この格好良さは、ミライアのファンとはまた別のタイプの人たちから、熱烈に好かれそうだ。

 そんなことを考えていたら、気づけば無言で隊長をじろじろと見つめ続けてしまっていた。
 隊長もずっと黙ってモチコを見ている。

 やばい、失礼だったかも。
 もしかして怒らせてしまった……?

「うぉぉぉぉーーい! 白おかっぱ、いつまで隊長と見つめ合ってんのよ!」

 たいへんよく響く大きな声が、部屋を震わせる。

 無言で見つめ合ったままの2人を見かねて、マルシャが声をかけてくれたのだ。
 正直、気まずいところだったので、この助け舟はありがたい。

「す、すみません。アリサ隊長の雰囲気が、その……格好良かったので、つい見すぎてしまいました」
「ふーん。隊長、褒められてますよ。良かったですね」
「ありがとう」

 隊長は控えめな笑顔をつくりながら言った。
 低くて芯のある、クールな声だ。

「白おかっぱ、夜中の台風はあんたが叩いたらしいわね」
「うん。先輩にリードしてもらって、なんとか」
「魔法が使えない白おかっぱにしては、少しは役に立つじゃない。ほんの少しだけど」

 モチコとマルシャがそんな会話としていると、アリサ隊長が口を開いた。

「君、魔法が使えないの?」
「あ、はい……。実はですね――」

 モチコは手短に、魔法が使えない体質について説明する。

 隊長が尋ねるのも当然だ。
 魔法が使えないのにアルビレオになったなんて、普通に考えれば何かの間違いだと思うだろう。

 隊長はしばらく無言で何か考えたあと、口を開いた。

「今度、私たちのフライトを見学にくるといい。何か参考になるかも」
「えっ、いいんですか!? ぜひ見たいです!」
「ミライアの飛び方じゃ、規格外だから」

 隊長はまた控えめな笑顔でそう言った。

 確かに先輩は飛ぶのが速すぎて、普通の飛び方の参考にはならない。
 他のアルビレオの飛び方を見せて貰えるのは、とてもありがたかった。

 隊長の提案にマルシャも賛同する。

「隊長、いいアイデアですね。それなら、朝番のフライトの日にしましょう」
「朝番の仕事も見てみたい! ぜひ!」

 モチコはぶんぶんと頭を縦に振って賛成した。

「朝番ならいつでもいいわよ。私はほとんど毎日いるから」
「マルシャ、そんなに働いてるの?」
「6色もいるのに、白組は夜専門で、黒は休職中。青はしばらく出張だし。黄組に負担をかける訳にもいかないから、結局は赤と緑の私たちが朝も夜も出ずっぱりよ」
「うわ……。大変だ」
「まあ、黒組か青組が戻ってくるまでの辛抱だから、別にいいけど」

 そんなシグナスのシフト事情を話していると、ミライアがシャワーを終えて戻ってきた。
 モチコの朝番見学の話を伝えると、ミライアも賛成してくれる。

「アリサ、うちのモチコをよろしく」
「わかった」

 ミライアとアリサ隊長のそのやり取りは、短い言葉の中にも長年仕事を共にしてきた信頼感がにじみ出ていて、なんかよかった。

 ミライアが『うちのモチコ』と言ったのも、モチコには誇らしかった。
 先輩のアルビレオとして認められているという実感が湧いてくる。

 それから白組のふたりは帰り支度をして、先にあがることになった。
 ミライアが螺旋階段を上り始めたので、モチコも後をついていく。

 モチコが帰りの挨拶をすると、隊長がモチコに向かって言った。

「次は朝のフライトで会おう。待ってるよ」

 隊長は言葉は少ないが、冷たい感じはしない。
 声はクールでも、中身はとても暖かい人のようだ。

 そんな隊長の横にいるマルシャを見ると、なぜかニヤリと不敵な笑みを浮かべている。

「今度、白おかっぱに、フライト中のカッコいい私を見せてあげるわ」
「おー。楽しみにしてる」

 モチコはマルシャに手を振って別れると、中央展望室コントロールルームでリサとシズゥにも挨拶をしてから、タワーを後にする。

 屋上展望台フライトデッキから飛び立つと、台風が過ぎ去ったあとの空には雲もなく、すっきりとした朝だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【純愛百合】檸檬色に染まる泉【純愛GL】

里見 亮和
キャラ文芸
”世界で一番美しいと思ってしまった憧れの女性” 女子高生の私が、生まれてはじめて我を忘れて好きになったひと。 雑誌で見つけた、たった一枚の写真しか手掛かりがないその女性が…… 手なんか届くはずがなかった憧れの女性が…… いま……私の目の前にいる。 奇跡みたいな出会いは、優しいだけじゃ終わらない。 近づくほど切なくて、触れるほど苦しくて、それでも離れられない。 憧れの先にある“本当の答え”に辿り着くまでの、静かな純愛GL。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

放課後の約束と秘密 ~温もり重ねる二人の時間~

楠富 つかさ
恋愛
 中学二年生の佑奈は、母子家庭で家事をこなしながら日々を過ごしていた。友達はいるが、特別に誰かと深く関わることはなく、学校と家を行き来するだけの平凡な毎日。そんな佑奈に、同じクラスの大波多佳子が積極的に距離を縮めてくる。  佳子は華やかで、成績も良く、家は裕福。けれど両親は海外赴任中で、一人暮らしをしている。人懐っこい笑顔の裏で、彼女が抱えているのは、誰にも言えない「寂しさ」だった。  「ねぇ、明日から私の部屋で勉強しない?」  放課後、二人は図書室ではなく、佳子の部屋で過ごすようになる。最初は勉強のためだったはずが、いつの間にか、それはただ一緒にいる時間になり、互いにとってかけがえのないものになっていく。  ――けれど、佑奈は思う。 「私なんかが、佳子ちゃんの隣にいていいの?」  特別になりたい。でも、特別になるのが怖い。  放課後、少しずつ距離を縮める二人の、静かであたたかな日々の物語。 4/6以降、8/31の完結まで毎週日曜日更新です。

とある高校の淫らで背徳的な日常

神谷 愛
恋愛
とある高校に在籍する少女の話。 クラスメイトに手を出し、教師に手を出し、あちこちで好き放題している彼女の日常。 後輩も先輩も、教師も彼女の前では一匹の雌に過ぎなかった。 ノクターンとかにもある お気に入りをしてくれると喜ぶ。 感想を貰ったら踊り狂って喜ぶ。 してくれたら次の投稿が早くなるかも、しれない。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

〈社会人百合〉アキとハル

みなはらつかさ
恋愛
 女の子拾いました――。  ある朝起きたら、隣にネイキッドな女の子が寝ていた!?  主人公・紅(くれない)アキは、どういったことかと問いただすと、酔っ払った勢いで、彼女・葵(あおい)ハルと一夜をともにしたらしい。  しかも、ハルは失踪中の大企業令嬢で……? 絵:Novel AI

巨乳すぎる新入社員が社内で〇〇されちゃった件

ナッツアーモンド
恋愛
中高生の時から巨乳すぎることがコンプレックスで悩んでいる、相模S子。新入社員として入った会社でS子を待ち受ける運命とは....。

さくらと遥香

youmery
恋愛
国民的な人気を誇る女性アイドルグループの4期生として活動する、さくらと遥香(=かっきー)。 さくら視点で描かれる、かっきーとの百合恋愛ストーリーです。 ◆あらすじ さくらと遥香は、同じアイドルグループで活動する同期の2人。 さくらは"さくちゃん"、 遥香は名字にちなんで"かっきー"の愛称でメンバーやファンから愛されている。 同期の中で、加入当時から選抜メンバーに選ばれ続けているのはさくらと遥香だけ。 ときに"4期生のダブルエース"とも呼ばれる2人は、お互いに支え合いながら数々の試練を乗り越えてきた。 同期、仲間、戦友、コンビ。 2人の関係を表すにはどんな言葉がふさわしいか。それは2人にしか分からない。 そんな2人の関係に大きな変化が訪れたのは2022年2月、46時間の生配信番組の最中。 イラストを描くのが得意な遥香は、生配信中にメンバー全員の似顔絵を描き上げる企画に挑戦していた。 配信スタジオの一角を使って、休む間も惜しんで似顔絵を描き続ける遥香。 さくらは、眠そうな顔で頑張る遥香の姿を心配そうに見つめていた。 2日目の配信が終わった夜、さくらが遥香の様子を見に行くと誰もいないスタジオで2人きりに。 遥香の力になりたいさくらは、 「私に出来ることがあればなんでも言ってほしい」 と申し出る。 そこで、遥香から目をつむるように言われて待っていると、さくらは唇に柔らかい感触を感じて… ◆章構成と主な展開 ・46時間TV編[完結] (初キス、告白、両想い) ・付き合い始めた2人編[完結] (交際スタート、グループ内での距離感の変化) ・かっきー1st写真集編[完結] (少し大人なキス、肌と肌の触れ合い) ・お泊まり温泉旅行編[完結] (お風呂、もう少し大人な関係へ) ・かっきー2回目のセンター編[完結] (かっきーの誕生日お祝い) ・飛鳥さん卒コン編[完結] (大好きな先輩に2人の関係を伝える) ・さくら1st写真集編[完結] (お風呂で♡♡) ・Wセンター編[完結] (支え合う2人) ※女の子同士のキスやハグといった百合要素があります。抵抗のない方だけお楽しみください。

処理中です...