ペンダントの中の猫時間―失恋OL、時々猫。運命をくしゃみで変えてみせます。―

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第5にゃ‐2 鈴音と記憶の断片

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(第5章 輪廻の記憶 ― 君に還る道)

ー[街角カフェ・夕暮れ前]ー

一日の終わりを告げる光が、
窓ガラスを橙に染めていた。

みさとは、手の中のカップを見つめていた。
ラテの泡がゆっくりと沈み、
静かな模様を描いては消えていく。

「……また、鳴ったんです」
ペンダントを指先で押さえながら、彼女は笑う。

悠真が首をかしげた。
「鈴の音?」

「はい。風がなくても、ふとした瞬間に。
 しかもあなたといる時だけ、必ず」

悠真は少し驚いた顔をした。
自分も同じ経験をしていた。
ただ、それを言葉にするのが怖かった。
(もし、同じ音を聞いているなら……これは偶然じゃない)

「……僕も、聞こえるんです。
 あなたの声と一緒に」

みさとの瞳が見開かれる。
「わたしの……声?」

「ええ。夢の中で……猫の鳴き声のような、
 でもどこか人の言葉みたいで……
 “また会えたにゃ”って」

一瞬、時が止まった。

カフェの音が遠ざかる。
世界の輪郭がぼやける。
その声――確かに、聞き覚えがあった。

(“また会えたにゃ”……どうして)

ー[みさとの内面視点]ー

胸が熱くなる。
思い出そうとすると、光の幕が立ちはだかる。
何かが、確かにあった。
誰かと笑い合い、涙を流し、
その度に鈴の音が鳴っていた――そんな感覚だけが残っている。

ちりん。

再び、ペンダントが鳴いた。
その音が彼女の涙腺を刺激する。

「どうしたんですか?」
悠真の声が柔らかく届く。

「……わからないの。
 涙が、止まらなくて」

涙が一筋、頬を伝い落ちる。
その瞬間、彼女の視界に一瞬の光景が閃いた。

ー白い毛並み。
ー温かい掌。
ー“あなたに会うために、何度でも戻るにゃ”

(……誰の、声……?)

ー[記憶の断片空間]ー

カフェの音が完全に消える。
視界が白に包まれ、
鈴の音だけが響く。

その中で、猫の姿がゆっくりと歩み寄る。
首元で光る鈴が、淡く揺れていた。

「忘れても、いい。
 でも、想いは消えないにゃ」

声と共に、光がみさとの胸に流れ込んだ。
温かくて、少し切ない。
目を閉じると、そこには悠真の笑顔があった――。

ー[現実・カフェに戻る]ー

「みさとさん?」
悠真の声に、彼女ははっと我に返る。

手の中のペンダントが、まだ微かに震えていた。
けれど、さっきまでの涙はもう乾いている。

「……夢、見てたみたい」
「どんな夢ですか?」

「……猫が、笑ってた。
 でも、泣いてたようにも見えたの」

悠真は何も言わなかった。
ただ、窓の外に目を向ける。

夕陽の中で、二人の影が少しだけ重なっていた。

ー[余韻]ー

外の風が、ドアベルを鳴らした。
――ちりん。

その音に合わせて、みさとはぽつりと口からもらした。

「……忘れたくない、気がする」

悠真は静かに頷いた。
「じゃあ、もう一度思い出しましょう。
 ふたりで」

鈴の音が、二人の間でそっと重なった。

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