俺この戦争が終わったら結婚するんだけど、思ってたより戦争が終わってくれない

筧千里

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故郷への一時帰還

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「ふぅ……」

 都合、九ヶ月ほど戦場に滞在し続け、俺はようやくガーランド帝国へと帰ってきた。
 そして俺が帰ると共に皇帝陛下に呼び出しを受け、何やら玉座の間で色々言われた。言われたといってもお説教というわけではなく、純粋に俺の功績に対しての賞賛の言葉だ。
 さらに勲章を合計七つ貰い受け、それこそ革袋の中に大量の金貨――報奨金を貰い受けた。こんなに俺に渡していいのか、って思うくらいに大量に。

 まぁ、金というのは貯め込んでいても意味がない。
 さすがに兵卒の生涯年収ほどもあるという話だし、別にけちる必要はないだろう――そう考えて、俺は『切り込み隊』の部下たち全員で街に繰り出して、支払いを全部俺が行うという形で還元した。幾つかの酒場を占拠し、飲めや歌えや騒げやで朝まで盛り上がった。あと、若い奴には色街も奢ってやった。
 多少目減りしたが、それでも大量に金貨は残っている。というか、アンナは兵卒の生涯年収だと言っていたし、俺今後一切働かなくてもいいんじゃなかろうか。

 そして現在俺は、故郷に戻っている。
 冬将軍の到来は、まだもう少し先だ。既に畑の繁忙期は終わっているようで、ジュリアの畑――そこには、何も植えられていない。
 ごんごん、と俺はそんな畑の近くにある、ジュリアの家――その扉を叩く。

「はい……?」

「ジュリア、ただいま!」

「えっ、ギル……?」

 出てきたジュリアを、抱きしめる。
 勿論、俺が全力で抱きしめたら兵士の腰の骨を折っちゃうから、手加減してだ。それでも、長く会えなかった日々を惜しむように、俺はジュリアの体温を全身で味わう。

「良かった……ギル、帰ってきてくれたの?」

「ああ。少し、休暇を貰ったんだ。また、帝都に戻らなくちゃならないんだけど」

「えっ……」

 俺の言葉に対して、ジュリアが眉を上げる。

「もう、除隊したんじゃないの?」

「ああ……まだ、戦争が続くらしくてな。詳しい話は、中でやってもいいか?」

「あ、うん。寒いよね。入って」

「ああ」

 ジュリアと共に、家の中へ。
 元々はジュリアと両親が暮らしていたこの家は、現在ジュリアが一人暮らしをしている家でもある。そのため結婚した後には、俺も一緒にこの家に住む予定だ。
 俺としては早く除隊して、ジュリアと共に両親の遺した畑を守りながら、のんびり暮らしていきたいところではあるんだけど。

「でも、驚いたわ、ギル。帰ってくるなら、連絡の一つくらいしてくれたら良かったのに」

「ジュリアを驚かせたかったんだよ。それに帰るって文を書いても、この時期だと街に出ないし、次に手紙が届くのは春先だろ? だから、もう直接帰ってきたんだ」

「そっか。もう……ギルが帰ってくるって分かってたら、色々ご馳走作ったのに。今日、わたししか食べないと思ってたから、すっごい手抜きの夕食なの……」

「ジュリアが作ってくれたら、何だって美味しいさ」

 ジュリアの謙遜に対して、俺はそう告げる。
 これは事実だ。ジュリアは料理が上手で、俺なんて足元にも及ばない。

「それじゃ、用意するから手を洗って待ってて」

「ああ」

 ジュリア――未来の妻と共にする、夕食の席。
 その響きだけで、俺は酒も飲んでいないのに酔いそうだった。













「それじゃ、ライオス帝国とは今、講和を結んだの?」

「ああ。今のところ、和平って形だ。でも、お互いに分かってるよ。この講和は、冬を越えるまでになる。春先になったら、またガーランドは軍を動かすってな」

「……じゃあまた、春には戦場に行っちゃうのね。それまで、ここでゆっくりできるの?」

「いや、冬の間も訓練があるし、色々やらなきゃいけないことがあるんだ。だから三日後には帝都に戻らなきゃいけないし、次に来れるのは春前だと思う。それまでは……寂しい思いをさせるけど」

「うん……大丈夫」

 寂しげな笑顔で、ジュリアがそう言ってくる。
 その表情に、俺は今すぐ除隊したい気持ちを堪える。出来ることなら、今すぐ軍の方に辞表を送って、このままこの村でジュリアと共に暮らしていきたい。
 だけれど、俺は『切り込み隊』の隊長だ。俺が率いる第三師団『切り込み隊』の新しい隊長に、引き継ぎも行わなければならない。今のところ新しい隊長に誰がなるという話は聞いていないけれど、その責任は果たさなければならないのだ。

「ごめんな……もう少しの辛抱だから。絶対に、俺は帰ってくるから」

「うん……」

「あ、そうだ。軍から報奨金を貰ったんだ。俺が持ってても使いどころがないし、ここに置いてっていいか?」

「そうなの? うん……分かった」

「生活費とか足りなかったら、勝手に使っていいからさ」

 どさっ、と俺は革袋を差し出す。
 その中に入っている大量の金貨に、ジュリアは思いきり目を丸くしていた。

「……こ、こんな大金?」

「数えてないけど……金貨七百枚くらいは入ってるはずだ」

「本当に……ギルは、大活躍してるんだね……」

 すっ、とジュリアが顔を伏せる。

「あのさ、ギル……」

「うん?」

「本当に……除隊していいの? ギルがこんなにも活躍してるってことは、軍の人から止められるんじゃないの?」

「あ、あー……」

 ジュリアの懸念は、まぁ分かる。
 実際俺は総将軍に、どうにか軍に残ってはくれないかと何度か言われた。だけれど、俺は固辞したのだ。この戦争が終わったら除隊します、と。
 まぁ結果的に戦争終わってねぇから、まだ除隊できねぇんだけどさ!

「ジュリア。これは、俺の選んだ道だ」

 だから俺は、強くそう答える。
 俺は、この道を選んだ。その選択に、後悔はしていない。

「俺は、ジュリアを支えていきたいと思った。軍人を続けるよりも、ジュリアと一緒に年を取っていく方がいいって、そう思えたんだ」

「ギル……」

「だから、待っていてほしい」

「ええ……それは、勿論」

 ふふっ、と頷くジュリア。
 ああ可愛い。結婚したい。あ、結婚するんだったわ。

「あのね、ギル」

 しかしそこで、そっとジュリアが俺にしな垂れかかってきた。
 え、待って何これ。俺何の心の準備もしていないんだけど。なんか俺の右腕に、ジュリアが体を預けてんだけど。ちょっと柔らかいものが当たってる気がするんだけど。
 ええとこれ抱きしめてもいいやつ? いいやつだよな?

「お願いが、あるんだけど」

「お、お願い? どうしたんだ?」

「うん……あのね、ギル。一人だと、この家は……広くて、寂しいの」

「あ、ああ……」

 まぁ確かに、両親と一緒に住んでいた家だ。
 空き部屋もあるし、寂しいのは間違いないだろう。

「だから、ギル」

「あ、ああ……?」

「わたしたちの……家族を、増やそ?」













 その夜に何があったかは、具体的には言わない。
 ただ、一つだけ自慢させてくれ。

 超良かった。
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