俺この戦争が終わったら結婚するんだけど、思ってたより戦争が終わってくれない

筧千里

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会議

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「第一師団も第二師団も、大分損耗したな」

 天幕。
 それぞれの師団長、そして大隊長だけが招集を受け、臨時の会議が開かれた。
 当然ながらそれは、先の反省と現状の把握と情報共有、それに今後の攻め方や動き方について話し合う場だ。そして、本来大隊長以外は参加できない場ではあるものの、俺はデュラン将軍に直談判して、副官であるレインの参加を認めてもらっている。
 そして、そんな会議の始まりが、デュラン将軍の溜息と共に発した言葉だった。

「第一師団の損害は?」

「は。『切り込み隊』三百六名、『弓矢隊』九十二名、『遊撃隊』十五名が戦死。『切り込み隊』二百八十名、『弓矢隊』百六十名、『遊撃隊』七十二名が負傷につき戦闘継続困難となっております」

 淡々と答えるのは、老齢の男――第一師団長レーツェル・フランク。歴戦の軍人であり、デュラン将軍の右腕とも称される男だ。齢七十を超えながらにして、未だに衰えていない体をしている老人である。
 そして、淡々と答えてはいるが内心では怒りが渦巻いていることだろう。何せ、『切り込み隊』に至っては三百人もの被害を出しているのだから。

「第二師団の損害は?」

「うちも似たようなもんですよ。『切り込み隊』二百六十名、『弓矢隊』八十名、『遊撃隊』二名が戦死。負傷者は、全軍合わせて三百二十名ですね」

 肩をすくめながら答えるのは、長い黒髪の中年男性――第二師団長ハンス・クラウザーだ。飄々とした様子ではあるが、それでも師団長となるだけの功績を重ね、自らも最前線で戦う師団長である。
 こちらも、態度としてはそれほど重たくはないけれど、内心忸怩たる想いだろう。

「……第三師団の損害は?」

「第三師団は竜尾谷を抜けましたが、戦死はゼロです。『弓矢隊』のみ、十七名の負傷者が出ました」

「ああ……まさか、最も厳しい場所を任せた師団が、最も被害が軽いとはな……」

 第三師団長、マティルダ・ツィーグラー。俺が所属する、第三師団の師団長だ。
 元々は俺が所属していた『弓矢隊』の隊長であり、何度となく俺を死地へ連れて行ってくれた人物でもある。全ての師団長の中で最も若く、まだ三十過ぎだ。その美しい姿から、第三師団の中でも信者が大勢いるとか。
 まぁ、そのせいで第三師団に異動したいという声が多くて困る、という話を聞いたけれど。残念ながら『切り込み隊』、死なないんで空かないんです。

「今回の戦においては、工作班が先にこちら側からの山への抜け道を作っておいたのだが、それが露見していたらしい。そのせいで、抜け道から出た途端に敵軍に襲われる羽目になり、敵の本軍に辿り着くまで時間を要した。竜尾谷での矢が激しかったのも、それが最大の理由だ」

「……」

 大体、予想通りである。
 まぁスムーズに進んでりゃ、あんなに矢降ってこないもんな。

「将軍閣下、発言をよろしいでしょうか」

「許そう、ツィーグラー師団長」

 唐突に、そう声を上げたのはマティルダ師団長。
 ガーランド帝国軍における十の師団長のうち、二名しかいない女性師団長の一人であり、師団長の中でも最も若い。そのため、軍の外からはアイドルのように扱われているのだとか。
 もっとも、綺麗とか可愛いとか、そんな言葉は下についた瞬間出てこなくなるだろう。マティルダ師団長、訓練めっちゃ厳しいし。

「今回の竜尾谷突破ですが……もしも第三師団が担当していなければ、竜尾谷を進んだ師団は壊滅していた可能性があります」

「ふむ……」

「ツィーグラー師団長、それは出過ぎた発言であろう。自分の師団が功績を挙げたからといって……」

「フランク師団長、意見を許可した覚えはないが」

「……失礼しました。将軍閣下、発言をよろしいでしょうか」

「却下だ。ツィーグラー師団長、続けたまえ」

 口を挟んできた第一師団長を、デュラン将軍が窘める。
 ただ、どうしてマティルダ師団長、あんなこと言い出したんだろう。普段は別に、そんなに功績とか気にしない人なのに。

「今回、竜尾谷を第三師団が戦死者なしで通過することができた最大の理由は、第三師団『切り込み隊』隊長、ギルフォードの功績です」

「……っ!」

「彼が先頭にいなければ、恐らくもっと被害は広がっていたでしょう。ただでさえ上方の防御を続けなければならないというのに、前方から押し寄せる敵軍にも対処しなければならない。本来、その状況を打破するための工作でした。だというのに、それはほぼ機能しなかった」

「ふむ」

「ギルフォードが先陣を切って武を示してくれたからこそ、此度の突破があります。もしも第三師団でなければ……いいえ、ギルフォードでなければ、負けていた戦かもしれません」

 いやいやいや。
 さすがにマティルダ姐さん、それ言い過ぎっすよ。
 というか、こんな場でそんなに俺を褒め称えてどうするっての。俺褒めても銅貨一枚も出ないよ。
 そして俺の横でレイン、ふふん隊長は最強なのです、って感じでドヤ顔してんじゃないよ。

「ゆえに、将軍閣下。第三師団『切り込み隊』大隊長ギルフォードに、勲章と報奨金の授与をご検討いただきたい」

「良かろう。陛下に奏上しておく」

「ありがとうございます」

「ただし、この戦の後だ。竜尾谷を抜けることができたからといって、アリオス王都を落とせませんでした、では話にならん。まずは、アリオス王都を落とし、その後此度の戦功について陛下に奏上しよう」

「承知いたしました」

 なんか、俺に勲章授与とか勝手に決まってる。
 まぁ、報奨金は素直に嬉しい。それだけ、派手な結婚式にできるだろうし。
 ただ、マティルダ師団長がちらっとこっちを見た。これでいいだろう、とばかりに。
 いや俺、別にそんなん望んでないんですけども。

「では、今後の話に移るとしよう。これより我らは、アリオス王国の王都に向けて進軍する。相手は王都ではあるが、アリオス王国は恐らく決戦の地を竜尾谷と考えていたはずだ。残存兵はそれほど多くない。真正面から攻め込み、城攻めを行う」

「はっ」

「明日の朝に出発し、夜にはアリオス王都に到着するはずだ。その後全軍を休め、翌日の朝より城攻めを行う。では以上、解散とする」

「はっ!」

 うん、結局。
 この会議で話したことって。
 俺が勲章貰えるかもしれない、ってことだけじゃね?
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