ペンダントの中の猫時間―失恋OL、時々猫。運命をくしゃみで変えてみせます。―

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第4にゃ‐1 「時の交差点 ― さよならの約束」

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ー[悠真の実家・書庫/夜]ー

屋敷の奥。
静まり返った書庫に、蝋燭の炎が小さく揺れている。
その中央、机の上に二つのペンダントが並んでいた。

ひとつは、悠真の家に代々伝わる家宝。
もうひとつは、みさとが蔵で拾った“同じ形”のペンダント。

ふたつの光が、呼応するように鼓動を刻んでいた。

「これが……時間を越える力の正体?」
みさとが小さく息をのむ。

悠真はゆっくり頷いた。
「祖父が言っていました。“この力は記憶を繋ぐが、代償を奪う”って」

「代償……?」

「持ち主が最後に望んだ“最も大切な記憶”が、永遠に消える」

蝋燭の灯が、音もなく揺れた。
空気の温度が一瞬、下がったように感じる。

(最も大切な記憶……それって――)

みさとの胸がきゅっと締めつけられる。
頭の奥に、あの夜の光景が蘇る。
猫だった自分と、彼の温もり。
“あなたに会うために、何度でも戻るにゃ”――あの言葉。

(……消えるの? それまでの想いが?)

ー[時間の空間]ー

ふいに、部屋が歪む。
光が螺旋のように広がり、
二人は、時間と記憶が交差する空間に立っていた。

まるで、世界がスローモーションになったようだ。
蝋燭の炎が宙に浮かび、
風も音も、何も動かない。

悠真の声だけが、透明に響く。
「みさと……君がいなくなったら、俺は――」

言葉の途中で、みさとは首を振る。

「違うの。
 あたしがいなくなるんじゃない。
 “あたしを知る記憶”が、あなたから消えるの」

彼の表情が苦痛に歪む。
それでも、目をそらさない。

「それでも……それでも、俺は君を忘れたくない」

涙がひと粒、宙に浮く。
止まった時間の中で、それだけが現実のように落ちていく。

(……やっぱり、あなたは優しいにゃ)

猫の時と同じ、あの胸の痛みが広がる。
もう涙は出ない。
ただ、息が、静かに止まりそうだった。

「お願い。
 最後に……あたしから、“さよなら”を言わせて」

ー[光の交差点]ー

ペンダントがふたつ、共鳴する。
光の柱が立ち上がり、時間がほどけていく。
みさとの髪が舞い、空気がひときわ静かになる。

「――あなたに出会えて、幸せだった」

その声が、風と光の中に溶けていく。

悠真が叫ぶ。
「みさと――!」

だが、彼の手は届かない。
光の渦が二人を引き離していく。
世界が再び、動き出す。

ー[現在・書庫/夜明け前]ー

気づけば、書庫は元の静けさを取り戻していた。
机の上には、ひとつのペンダントだけが残っている。

悠真は膝をつき、震える指でそれを拾った。

「……どうして、涙が出るんだろう」

彼はそう呟く。
胸の奥が、得体の知れない温かさで満たされていた。

何か、大切な人がいたような気がする。
けれど、名前も顔も思い出せない。

ただ、
朝焼けの匂いの中で、
鈴の音が小さく響いた。

ー[余韻]ー

風がカーテンを揺らす。
朝日が差し込み、埃の粒が光に踊る。

悠真の頬を、涙が一筋伝った。

「……ありがとう。誰か……」

その声に応えるように、
ペンダントの奥から微かな声が響いた。

「――また、会うにゃ」

鈴の音。
それが、永遠の約束の合図だった。

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